小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

黄色ブドウ球菌菌血症では血培2回陰性を確認したら十分(小児)

 以前、成人の感染症を主に診療していたとき、黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)を多く経験しました。程度の差はあれ、どの患者さんも重症で、菌血症がなかなか解消できない(持続菌血症の)患者さんも多く、亡くなられた方もいらっしゃいました。とりあえず「黄色ブドウ球菌やばいし、菌血症はしつこい」という印象を持っていまいた。
 
 小児では、SABはそもそもまれで、もちろん重症ではあるのですが、持続菌血症になることは少なく、成人と様相が異なります。
 
 持続菌血症が解消したことを確認するのは非常に重要なのですが、どこまでやればよいのかについては、小児では指標がありませんでした。テキサス小児病院から、1年間に122名の小児のSAB症例をまとめたという、ハンパねえ患者数のデータが出ました。
 
黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)をみたら、2回の血培陰性を確認する」ことが大事です。
 
Follow-up Blood Cultures in Children With Staphylococcus aureus Bacteremia.
Pediatrics. 2020;146(6) 
 
背景
 黄色ブドウ球菌は、小児の血流感染症でよく見られる病原体である。菌血症がないことを証明するために必要なフォローアップ血液培養(FUBC)の回数については、エビデンスに基づく推奨はない。不必要な血液培養は、偽陽性のリスクを高め、医療費を増加させる。本研究では、持続菌血症および間欠的な血培陽性(FUBCが陰性化した後、再度血培陽性となること)のリスク因子を検討し、小児において菌血症がないことを証明するために必要なFUBCの数を決定する。
 
方法
 2018年にテキサス小児病院で黄色ブドウ球菌菌血症で入院した18歳未満の患者を対象とした。感染巣の診断(中心静脈カテーテル関連血流感染症、骨髄炎、軟部組織感染症、心内膜炎など)と併存疾患が菌血症の持続期間に与える影響を評価した。血培が間欠的に陽性であった患者の特徴と、再陽性になる頻度を検討した。
 
結果
 合計122名の患者が対象となった。菌血症の期間の中央値は1日(四分位範囲:1-2日)であった。菌血症が3日以上持続したのは19例(16%)で、全員が中心静脈カテーテル関連血流感染症,骨髄炎,心内膜炎と診断されていた。間欠的な血培陽性は5%の患者に見られた。2回FUBC陰性の後に血培陽性となった患者は1%未満であった。間欠的な血培陽性は、骨髄炎と心内膜炎に関連していた。
 
結論
 黄色ブドウ球菌菌血症の小児例において、全身状態が改善し、かつ、2回FUBCが陰性であれば、血培を追加する必要はない。
 

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 やはり、半数以上の患者の血培持続期間は1日以内です。ここは成人とかなり異なるところです。
 

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 菌血症の持続期間が長いのは、感染性心内膜炎と骨髄炎です。特に感染性心内膜炎は、手術による感染巣の除去がとても重要であることがよく分かるデータです。(手術しない限りなかなか陰性化しない!)
 
 血培2回陰性を確認した後に、再度、血培陽性になった症例は1例(0.8%)のみでした。この症例は、骨髄炎で、再陽性になった時には、状態が悪化し、ICUに入ったそうです。このような例外を除き、2回陰性確認後は、基本的には、血液培養陽転は稀と言えます。