小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

眼科周囲蜂窩織炎のまとめ

Uptodateをまとめました
 
1.疫学
 眼科周囲蜂窩織炎は眼窩蜂窩織炎よりも頻度が高い。87−94%が、眼科周囲蜂窩織炎と診断され、残りの6−13%が眼窩蜂窩織炎である。両疾患とも、成人より小児に多い。両者を鑑別することは、合併症・治療・予後が異なるので、非常に重要である。
 
2.病態生理
 眼科周囲蜂窩織炎の原因は、副鼻腔炎が最も多いが、それ以外にも、外傷、虫刺症、動物咬傷、異物などが原因になる。眼科周囲蜂窩織炎から、菌血症を来すことは稀である。
 
3.微生物学的特徴
 血液培養は通常陰性なので、原因微生物についての検討は少ない。これまでの研究も鼻腔や副鼻腔からの培養を参考に起炎菌を決めており、真の原因菌でない可能性もある。これまでの研究では、S. aureus, S. pneumoniae, streptococci, anaerobesが原因となる。発症機序により原因も異なる。例えば、外傷が原因であれば、S. aureusが多い。副鼻腔炎が原因なら、S. pneumoniae、β溶血性連鎖球菌が多くなる。
 S. aureusについては、市中型MRSAが増加している。かつては、小児の眼科周囲蜂窩織炎は、H. influenzaeが多かった。しかし、Hibワクチンの普及により、その割合は低下している。まれな起炎菌としては、アシネトバクター、ノカルジア、炭疽菌緑膿菌、淋菌、Proteus、Pasteurella、結核菌、Trichophytonなどが報告されている。
 
4.臨床症状
 眼科周囲蜂窩織炎の患者は、典型的には、片側の眼痛、眼瞼浮腫、発赤が認められる。結膜浮腫(chemosis)も重症例ではみられる。重要なのは、眼窩蜂窩織炎と鑑別を行うことである。眼科周囲蜂窩織炎では、重症合併症は稀である。報告されている合併症は、眼瞼壊死、弱視などである。眼科周囲蜂窩織炎が治療されないと、眼窩蜂窩織炎となるかは明らかではない。
 
5.鑑別診断 
 最重要点は、眼窩蜂窩織炎と鑑別を行うことである。詳しくは後述する。局所アレルギー反応も外見が類似することがあるが、病歴で鑑別できる。アレルギー性の場合には、通常両側性である。麦粒腫、霰粒腫も鑑別であるが、これらは結節性病変がある。
 
6.診断
 普通は、臨床症状で診断される。
 患者には片側性の眼瞼浮腫と発赤がある。副鼻腔炎、虫刺され、外傷などの病歴があれば、より可能性が高くなる。眼窩蜂窩織炎との区別が重要であるが、眼窩蜂窩織炎では以下の所見が見られることが多い。眼球運動障害による複視、眼球運動による疼痛、視力障害、眼瞼下垂である。結膜浮腫は重症の眼科周囲蜂窩織炎でも眼窩蜂窩織炎でも認められる。発熱が無いのは、眼科周囲蜂窩織炎らしいが、眼窩蜂窩織炎でも発熱はないことがある。262例の検討では、眼科周囲蜂窩織炎では発熱は47%、眼窩蜂窩織炎では94%で発熱を認めた。
 診断が不確かなケースでは、眼窩と副鼻腔CT検査が両者の鑑別に有効である。それでも区別がつかない場合には、そうでないとわかるまで眼窩蜂窩織炎として対応する。
 血液検査は必須ではない。血液培養もめったに陽性にならないので、ルーチンには採取しない。しかし、若年小児、発熱者、眼窩蜂窩織炎が否定できない患者では血液培養を採取する。
 
7.治療
 治療に関するランダム化比較試験はない。起炎菌が特定できないことが多いので、経験的治療を行うことがほとんどである。
 成人と1歳以上の小児(軽症):経口抗菌薬で外来治療可能
 1歳未満の小児、重症例:入院加療
 
 選択する抗菌薬は以下である
 (ST合剤またはクリンダマイシン)+(アモキシシリンまたはアモキシシリン・クラブラン酸またはセフポドキシムまたはセフジニル)
 
 かつては、ST合剤やクリンダマイシンは不要であったが、市中MRSAの割合が増加しているために追加が望ましい。
 
8.治療反応性
 有効な抗菌薬が投与されたら、症状は急速に改善する。外来で治療開始24時間の時点で悪化傾向になったり、48時間時点で改善がない場合には、入院して広域抗菌薬による加療を推奨する。
 
9.治療期間
 治療期間に関して検討された大規模研究はない。筆者らは5−7日間を推奨する。治療終了時点でも症状が残存する場合には、治療期間を延長する。
 
10.再発
 再発はまれである。再発症例は、基礎疾患があることがある。環境アレルギー、反復性副鼻腔炎HSV感染症接触性皮膚炎、ミュンヒハウゼン症候群などが報告されている。副鼻腔の解剖学的異常も反復する原因となる。