小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

初回の尿路感染症でも、腎尿路の超音波検査はやったほうが良さそう

小児の尿路感染症を診断したときには、尿路の先天奇形が無いかを確認することが必要です。今回、メタアナリシスで、尿路異常の頻度を分析した報告が出ました。
要点
・初発の有熱性尿路感染症では、約20%の症例で超音波検査で尿路に異常を認める。
・臨床的に意味のある(マネジメントの変更が必要な)異常は、約3%である。
 臨床的な感覚とも合致しますし、初回でも超音波検査は必須ですね。
 
Kidney Ultrasonography After First Febrile Urinary Tract Infection in Children: A Systematic Review and Meta-analysis.
JAMA Pediatr. 2023 May 30:e231387.
 
はじめに
 初発の発熱性尿路感染症(UTI)後に腎臓超音波検査を行うことの有用性については論争があり、ガイドラインの推奨もさまざまである。今回、小児の初発の発熱性尿路感染症後に、腎臓超音波検査で尿路異常が検出される頻度を明らかにすることを目的に、本研究を行った。
 
方法
 各データベースを用いて、2000年1月1日から2022年9月20日までに発表された論文を検索した。対象は、初発の発熱性尿路感染症の小児の腎臓超音波検査所見を報告した研究とした。 2名の専門家が独立して、タイトル、抄録、全文をスクリーニングし、適格性を確認した。異常所見の頻度に関するデータは、ランダム効果モデルを用いてプールした。本研究の主要アウトカムは、腎臓超音波検査で検出された尿路異常および臨床的に重要な異常の有病率とした。
 
結果
 29の研究の合計9170人の小児が対象となった。男性の割合の中央値は60%(範囲:11%~80%)であった。異常所見の頻度は、22.1%(95%CI、16.8-27.9、I2 = 98%、29研究、全年齢)および21.9%(95%CI、14.7-30.1、I2 = 98% 15研究、年齢<24カ月)だった。臨床的に重要な異常所見の頻度は、3.1%(95% CI, 0.3-8.1; I2 = 96%; 8研究、全年齢)、4.5%(95% CI, 0.5-12.0; I2 = 97%; 5研究、年齢<24ヶ月)だった。最も多い所見は、水腎症腎盂拡張、尿管拡張であった。尿路閉塞は0.4%(95%CI、0.1-0.8、I2=59%、12試験)、外科的介入は1.4%(95%CI、0.5-2.7、I2=85%、13試験)で確認されている。
 
結論
 初発の発熱性尿路感染症の小児の4~5人に1人が、腎臓超音波検査で尿路異常を認めた。32人に1人が臨床管理が必要な異常を持つことを示唆している。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

新生児・乳児のCOVID-19

 新生児や乳児のCOVID-19はリスクが高いと考えられていますが、実際には、それほど悪くないようです。自験例でも、新生児・乳児での悪化例は、ほとんど経験がないです。
 アラブ首長国連邦からの報告です。
要点
・新生児・乳児のCOVID-19は症状の持続期間も短く・経過が良い
ICU入院を要するのは2%以下。
 
Clinical Outcomes of COVID-19 in Newborns and Infants: A Multicenter Experience of 576 Cases.
Pediatr Infect Dis J. 2023 Jun 1;42(6):515-519.
 
はじめに
 乳幼児における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床像、臨床経過、転帰に関する報告は少ない。
 
方法
 アラブ首長国連邦UAE)の小児医療施設で、新生児と乳児を対象に、COVID-19に罹患した患者の背景、臨床的特徴、検査、治療、転帰を評価するために後方視的研究を実施した。臨床症状と検査値の中で、集中治療室(ICU)入院や死亡を予測する精度の高い所見について評価した。
 
結果
 合計576人のCOVID-19陽性の新生児・乳児が対象になった。平均日齢は164日であった。症状の平均持続日数は、1.48日であった。発熱は36.5%に認められ、44.3%に鼻づまりが認められた。8例(1.39%)が、呼吸窮迫のためにICU入院を必要とし、2例が侵襲的人工呼吸管理を要した。有症状(発熱、鼻づまり)の乳児がICUに移される可能性は高いというわけではなかった(P = 0.77)。ICU入院症例は、抗菌薬を投与される確率が高かった(70.6% vs 35.4%、P = 0.003)。多変量解析では、臨床的特徴(年齢、症状、検査値)の中でICU入院を予測するものはなかった。死亡例は報告されていない。
 
結論
 COVID-19の乳児は、良好な臨床経過・転帰をたどる。ICU入院を必要とするのは2%未満であった。ICU入院を予測するパラメータはなく、注意深く臨床症状を監視することが必要である。
 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov



学校でマスクは不要か?

本日は、論文とは関係無しです。

子供向けの記事にしたいと、新聞社の取材があるので、私の意見です。

 

子供のマスクについての現状

・2023年4月1日から、学校現場では原則マスクは不要になった。

・現在も、着用している生徒は多い。
 (脱マスクの道半ばって表現もどうかと思いますが…)

news.yahoo.co.jp

 

マスクの意義について分かっていること

・教室など(狭い室内)では、空気中に吐き出されるウイルスが減る。結果として、感染の伝播が低下する。

・一方で、換気の良い場所や屋外ではマスク着用は、効果はあまりない。


マスクをする不利益

・暑い、苦しい、面倒くさいなど

・子供の言語習得が遅れるのか、表情を読む力が下がるのかは、よくわからない。(論文になっているものがあれば、教えてください。)

 

ケースを使って考えてみる

ケース1
・受験を控えたA君。アレルギー体質のためワクチンを打っていない。学校が終わったら、混雑したバスで、塾に通っている。今は、学校でも塾でも、コロナに感染した子がいる。自宅で80歳の祖母・両親と同居している。祖母は、病気のためにワクチンが打てない。受験を前に、絶対に感染したくないと思っている。

ケース2
・小学校1年生のB君。病気もなく、元気。今は、学校でも全くコロナの子がいるということは聞いたことがない。両親と3人暮らし。みんなワクチンを接種済み。

A君とB君では、マスクの着用の判断が分かれると思う。

マスクを「外す方がいい」「外さない方が良い」と二択問題ではない。

 

マスクの着用は「状況」による

・マスクをしたほうが良いか、しなくても良いかは、「状況」による。

・今までは、「状況」に関係なく、マスクを推奨していた。

・これからは、「状況」に応じて、マスクを着用するかを選べることになった(選ばなくてはいけない)。

・これを「状況判断」と言うが、苦手な人が多いと思う。

 

マスクをつけた方がよい状況

混雑した車内・室内で過ごす時
・周りにコロナになったら重症化する人がいる時
(ワクチン未接種の高齢者、病気を持っている子供や大人など)
・学校や地域でコロナがかなり流行している時
自分が体調不良の時(咳が出る時など)

特に、コロナに限らず、インフルエンザでもなんでも、体調不良のときは、マスクを付けることとともに、学校を休むことが大切です。

 

小中学生の皆さんへのメッセージ

・先生や両親など、君たちの周りの大人が常に正解を教えてくれるわけでは無い
 実は、世界の誰も正解を知らないことはたくさんある。
「常に正解は一つ」とは限らない
「状況」により、正解は変わる
(大人は言うことがコロコロ変わるのではなく、状況が変われば、言うことを変える大人の方が正しい。状況が変わったのに、言うことを変えない大人の方が間違っている。)
・大事なことは、自分の頭で考え続けること。「今は、どうするのが良いのだろう?」「あの時の選択は正しかったのだろうか?」と考えること。

・「周りの人に感染させたら良くないよね!」と、家族・友人・自分の周りの人達(隣人と言います)へ思いやりの気持ちを持ってくれると、嬉しいです。

先天性心疾患(CHD)手術で広域抗菌薬を使用してもメリットはない

 小児の先天性心疾患の手術は、非常に高度な技術が必要です。複雑な心疾患では、術後感染のリスクも高く、長期の抗菌薬投与や広域抗菌薬投与がされがちです。ガイドラインには、狭域抗菌薬を術後24時間以内に終了と記載があるものの、厳密に遵守することはなかなか難しいです。
 今回、米国のデータから、先天性心疾患の手術で、狭域抗菌薬と広域抗菌薬を使用したときの成績を比較した論文が出たので紹介します。
 
要点
・CHD手術で、約20%は広域抗菌薬が使用されている。(複雑な症例が多い)
・広域抗菌薬を使用すると、追加の抗菌薬使用が増え、入院期間が延長する傾向がある。
・狭域抗菌薬と広域抗菌薬では、死亡率は変わらない
→標準的な狭域抗菌薬を使用することが望ましい
 
Broad- Versus Narrow-Spectrum Perioperative Antibiotics and Outcomes in Pediatric Congenital Heart Disease Surgery: Analysis of the Vizient Clinical Data Base. J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Apr 28;12(4):205-213.
 
背景
 先天性心疾患(CHD)手術を受ける小児では、通常、予防的抗菌薬は、狭域抗菌薬(narrow-spectrum perioperative antibiotics(NSPA))が推奨される。しか
し、広域抗菌薬(broad-spectrum perioperative antibiotics(BSPA))が様々な方法で使用されており、術後成績への影響については十分に理解されていない。
 
方法
 Vizient Clinical Data Baseに参加している米国の病院の入院患者データを使用した。2011~2018年の期間に、0~17歳の小児においてCHD手術を実施した入院症例を対象に、BSPAとNSPAへの曝露について評価した。傾向スコアモデルを用いて、交絡因子を調整し、各群の術後在院日数(PLOS)を比較した。副次的評価項目は、追加の抗菌薬治療と院内死亡率であった。
 
結果
 米国24病院の18,088件の症例が対象となった。BSPAはCHD手術の21.4%に投与され、使用率は施設間で1.7%から96.1%と大きな差があった。BSPAを投与された症例の方が、PLOSは長かった(調整HR0.79、95%信頼区間[CI]: 0.71-0.89, P < .0001)。 BSPAは、追加抗菌薬治療が必要となる割合が高く(オッズ比[OR]1.24;95%CI:1.06-1.48)、調整死亡率に有意差はなかった(OR 2.06;95%CI:1.0-4.31;P = .05)。高難度の手術や胸骨二次的閉鎖など、BSPAの使用が最も多いサブグループ解析でも、BSPAがPLOSを有意に短縮するような有益性は認められなかった。
 
結論
 BSPAの使用は、高リスク患者で一般的に行われているが、施設間で大きな差がある。周術期の抗菌薬を施設間で標準化することで、不必要な広域抗菌薬への曝露を減らし、臨床的転帰を改善することができるかもしれない。
 
本文中の定義
狭域抗菌薬NSPA:1世代と2世代セフェム(セファゾリンやセフロキシム)
広域抗菌薬BSPA:バンコマイシン、Gram陰性菌に広い活性を持つ抗菌薬、抗緑膿菌薬、バンコマイシン+もう1剤など
 

 

オミクロン株に対する小児(5-11歳)ファイザーワクチンの効果

 今年から、コロナワクチンは、毎年の接種が推奨される見込みです。小児の接種率は、相変わらず向上せず、残念ながら、オミクロン株流行以降、コロナにより亡くなられたお子さんの報道が相次ぎました。
 ワクチンが有効であることは確かなのですが、オミクロン株では、その有効性が劣ること、効果が減弱することが問題でした。
 本研究は、米国カリフォルニア州で実施された、テストネガティブスタディです。間接的にワクチン効果を推定する方法で、インフルエンザワクチンの効果などを見るためによく使う手法です。
 ワクチンの効果は減弱するものの、追加接種により、効果がかなり回復することが分かり、救急受診の頻度が減ることが期待できます。
 
要点
・5歳から11歳の1:1テストネガティブデザインにおいて、オミクロン株流行期の救急外来や緊急受診に対して、BNT162b2が有効かを検討した。
・ワクチン効果は、2回接種後3カ月未満で60%[95%CI:47-69]、3カ月以上では28%[8-43]に減弱した。
・追加接種により、効果は77%[53-88]に改善された。
 
BNT162b2 Against COVID-19-Associated Emergency Department and Urgent Care Visits Among Children 5-11 Years of Age: A Test Negative Design.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Apr 18;12(3):177-179.
 
背景
 ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンBNT162b2は、5−11歳の小児には、21日間隔で2回の10μgが投与される。2回接種後、5カ月以上経過してから追加接種が認可されている。これまでは、2回接種後の最初の数カ月間は、オミクロン株への感染や入院を減少させる予防効果が示されている。しかし、効果の持続性や追加接種の有効性は評価されていない。今回は、5-11歳の小児のCOVID-19に関連する救急外来または緊急医療(ED/UC)受診に対するBNT162b2の2回および3回投与の有効性を評価した。
 
方法
 Kaiser Permanente Southern California(KPSC)医療システムにおいて、ネガティブケースコントロール研究を用いて、ワクチン効果(VE)を評価した。2021年11月1日から2022年9月2日までにED/UCを行い、急性呼吸器疾患(ARI)の診断を受け、SARS-CoV-2のRT-PCR検査を受けた5~11歳の小児を対象とした。SARS-CoV-2症例は、ED/UC受診日(14日以内)に検査陰性の対照と1:1でマッチングされた。
 
結果
 対象の小児患者は、11,582例であった。1992/11,582例(17.2%)がSARS-CoV-2陽性と判定された。1992例の陽性者のうち、260例(13.1%)がデルタ株の流行期、1732例(86.9%)がオミクロン株の流行期であった。オミクロン期のうち、801例(46.3%)、132例(7.6%)、347例(20.0%)は、それぞれBA.1(12/27/21-28/22)、BA.2/BA2.12.1(4/12/22-5/25)、BA.4/5(7/16/22-9/2)の流行時期であった。残りの症例(452例、26.1%)は、流行の移行期に発生した。解析した症例3984例のうち825例(20.7%)がBNT162b2の2回接種を受け、49人(1.2%)が3回接種を受けていた。年齢中央値は7歳であった。
 デルタ株に対するBNT162b2 2回投与のワクチン有効性(VE)は、85%[95%CI:59~95]だった。オミクロン株に対するVEは、2回目接種後3ヶ月未満で60%[47-69]、3ヶ月以上で28%[8-43]であった。3回目接種後のVEは、77%[53-88]であった。
 
結論
 BNT162b2の2回接種は,5~11歳の小児において,投与後数カ月間,デルタ株およびオミクロン株に有効であると考えられた。しかし、オミクロン株に対しては、2回接種後にワクチン効果の減退が観察され、追加接種が必要と考えられる。追加接種により、オミクロンに対しても効果は80%近くまで回復した。