小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

鼻腔MRSA保菌はMRSA感染症のnegative predictive valueが高い

 入院患者全員に鼻腔MRSAスクリーニングを行って、入院後に生じた感染症MRSAが関与したか(実際には入院後にMRSA培養が他の部位の培養から検出されたか)を調べた研究です。MRSA非保菌者が、入院7日以内にMRSA感染症を起こすことはほとんどありませんでした。そのため、MRSA非保菌者が感染症を起こした場合、MRSAカバーを外しても良いかもと考えられます。
 当院でも、心臓外科術前でMRSAスクリーニングをやっています。MRSA非保菌者がMRSA感染を起こしてしまったケースは少なく、MRSA感染症の多くは、術前保菌が分かっている患者さんが多く、実臨床の感覚とも相違が少ない感じがします。
 
Determining the Utility of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Nares Screening in Antimicrobial Stewardship
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)の疑いがあって治療するかは、多くの抗菌薬治療の基本となるが、治療に関連する副作用もある。退役軍人局(VA)病院では、入院時および転院時に全患者に MRSA の鼻腔内保菌のスクリーニングを行っている。目的は、入院後の培養検体からMRSAが陽性であるかどうかを判断し、MRSAスクリーニングの陰性予測値(NPV)を決定することである。MRSA感染症スクリーニングとしてのNPVが高ければ、抗菌薬適正使用のツールとして利用できる可能性がある。
 
方法
2007年1月1日から 2018年1月1日まで、全国の VA 医療センターで行われた横断的後方視的コホート研究である。鼻腔MRSAスクリーニングを受けた患者のデータはVA Corporate Data Warehouseから取得した。鼻腔スワブ採取から7日以内の培養検体で MRSAの有無を評価した。コホート全体および特定の培養部位のサブグループについて、感度、特異度、陽性予測値、およびNPVを算出した。
 
結果
本研究では、さまざまな部位から561,325回の培養検査が行われた。MRSA陽性の感度および特異度はそれぞれ67.4%および81.2%であった。MRSA感染を除外するためのMRSA鼻腔スクリーニングのNPVは96.5%であった。血流感染症のNPVは96.5%、腹腔内培養は98.6%、呼吸器培養は96.1%、創傷培養は93.1%、泌尿器系培養は99.2%であった.
 
結論
高いNPVを考えると、鼻腔のMRSAスクリーニングは、エンピリック治療において抗MRSA薬を回避し、de-escalationを可能にする抗菌薬適正使用の強力なツールであるかもしれない。
 
 
注意点
・PPVは20-30%程度と低いため、MRSA保菌者がMRSA感染症を発症するという予測には使えない。
MRSAによる呼吸既感染ではNPV 96% であり、「MRSA非保菌者は、院内肺炎でMRSAをカバーしなくて良いかも」という使い方はできるかもしれない。
・問題点としては、今回検出された菌が感染症の原因菌かどうかは言えない。臨床的に感染かどうかも言えない。
・入院期間の長い日本では、入院時にスクリーニングをしても、院内で獲得し、その後、MRSA感染症を発症することも多いので、スクリーニング7日目以降は、どうなのかは気になります。

 

 

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