小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ひっそりと姿を消したインフルエンザウイルスB型の山形系統

 今年は、うちの長男が2回インフルエンザAに感染しました。インフルエンザは、A型とB型の2つの型が流行しますが、A型はH1 pdm09(2009年に出現した新型インフルエンザ)とH3(香港型)の2種類があります。

 B型は、ビクトリア系統と山形系統に分類されますが、今年は山形系統が分離されておりません。

 そのため、今シーズンの日本では、「最高3回インフルエンザに罹患する」可能性があります。

 実は、インフルエンザワクチンは、A型がH1とH3、B型がビクトリア系統と山形系統の合計4種類のウイルス株が使用されております。

国立感染症研究所HPより)

www.niid.go.jp

 

 さて、インフルエンザウイルスB型の山形系統ですが、実は2020年から、世界でほとんど分離されなくなりました。そのため、ワクチンに山形系統を入れなくても良いという議論が出てきています。米国では、来年から、インフルエンザワクチンから山形系統が除かれるようです。

 

The End of B/Yamagata Influenza Transmission - Transitioning from Quadrivalent Vaccines.

N Engl J Med. 2024 Apr 11;390(14):1256-1258. 

 

 1980年代後半に、後方視的分析により、B型インフルエンザウイルスの2つの異なる系統が、流行していたことが明らかになった。1990年代には、B型/山形ウイルスが優勢となり、B型/ビクトリアの分離頻度は低く、山形系統をワクチンに含めることが決定された。
 2000年代に入ると、B型/ビクトリアが再び増加した。その後、両系統の共流行が続き、ある季節や場所では一方の系統が優勢であったが、他の季節や場所では混在して流行した。
 このような状況から、B型の両系統を含む4価ワクチンが開発され、2013年に米国で初めて認可された。B型の2系統の流行は、2011年から2020年までの10年間を通じて続いた。2019-2020年のインフルエンザシーズンでは、世界の多くの地域で、B/Victoria系統が中心に流行した。COVID-19パンデミックの初期には、インフルエンザの伝播は大幅に抑制された。伝播が再開して以来、世界的にB型/Yamagataは、確認されていない。つまり、Yamagata系統は2020年3月以降、実質的に確認されていないことになる。


 B型/山形系統ウイルスの消滅は、インフルエンザワクチンの株構成に関する議論につながっている。例えば、2022年10月、米国では、B型/Yamagata株を継続的に含めることについて懸念を表明した。FDAの代表は、B型/Yamagata株の流行に関する証拠がないにもかかわらず、ワクチンに継続的に組み込んでいることについてのVRBPACの懸念を説明した。世界の規制機関の代表は、3価ワクチンへの移行が望ましい目標であることに概ね同意したが、3価ワクチンに戻すための規制プロセスは地域によって異なることを認めた。
 4価ワクチンのために製造工程を3価ワクチンに戻すには、各国で規制当局の承認を得るのに時間がかかることが懸念されている。
 2023年9月に開催された南半球のワクチン構成会議で、WHOは「4価インフルエンザワクチンにB型/Yamagata系統の抗原を含めることはもはや正当化されない」とした。委員会のメンバーは、4価インフルエンザワクチンからのB型/Yamagataを除外するための確固としたスケジュールを設定することの重要性を強調した。その結果、米国では2024-2025年シーズンのインフルエンザワクチンはすべて3価になる可能性が高い。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov