小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

術後縦隔炎の予防にムピロシン除菌は有効かもしれない。

 心臓外科の術後の合併症で一番イヤなのは、術後縦隔炎です。重症で、治療期間が長く、(小児では特に)診断が難しいです。主な起炎菌は、黄色ブドウ球菌になります。このスペインからの論文は、縦隔炎をなんとか減らせないかと試みた成人を対象とした研究です。
 
要点
・ムピロシンによる黄色ブドウ球菌除菌を術前に実施すると、術後の黄色ブドウ球菌の縦隔炎が減るかもしれない。
 
Eradication of Staphylococcus aureus Post-Sternotomy Mediastinitis Following the Implementation of Universal Preoperative Nasal Decontamination With Mupirocin: An Interrupted Time-Series Analysis
Clin Infect Dis. 2021;73:1685-92.
 
背景
 黄色ブドウ球菌による術後縦隔炎(PSM)を予防する手段として、術前にムピロシンの鼻腔塗布による除菌(NDM)が提唱されている。しかし、十分な根拠がなく、この方法は一般的には推奨されない。我々は、術前のNDMが黄色ブドウ球菌によるPSMを減らすかを評価することを目的にこの研究を行った。
 
方法
 介入前(1990~2003年)と介入後(2005~2018年)の期間を比較して、我々の施設でinterrupted time-series analysis(中断時系列デザイン)を行った。ロジスティック回帰分析を行い、黄色ブドウ球菌PSMのリスク因子を分析した。
 
結果
 12 236例の開胸手術を解析した(介入前と介入後の期間で、それぞれ6370例[52.1%]と5866例[47.9%])。介入後の期間に推定されたNDM遵守率の平均は90.2%であった。介入後の14年間に発生した黄色ブドウ球菌PSMは127例中4例のみであった(介入前の19.31/1000例に対し、介入後は0.68/1000例、P < 0.0001)。時系列解析の結果、黄色ブドウ球菌PSMは、2005年には1,000例あたり-9.85例(-13.17~-6.5、P < 0.0001)と有意な減少が認められた。されに、その後5年間は減少傾向が維持された。推定される減少率は84.8%(95%信頼区間[CI]、89.25~74.09%)となった。慢性閉塞性肺疾患は,黄色ブドウ球菌PSMの独立した危険因子であった(オッズ比,3.7;95%CI,1.72-7.93)。
 
結論
 本研究から、術前にNDMを実施することで、黄色ブドウ球菌PSMの発生率が有意に低下することが示唆された。
 

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【本研究で用いた除菌方法】
・患者は入院時(通常は手術前日)に、鼻腔培養を提出する。
・入院日から全員にムピロシンの塗布を開始する。
 2%ムピロシン軟膏を1日3回鼻腔内に塗布する。
・鼻腔培養で、黄色ブドウ球菌が陽性なら、5日間使用する。
・培養陰性の場合、結果判明時点でムピロシンを中止する。
 
【他の術前のSSI予防処置】
・全身のシャワー浴:ポピドンヨードとエチルアルコールを用いていたが、2017年にエチルアルコールをクロルヘキシジングルコンに変更した。
・皮膚消毒:2017年にポピドンヨードをクロルヘキシジンに変更した。
・剃毛:2017年に剃刀からバリカンに変更した。
・予防的抗菌薬:1990年〜2001年1月はセファゾリン1gを麻酔導入時、術後2回投与していた。2002年からは、バンコマイシン1g12時間毎+セフォタキシム1g8時間毎を術後48時間まで継続した。
 
 小児の検討ではないですし、ムピロシン使用による耐性菌出現の問題、黄色ブドウ球菌を保菌していない患者にも使用しているなどの問題点はありますが、縦隔炎の発生が多い施設では検討に値するかもしれません。