小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

胆道閉鎖症術後の胆管炎の特徴

 小児では、胆管炎はまれな疾患です。しかし、例外として、胆道閉鎖症術後(葛西手術の術後)と肝移植後は、胆管炎のリスクが高くなります。

 また、胆道閉鎖症術後では、胆管炎を繰り返すと、肝移植が必要となるリスクが増加するため、なんとか、胆管炎を避けたいと、いろいろな方策が行われます。

 

 そもそも胆道閉鎖症は、稀な疾患なので、大規模な研究は多くはないのですが、韓国から胆道閉鎖症術後の胆管炎の臨床研究が出ましたので、紹介します。

 

要点

・葛西手術後、約8割の症例が胆管炎を発症し、多くが繰り返す。

・胆管炎の起炎菌が判明するのは2割強。

・起炎菌は、腸球菌、大腸菌などが多い。

・Gram陽性菌はアンピシリン耐性、Gram陰性菌はセフォタキシム耐性がかなり多い。

 

The Epidemiology and Etiology of Cholangitis After Kasai Portoenterostomy in Patients With Biliary Atresia
J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2020;70:171
 
目的
 胆道閉鎖症に対して葛西手術を行った後の患者の胆管炎の頻度や臨床的な特徴を検討した。さらに、血液培養と腹水から検出された原因微生物の頻度や抗菌薬感受性を検討した。
 
方法
 本研究は、2006から2015年に、韓国のSeverance小児病院で実施された後方視的カルテレビューによる研究である。胆管炎の累積発生率を検討するためKaplan-Meier法を用いた。
 
結果
 160名の患者が対象となった。126名(78.8%)の患者に494回の胆管炎のエピソードがあった。葛西手術後1年、5年での胆管炎の累積発生率は各々75.5%と84.2%であった。76.2%の患者が胆管炎を再発した。起炎菌が判明した胆管炎の累積発生率は、22.1%と23.9%であった。検出された微生物は、Enterococcus faecium (27.7%)、Escherichia coli (14.9%)、Enterobacter cloacae (10.6%)、Klebssiella pneumoniae (8.5%)であった。Gram陽性菌は、アンピシリンとゲンタマイシンへの感受性が低かった(各々42.1%、66.7%)。Gram陰性菌のセフォタキシムへの感受性は38.1%であった。
 
結論
 本研究は、葛西手術後の胆管炎の頻度と特徴に関する最大規模の研究である。Enterococcusは胆管炎の原因微生物として、最も頻度が高く、初期治療薬を選択する上で、検討するべきである。
 

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