小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

血液培養は何時間陰性ならOK?

 小児の菌血症の除外には、血液培養が必須です。十分な量が取れない、2セット率が低いなど、成人とは異なる難しさがあります。

 「血培取って、抗菌薬!」というのはよくやりますが、血培が何時間発育しなければ、菌血症は除外できたと言えるでしょうか?通常は、48時間で、真菌だともう少し時間がかかるというのが、Uptodateなどの記載にあります。

 今日紹介するのは2本の論文です。

1本目:元気でリスクのない子は、24時間陰性なら、ほぼ菌血症は否定して大丈夫!(イギリス)

2本目:新生児は36時間、年長児は48時間位で、だいたい90%は陽性になる(フランス)

 血液培養は、血液の採取量などによっても、陽性なるまでの時間が異なるので、なかなか統一化は難しいですね。

 

Excluding Clinically Significant Bacteremia by 24 Hours in Otherwise Well Febrile Children Younger Than 16 Years: A Study of More Than 50,000 Blood Cultures.
Pediatr Infect Dis J. 2019 Sep;38(9):e203-e208. 
 
背景
 経験的静注抗菌薬を投与された小児において、新生児では36時間後、年長児では48時間後に血液培養が陰性であれば抗菌薬継続について再検討を行うことがガイドラインで推奨されている。培養技術の進歩の小児ワクチン接種の拡大を受けて、このテーマを再検討した。併存疾患がなく敗血症の特徴を有さない臨床的に落ち着いた発熱小児患者において、菌血症を除外するまでの時間を評価した。
 
方法
 英国の医療機関で8年間に採取された53,276例の小児血液培養の結果を解析した。
 
結果
 1308例(2.5%)が陽性であった。そのうち、333例(25.5%)から真の菌血症と判断できる病原体が検出された。残りの975例(74.5%)は、汚染菌の可能性が高い、またはリスク因子を有する小児においてのみ感染に関連する菌が検出された。培養から陽性になるまでの時間(TTP)は、333例の真の菌血症が975例の汚染菌/日和見菌よりも有意に短く、真の菌血症の92%が培養開始24時間までに陽性になった。24時間後に退院可能であった小児において、24時間後に病原体が同定されたのは3例のみであった。新生児と年長児では、TTPに有意差はなかった。検体採取から培養開始までの時間の中央値は3時間であった。
 
結論
 併存疾患や敗血症の特徴を有さない全身状態良好に見える小児の発熱患者において、真の菌血症は、血液培養開始24時間で除外できる。本研究は、同様の研究のデータとしては最大規模であり、新生児と年長児を比較したものとしては2例目である。我々の知見は、将来のガイドラインに反映され、より早い抗菌薬の検討と退院が促進されるであろう。
 
Finding significant pathogens in blood cultures in children: Should we set the timer to 36 hours?
J Assoc Med Microbiol Infect Dis Can. 2024 Mar 29;9(1):11-19.
 
背景
 血液培養の陽性化までの時間(TTP)を知ることは、感染巣が不明の菌血症の疑いに対する経験的抗菌薬中止のタイミングを評価するために有用である。
 
方法
 2019年11月1日から2020年10月31日、イースタンオンタリオ小児病院(CHEO)の血液培養陽性の検体を用い、培養開始から陽性までのTTPを調査した。
 
結果
 248例の患者(平均年齢:6.27[SD 6.24]歳)から376検体が血液培養陽性となった。このうち、247株のうち、90株(36.4%)が確定的(DP)病原体(真の菌血症)(TTP中央値 12.75時間)、157株(63.6%)が推定(PP)汚染菌(TTP中央値 24.08時間)であった。培養開始から各時点での血液培養陽性率は、PP汚染菌と比較してDP病原体で有意に高く(ハザード比[HR]1.80[95%CI 1.37, 2.36])、年長児群と比較して生後27日未満の新生児で有意に高かった(HR 1.94[95%CI 1.19, 3.17])。36時間後までの培養陽性率は、3~11歳の年齢群と比較して新生児群(≦生後27日)で有意に高かった(91.7%[95%CI 68.6%, 97.8%]対58.2%[95%CI 46.91%, 68.06%])。
 
結論
 全年齢において、真の菌血症の血液培養陽性例では、汚染菌による血液培養陽性例と比較してTTPが有意に短かった(HR 1.80[95%CI 1.37, 2.36])。新生児では、血液培養の90%が36時間後までに陽性となり、経験的抗菌薬投与の必要性を再評価する時間として36時間が適切と考えられた。生後12ヵ月以上の小児ではTTPが長かったが、これは血液採取量などの他の因子と関連している可能性がある。
 
新生児