小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

2020-01-01から1年間の記事一覧

COVID-19時代に診断・治療が遅れた虫垂炎7例

COVID-19時代に、見逃しては行けないコモンな病気をどうやって確実に診断・治療するか、どのような医療体制を提供するか、非常に難しい問題だと思います。 Delayed diagnosis of paediatric appendicitis during the COVID-19 pandemic Snapiri O, et al. Ac…

鼻腔MRSA保菌はMRSA感染症のnegative predictive valueが高い

入院患者全員に鼻腔MRSAスクリーニングを行って、入院後に生じた感染症にMRSAが関与したか(実際には入院後にMRSA培養が他の部位の培養から検出されたか)を調べた研究です。MRSA非保菌者が、入院7日以内にMRSA感染症を起こすことはほとんどありませんでした…

COVID-19の小児感染症の視点

小児のCOVID-19の特徴を詳細に解説したreviewです。Pre-printです。 臨床的に重要と思われる点に、アンダーラインを付けました。 個人的には、「COVID-19の小児例の殆どが家庭内の成人から感染している」という点は、重要と思います。どの疾患でもそうですが…

小児の黄色ブドウ球菌菌血症の治療戦略

Pediatricsから小児の黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)に関するレビューが出ました。非常に重要な論文なので、ほとんど全文を訳しました。 感染症に詳しくない先生もこれだけは知っておいて下さい 「血液培養から出た黄色ブドウ球菌は、(ほぼ)すべて本物の菌血…

RSウイルスワクチンは十分な効果を示せず

RSウイルスに対するFプロテインナノ粒子ワクチンの効果に関する報告です。 妊娠中の母体に接種し、移行抗体で児を守るワクチンですが、有意な効果を示すことができませんでした。対象の多くが、基礎疾患のない正規産児であったため、RSウイルスの重症化がも…

Clin Infect Disの表紙がCovid-19

いつもは、論文の紹介をしていますが、今回はジャーナルの表紙のご紹介です。 Clinical Infectious Diseases Volume 51, Issue 15, 1 August 2020の表紙 いつも感染症に関連する絵画が紹介されていますが、ついにCovid-19が紹介されました。 Doctors 20、202…

小児の新型コロナウイルス感染症の約半分は共感染あり

中国からの報告です。小児のCOVID-19の患者を対象に、他の病原体が共感染しているかを検討した報告です。約半数の症例でマイコプラズマなどの共感染が認められ、一つの病原体が検出されたからと言って、新型コロナウイルスを否定できるものではないというこ…

ペニシリンアレルギーの脱ラベルもASTの重要な活動

何年も前にカルテに書かれた「ペニシリンアレルギーあり」の記載のために、ペニシリンが使えない患者さんは、結構たくさんいます。しかし、本来はペニシリンアレルギーではなく安全に使えるのに、リスクを考慮して、使用しないことがほとんどです。しかし、…

小児の肺炎は(やっぱり)細菌性肺炎の方が多いのではないか

台湾の8つの病院(大学病院がメイン)で実施された小児の市中肺炎の原因微生物に関する研究です。以前NEJMで、ウイルス性が多いことが報告されていましたが、臨床をしていると、この台湾からの報告のほうが、納得できる気がします。 Characteristics and eti…

非溶血性のB群連鎖球菌には気をつけようう

手前味噌で恐縮です。 当施設と群馬県衛生環境研究所、国立感染症研究所の先生との共著で、非溶血性B群連鎖球菌による新生児の髄膜炎・菌血症の報告がpublishされました。 B群連鎖球菌の3%程度は溶血しないタイプの株であることがわかっており、通常、病原…

緑膿菌の薬剤耐性機構について (Mandellのまとめ)

緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)は薬剤耐性が問題になることが多く、抗菌薬適正使用がなされている病院では抗菌薬の感受性が良好で、そうでない病院では感受性が悪い傾向があります。一方で、地道な抗菌薬適正使用の活動により、広域抗菌薬の使用が減ると、…

小児におけるダプトマイシンのエビデンスのまとめ

ダプトマイシンは、成人においては、重症MRSA感染症の重要な治療薬となり、国内のガイドラインでは菌血症の第一選択薬としてバンコマイシンと併記されています。しかし、小児において(特に乳児)は、動物実験での副作用の懸念、使用経験の少なさから、保険…

小児心臓外科手術後のICU acquired weaknessは頻度も高く背景心疾患と筋弛緩薬の長期使用がリスク

小児先天性心疾患手術後患者におけるICU-acquired weaknessの発症状況と そのリスク因子 日集中雑誌 2020; 27: 267-72. 当院のリハビリテーション課から、小児心臓手術後のICU-acquired weakness (ICU-AW)の発症状況とリスク因子をまとめた発表です。ICU-AW…

筋緊張性ジストロフィーと低ガンマグロブリン血症

IgG deficiency and expansion of CTG repeats in myotonic dystrophy Kaminsky P, et al. Clin Neurol Neurosurg. 2011; 113(6): 464-8. 目的:筋緊張性ジストロフィー(DM1)においてCTGリピート回数は、多くの遺伝子の発現を制御する。DM1患者において、多…

沖縄の小児レプトスピラ症とレプトスピラ症の治療

沖縄からの小児レプトスピラの報告です。 トライアスロンで感染者が出たことなどで有名なレプトスピラですが、沖縄では小児例の報告も結構あることに驚きました。 「沖縄のレプトスピラ症は、8−9月に、川で遊泳した10代男児に多い。」 Childhood leptospiros…

B型肝炎母児感染予防の日米の違い

注意:Facebookでご指摘を受けて、一部修正しました。 B型肝炎の母児感染予防策は、確実に実施できたら有効性が非常に高いです。 2013年から、日本小児科学会の指針が変更され、国際方式になりました。 (http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/HBV20131218.…

小児の精巣上体炎はほとんど細菌感染ではない

小児と成人(思春期以降)では、精巣上体炎の原因が大きく異なります。 小児の精巣上体炎の原因は多くははっきりしないのですが、少なくとも細菌感染は稀であるという論文です。 Are antibiotics necessary for pediatric epididymitis? Santillanes G, et a…

腸チフスワクチンの使い分け

海外渡航に行く時に、やっておいた方が良いワクチンに、腸チフスワクチンがあります。私も、東南アジアに行く時に、TYPHIM Viを接種しました。いまは、結合型ワクチンが開発され、より有効性が高くなっています。 日本でも一部のトラベルクリニックで接種可…

新生児の早発型敗血症(early-onset sepsis)における血液培養陽転までの時間(time to positivity)の検討

新生児の敗血症は、症状がわかりにくいため、どうしても抗菌薬投与が長くなりがちです。血液培養が陽性になっていなくても、抗菌薬を止めにくいのが現状です。本研究では、新生児の早発型敗血症において、血液培養が陽転するまでの時間を検討しました。臨床…

手指の表層感染症

Acute hand infections Am Fam Physician. 2019;99(4):228-236. (https://www.aafp.org/afp/2019/0215/p228.html) 手指の感染症のまとめです よく見る表層感染の部分をまとめました (1)爪周囲炎 (acute paronychia) (2)ひょう疽(felon) (3)ヘルペス…

EBウイルスが起こす皮膚症状(後半)

多形滲出性紅斑 多形滲出性紅斑(EM)は、急性発症の自然治癒する皮疹で、典型的には、ターゲット状の皮疹を呈し、粘膜病変を伴うことがある。ウイルス感染後の過敏反応と考えられている。半分程度の症例では、原因薬剤や原因微生物が不明である。IMや慢性EB…

EBウイルスが起こす皮膚症状(前半)

EBウイルス感染としては典型的ではない皮疹の患者さんを見たのでまとめました。 Epstein-Barr virus and skin manifestations in childhood Di Lernia V, et al. Int J Dermatol. 2013;52:1177-84 EBVは、ヒトのB細胞に感染するヘルペスウイルス属のウイルス…

川崎病のオリジナル論文

指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群 アレルギー 1967;16(3):178-222 1967年に、川崎富作先生が発表した急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群の50例の報告です。川崎病のオリジナル論文は、日本語で発表されたために、海外への認知が遅く…

Borrelia burgdorferi (Lyme病)について

病態生理と免疫 Lyme病は、スピロヘータであるBorrelia burgdorferiによって起こされる疾患である。B. burgdorferiは、らせん状で微好気性菌で、発育は緩徐で、選択培地が培養には必要である。3個の表面蛋白(OspA, OspB, OspC)と41-kdの鞭毛のタンパク質が…

早産児の母が大腸菌保菌者の場合、早発型敗血症(EOS)に注意が必要

当院の小泉先生の論文です。大腸菌は、新生児(特に早産児)にとっては、非常に重篤な感染症を起こします。妊婦のGBSスクリーニングの重要性は確立していますが、大腸菌保菌スクリーニングや予防方法に関しては、これまでほとんど研究がありませんでした。早…

毛細血管拡張性運動失調症と免疫不全

まとめ 「毛細血管拡張性運動失調症(AT)では、高率にガンマグロブリン低下やリンパ球減少が認められる。年齢が上がるにつれて、免疫状態にあまり変化はない。しかし、気道感染症を反復することが、ATでは問題になる。中耳炎や副鼻腔炎など上気道感染の反復…

麻疹の曝露後予防 CDCの推奨

麻疹に対する抗体が証明できない人が、麻疹に曝露した場合には、曝露後予防(post-exposure prophylaxis; PEP)が提供されるか、学校・病院・保育園などの場から隔離をされるべきである。PEPは、感染防御の可能性があり、重症化を防ぐ可能性がある。麻疹に感…

精巣上体炎のまとめ (Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases, Fifth Edition)

精巣上体は、精巣の上極後方に付着する管状の構造物で、精子の貯蔵・成熟を担っている。精巣上体炎は、精巣上体に炎症反応・感染が生じる病態である。 原因・疫学・病態生理 精巣上体炎の正確な疫学データは無いが、性的活動がある思春期と若い成人男子に多…

精巣上体炎はドップラーエコーで診断

Acute Epididymitis in Greek Children: A 3-year Retrospective Study Eur J Pediatr. 2008;167:765-9. 急性陰嚢症は、精巣機能の温存をするために、迅速な診断と必要に応じた外科的治療が必要な疾患である。急性精巣上体炎(acute epididymitis)は、近年、…

PICカテーテル先端は中心静脈に留置したほうが合併症が少ない

PICカテーテルは小児では頻用されます。中心静脈にまで到達させることが難しいことも結構あります。中心静脈に到達しないと、合併症が多くなることを示した少し古い研究です。 (小児科医の本音としては、PICカテーテル先端は中心静脈に留置したほうが良いが…