小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ほとんどの小児の気道感染では抗菌薬は5日間で良い Give me five!

 子どもに抗菌薬を内服させるのは、本当に大変です。自分の経験でも、しばらくはなんとか飲ませられますが、そのうち嫌がるようになり、なかなか処方された日数をコンプリートするのは困難です。

 感染症には、標準的な治療期間が決まっています。溶連菌の咽頭炎は10日間とか。しかし、最近、治療期間を短くすることが可能であるというエビデンスが増えてきています。今回は、それらのエビデンスをまとめたレビュー記事の紹介です。

 最終的には、「GAS咽頭炎副鼻腔炎も中耳炎も、5日間の治療で良さそう」という方向になりそうです。

 まだ、ガイドラインが改定されたり、一般的なプラクティスになっていない部分はあります。

 GAS咽頭炎に抗菌薬を投与しない、というのはやりすぎとは思いますが、既に急性リウマチ熱(ARF)が稀な疾患になっている現在において、ARFを予防するために10日間のペニシリン系の内服が必要である、というのはやりすぎな気がしています。本文中にも「GAS咽頭炎に対する抗生物質の短期コースと長期コースの有害事象を報告したRCTのメタアナリシス(39研究、14081人)において、高所得国ではARFの症例は報告されていない[33]。」という記載があります。

 

 

 “Give Me Five”: The Case for 5 Days of Antibiotics as the Default Duration for Acute Respiratory Tract Infections

J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Jun 28;13(6):328-333.

 

イントロダクション
 急性呼吸器感染症(ARTIs)は、小児科において最も多くの抗菌薬が処方される疾患である。米国のガイドラインでは、一般的なARTIsに対して10日以上の抗菌薬治療を推奨していますが、5日間の治療が安全で効果的であるというエビデンスが増えています。学術的な刷り込みにより、抗菌薬の長期処方が続いています。この論文では、A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎(GAS)、急性中耳炎(AOM)、急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)に対する短期間の抗菌薬治療を支持するエビデンスを検証しました。

 

 A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎(GAS咽頭炎
 GAS咽頭炎は、主に症状と身体所見によって診断されます。米国では、GAS咽頭炎に対して10日間の治療が一般的ですが、他のガイドラインでは短期間治療や抗菌薬の使用を推奨しない場合もあります。5日間の治療で症状の軽減や感染伝播の防止に効果的であるとする研究もあります。合併症のリスクは、抗菌薬治療の有無に関わらず低く、5日間の治療が推奨されます。

 

急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)
 ABRSは、抗菌薬の長期処方が一般的ですが、確実な診断が難しい疾患です。ガイドラインでは10~14日の治療が推奨されていますが、3~5日の短期間治療でも効果があるという研究もある。合併症のリスクは低く、5日間の治療が推奨されます。

 

急性中耳炎(AOM)
 AOMの標準的な治療期間は、10日間ですが、5日間の治療でも同様の臨床的改善が見られることが示されています。2歳以下では10日間の治療が一般的ですが、その他の年齢層では5日間の治療が推奨されます。

 

その他の考慮事項
 抗菌薬の過剰使用は、耐性菌の発生や薬不足を引き起こす可能性があります。短期間の治療は、患者の遵守率を向上させ、抗菌薬の不適切な使用を減少させる効果があります。特に、抗菌薬の残りを不適切に内服したり、環境汚染を防ぐために、5日間の治療が推奨されます。

 

結論
 抗菌薬治療期間に関するデータの質、遵守率、薬剤の供給状況、および抗菌薬適正使用の目標を考慮すると、急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療の期間を5日間とすることが推奨されます。