小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

2020-01-01から1年間の記事一覧

エールリヒアとアナプラズマ感染症

Erlichiasis and anaplasmosis 病原体 Anaplasmataceae科は、リケッチアに分類される。Anaplasma, Ehrlichia, Neorickettsia, “Candidatus Neoehrlichia”の4つの属がヒトに感染を起こすことが知られている。Anaplasmaの4種、Ehrlichiaの5種がヒトに感染する…

8歳未満でもドキシサイクリン使用可能(Red Book 2018)

ミノマイシンなどのテトラサイクリン系抗菌薬は、歯牙黄染が副作用として知られており、8歳未満の小児への使用が禁忌です。しかし、テトラサイクリン系であるドキシサイクリンは、カルシウムへ結合する割合が低く、歯牙黄染のリスクが低いのではないかと考え…

小児の結核性髄膜炎を示唆する所見 

A Diagnostic Rule for Tuberculous Meningitis Arch Dis Child. 1999;81:221. 日本では小児の結核性髄膜炎はまれですが、タイやベトナムの病院では、原因不明の髄膜炎では当たり前のように、結核性髄膜炎を疑って、治療をしていました。少し古い論文ですが…

小児の潜在性結核感染症(Uptodateのまとめ)

小児の潜在性結核感染症(LTBI)は、直近で感染したパターンが多く、何十年も前に感染していることが多い成人とは対照的である。2−4歳未満の小児は、播種性結核や結核性髄膜炎などに進展するリスクが高い。小児において活動性結核は、ほとんどが感染後2−12ヶ…

小児結核の検査について

Laboratory Diagnosis of Mycobacterium Tuberculosis Infection and Disease in Children J Clin Microbien. 2016;54:1434-1441. 小児結核の検査のレビュー記事です。 成人では、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)に感染しても、発症する確率は生涯を通し…

コロナウイルス感染が川崎病の原因となるか?

ニューヨークでCovid-19罹患後に川崎病に類似した症状を呈するトキシックショック症候群の報告が増加している。コロナウイルス感染後の免疫異常が背景にあるのでは無いかと推定されているが、現時点では学術誌には掲載されていない。しかし、別のコロナウイ…

繰り返す頸部感染・甲状腺感染(特に左側)を見たら、梨状窩瘻を考える

小児科医として知っておきたい点は、「繰り返す頸部感染・甲状腺感染(特に左側)を見たら、梨状窩瘻を考える」ことです。 Diagnosis and Management of Pyriform Sinus Fistula: Experience in 48 Cases J Pediatric Surgery. 2014;49(3):455-9. 目的:梨状…

Autoimmune lymphoproliferative syndrome(ALPS)のまとめ

血球減少(溶血性貧血や血小板減少性紫斑病)にリンパ節腫脹・肝脾腫を合併している場合には、ALPSの可能性を考慮する必要があります。リンパ節腫脹で紹介される患者さんも多いので、疾患についてまとめました。 Autoimmune lymphoproliferative syndrome (A…

非結核性抗酸菌によるリンパ節炎は外科的切除が望ましい

引き続きNTMによるリンパ節炎の研究です。 現時点でNTMリンパ節炎の最も詳細なレビューだと思われます。 The Management of Non-Tuberculous Cervicofacial Lymphadenitis in Children: A Systematic Review and Meta-Analysis Zimmermann P, et al. J Infec…

BCGによる非結核性抗酸菌症の予防効果はかなり高い

BCGワクチンがCovid-19を予防するのでは無いかと世間では言われています。真偽のほどは、まだ分かりません。もともとは乳児の重症結核を予防するのがBCGの役割でしたが、非結核性抗酸菌症によるリンパ節炎やBuruli潰瘍の予防にも有効です。 Does BCG Vaccina…

小児の造血幹細胞移植後の菌血症の危険因子の検討

Microbiology and Risk Factors for Hospital-Associated Bloodstream Infections Among Pediatric Hematopoietic Stem Cell Transplant Recipients Open Forum Infect Dis. 2020;7(4):ofaa093. Duke大学からの報告です。小児の造血幹細胞移植後の菌血症の検…

成人の川崎病は冠動脈病変合併例が多い

小児ではコモンな川崎病も、成人発症例は診断されるまで時間がかかり、冠動脈病変の残存や心筋梗塞が多いようです。 Kawasaki disease in adults: Observations in France and literature review Autoimmun Rev. 2016;15(3): 242-9. 目的:川崎病は、小児に…

新生児の重症Covid-19症例

主に重症患者を担当している小児病院はこのようなケースに対応する必要が出てくるのかもしれません。 Late-Onset Neonatal Sepsis in a Patient with Covid-19 N Engl J Med Apr 22, 2020. 無料アクセス可能 (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2…

顔面神経麻痺を伴う外耳道炎は「悪性外耳道炎」を疑う

悪性外耳道炎のポイント ・起炎菌は、ほとんど緑膿菌 ・高齢DM患者に多いが、免疫不全の小児でも起こしうる ・進行すると、顔面神経麻痺、頭蓋底骨髄炎を起こすので、早期診断と治療が重要 悪性外耳道炎Uptodateまとめ はじめに 悪性外耳道炎は、外耳道と頭…

アライグマを飼育している人の頭痛・視力低下には要注意

マニアックな話題で恐縮です。 アライグマに寄生するアライグマ回虫がヒトに感染すると幼虫移行症を起こします。 中枢神経に達すると、好酸球性髄膜炎を引き起こし、眼に達すると視神経炎(DUSN)を引き起こします。どちらも致死率や失明率が高い合併症です…

片側性結膜炎+中耳炎はインフルエンザ桿菌によるconjunctivitis-otitis syndrome

Epidemiologic study of conjunctivitis-otitis syndrome Pediatric Infect Dis J. 2005;24:731 50年以上前にCoffeyらにより、中耳炎と化膿性結膜炎にHaemophilus influenzaeが関与しているということが認識された。その後、Bodorらが、conjunctivitis-otiti…

眼科周囲蜂窩織炎のまとめ

Uptodateをまとめました 1.疫学 眼科周囲蜂窩織炎は眼窩蜂窩織炎よりも頻度が高い。87−94%が、眼科周囲蜂窩織炎と診断され、残りの6−13%が眼窩蜂窩織炎である。両疾患とも、成人より小児に多い。両者を鑑別することは、合併症・治療・予後が異なるので、非…

眼窩蜂窩織炎のまとめ

Uptodateを参考にまとめました 概念 眼窩蜂窩織炎は、眼窩内の構造物(脂肪織と筋肉)を含む感染症である。眼窩蜂窩織炎は、失明などの合併症が起きうる重篤な疾患である。 疫学と病態生理 眼窩蜂窩織炎は、若年の小児に多い。細菌性副鼻腔炎のまれな合併症で…

眼窩蜂窩織炎と眼科周囲蜂窩織炎は似ているけど全然違う

Paediatric pre- and post-septal peri-orbital infections are different diseases Int J Pediatric Otorhinolaryngol. 2008;72(3):377 目的:眼窩周囲の感染症は、眼科周囲蜂窩織炎(preseptal cellulitis)と眼窩蜂窩織炎(postseptal cellulitis)に分類され…

口腔内でも無い、食道でも無い、喉頭カンジダは気道閉塞に注意

Management of laryngeal candidiasis: an evidence‑based approach for the otolaryngologist Valente P, et al. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020 Feb 7. PMID:32107617 喉頭カンジダ症(喉頭真菌症)は、糖尿病・悪性腫瘍などの免疫不全者などに発生するこ…

早期VAPの原因菌は感受性が良好なことが多い

人工呼吸器関連肺炎(VAP)の原因菌は、緑膿菌やMRSAなど耐性菌が多いイメージですが、人工呼吸器管理開始後早期(7日以内)であれば、あまり耐性菌がいないという報告です。抗菌薬の適正使用につながるので、Gram染色をして、緑膿菌を外せるか、確認することが…

エリスロマイシン眼軟膏はクラミジア結膜炎を予防しない

多くの施設で、出生したばかりの新生児にエリスロマイシン眼軟膏(かつては点眼液)が塗布されるかと思います。ずっと、クラミジア結膜炎の予防だと思っていたのですが、クラミジア結膜炎を予防する効果は無いんですね。(淋菌性結膜炎は予防します。) 新生児…

鼓膜チューブ留置の患者の耳漏には抗菌薬+ステロイド点耳薬が有効

A Trial of Treatment for Acute Otorrhea in Children with Tympanostomy Tubes van Dongen TM, et al. N Engl J Med. 2014 背景:鼓膜チューブを留置した小児の急性の耳漏のマネージメントに関するガイドラインは、エビデンスが少ない。経口抗菌薬と点耳抗…

COVID-19回復者の血漿による治療

Treatment of 5 Critically Ill Patients with COVID-19 with Convalescent Plasma JAMA. March 27, 2020. doi:10.1001/jama.2020.4783 目的:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による重症の呼吸障害を呈している患者に、回復患者の血漿輸注が有効かを判断…

多発嚢胞を認める耳下腺腫脹はHIV感染症を考える

HIV-associated benign lymphoepithelial cysts of the parotid glands confirmed by HIV-1 p24 antigen immunostaining. Sekikawa Y, et al. BMJ Case Rep. 2017;2017 Epub 2017 Sep 28. Benign lymphoepithelial cystsについて ・HIV患者の1−10%で唾液腺…

インフルエンザウイルスは耳下腺炎の原因となる

「耳下腺炎(おたふく風邪)=ムンプスウイルス」と考えがちですが、実は、ムンプスウイルス以外のウイルスが原因となることもあります。そのため、病院職員で、ムンプス罹患歴があるのにムンプス抗体陰性となる人はたくさんいます。 耳下腺炎の原因として、イ…

多形滲出性紅斑の再発例は単純ヘルペスウイルス(HSV)が多い

Triggers, clinical manifestations, and management of pediatric erythema multiforme: A systematic review Zoghaib S, et al. J Am Acad Dermatol. 2019;81(3):813-822. 多形滲出性紅斑(EM)は、小児でも時々見ることがある皮膚粘膜の急性の炎症です。小…

自衛隊中央病院でのCOVID-19対応の詳細

自衛隊中央病院のHPに掲載されたCOVID-19対応です。 これまでに日本語で出た報告の中で、最も素晴らしいケースシリーズでは無いかと思います。必読です。 自衛隊中央病院では、ダイアモンド・プリンセス号船内感染症例と都内で発症した症例の112例を受け入れ…

小児の新型コロナウイルス感染症171例の臨床像(NEJM)

SARS-CoV-2 Infection in Children X Lu, et al. N Engl J Med. 2020 March 18 中国で発症したCOVID-19感染症患者72,314名のレビューが中国CDCのから発表された。10歳未満の小児例は全体の1%未満と少なかった。小児のCOVID-19感染症の臨床像を明らかにする…

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の小児例が重症化する割合は0.6%

Epidemiological Characteristics of 2143 Pediatric Patients With 2019 Coronavirus Disease in China. Dong Y, et al. Pediatrics. 2020 (Pre-publication) 中国CDCに報告された2143例の小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象とした研究です。…