小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

腸間膜リンパ節炎のレビュー論文

 腸間膜リンパ節炎は、日常で見かけることがありますが、あまり教科書的に詳しい記述のない疾患です。「虫垂炎やろ!」って思った症例が、「腸間膜リンパ節炎です」となると、治療(抗菌薬や投与期間など)について、悩んでしまいます。

 2017年のレビュー論文を要約しました。以前も同じ論文を紹介しましたが、大事なのでもう一度。今度はChat GPTに読んでもらいました。

 

Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis: More Than "No Need for Surgery".
Biomed Res Int. 2017;2017:9784565. 

 この論文は、「急性非特異性腸間膜リンパ節炎」(急性腸間膜リンパ節炎)についてのレビューです。腸間膜リンパ節炎は自然治癒する炎症性疾患であり、虫垂炎や腸重積などと似た症状を呈するため、鑑別診断が重要です。特に小児や若年成人に多く発症し、一般的に数週間で自然治癒します。

 

1. 概要と歴史
 腸間膜リンパ節炎は、特定の原因がなく腸間膜リンパ節が炎症を起こす疾患であり、長らく虫垂炎と誤診されやすい疾患でした。20世紀初頭までは、腸間膜リンパ節腫大は、結核が原因として多いと考えられていましたが、次第に非結核性の腸間膜リンパ節炎が独立した疾患概念として認識されました。

 

2. 症状と診断
 患者は、一般的に38~38.5℃の発熱、嘔吐、便秘や下痢などの消化器症状を伴います。痛みは主に右下腹部が最強点で、虫垂炎に似ていますが、腸間膜リンパ節炎では、痛みが移動することが多いのが特徴です。触診では、リンパ節炎患者は虫垂炎患者よりも圧痛は軽度です。

 血液検査では、白血球数やCRPが、軽度から中等度に増加することがあります。診断は、超音波検査で行います。腸間膜リンパ節が3つ以上、短軸径8mm以上に腫大していることを確認します。これにより虫垂炎やその他の急性腹症と区別できます。

 

3. 原因と関連疾患
 腸間膜リンパ節炎は、ウイルス性腸炎が原因とされることが多いですが、まれに細菌感染(エルシニア、サルモネラなど)や他の感染症EBウイルストキソプラズマ)も関連します。また、炎症性腸疾患やHIV感染、悪性腫瘍(特に非ホジキンリンパ腫とも関連する場合があります。

 

4. 治療と予後
 治療は基本的に支持療法であり、手術の必要はありません。水分補給や鎮痛剤を用いた痛みの管理が推奨されます。患者やその家族に対して、病気が自然に治癒することを説明し、不安を軽減することが重要です。通常、2~4週間以内に完全に回復しますが、場合によっては回復にさらに時間がかかることもあります。

 

 今後は、腸間膜リンパ節炎の自然経過や適切な管理方法に関するさらなる研究が必要です。また、診断後は定期的な診察を行い、患者の不安を軽減するために、この疾患は回復に時間がかかることを説明することが重要です。

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腸間膜リンパ節炎の原因として考えるもの
(Causes of Mesenteric Lymphadenopathy other than Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis in Children, Adolescents, and Young Adults)

 

慢性・亜急性の経過
1)Inflammatory bowel diseases
2)Systemic chronic inflammatory diseases (e.g., systemic lupus erythematosus, and sarcoidosis)
3)Malignancy
4)HIV infection
5)Tuberculosis

 

急性の経過

1)Appendicitis

2)Secondary mesenteric lymphadenitis of infectious origin

 2−1)Zoonotic infections: yersiniosis (Yersinia enterocolitica or pseudotuberculosis) and nontyphoidal Salmonella infection

 2−2)Enteric fever

 2−3)Infectious mononucleosis (Epstein-Barr virus, Toxoplasma gondii, and Bartonella henselae)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

中耳炎の抗菌薬は長期処方されがち

 中耳炎は小児にコモンな疾患で、よく抗菌薬が使用されます。

現状では、抗菌薬を使用する場合、アモキシシリン(・クラブラン酸)が第一選択薬です。ざっくりと、2歳未満 or 鼓膜穿孔がある or 再発性では、10日間の治療が推奨されます。2歳以上で鼓膜穿孔無し・再発性でもない場合には5−7日間の治療が推奨されています。

 今回は、このガイドラインの治療期間がどの程度守られているか、米国での調査データです。

 

Durations of Antibiotic Treatment for Acute Otitis Media and Variability in Prescribed Durations Across Two Large Academic Health Systems.
(急性中耳炎に対する抗菌薬の治療期間と2つの大規模医療システム間のばらつきについて) 

J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Sep 26;13(9):455-465.

 

はじめに
 急性中耳炎(Acute Otitis Media, AOM)は、毎年小児に処方される抗菌薬の約25%を占める疾患です。2歳以上に対しては、米国ガイドラインでは5~7日間の短期間の抗菌薬治療を推奨しています。しかし、多くの患者が10日間の長期間治療を受けています現状があります。本研究は、2つの大規模な小児医療システムにおいて、2歳から17歳の単純性AOMに対して処方された抗菌薬の期間を評価し、処方期間のばらつきを調査することを目的としています。

 

方法
 2019年から2022年に、135のクリニックでAOMと診断された患者の診療記録を後方視的に分析しました。対象は、2歳から17歳の小児で、合併症のないAOMと診断された患者です。主要な評価項目は、5日間の抗生物質処方の割合で、二次的評価項目として7日間および10日間の処方の割合、治療失敗、AOMの再発、First line以外の抗菌薬の使用、薬剤に関連する有害事象などが含まれます。

 

結果
 73,198件のAOMの診療記録のうち、84%にあたる61,612件で抗菌薬が処方されました。そのうち、75%が10日間の処方、20%が7日間の処方、5%が5日間の処方でした。治療失敗やAOMの再発、薬剤による有害事象はまれにしか発生せず、ほとんどの患者は短期間の治療で良好な結果を示しました。

 

結論
 ガイドラインでは、重篤ではないAOMに対して5~7日間の短期治療を推奨しているにもかかわらず、調査対象の75%が10日間の長期間治療を受けていました。抗菌薬の使用期間を短縮することは、小児に抗菌薬への曝露を減少させる可能性があり、今後の小児抗菌薬管理プログラムにおいて優先されるべきです。

Proportion of antibiotics prescribed for 5, 7, 10, or 14+ days, by care location and health system. Proportion of encounters with 5-, 7-, 10-, or 14+ duration of antibiotics at each health system and by care location (convenient/walk-in/after hours, emergency department [ED], medical specialty clinic [otolaryngology, allergy/immunology, and pulmonary], primary care clinic, or retail health clinic). Washington University does not have any sites that qualify as retail health clinics thus the absence of data in that panel.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

RSウイルス感染症が治療できる時代はもうすぐ

 今年は、RSウイルスが熱いです。昨年から今年にかけて、コロナ後初めての大きな流行になっています。一方でシナジスの適応拡大、ベイフォータスの認可、妊婦用ワクチンアブリスボの導入など、RSウイルス感染症は予防できる疾患になってきました。そこに来て、この論文がでた意義は大きいです。

 本日、紹介する論文は、Ziresovir in Hospitalized Infants with Respiratory Syncytial Virus Infection. (RSウイルス感染症で入院した乳児に対するZiresovirの効果) N Engl J Med. 2024 Sep 26;391(12):1096-1107.です。

 NEJMに掲載されたばかりの論文です。これまで、RSウイルス感染症に対する治療薬は、有効なものはなく、基本的には対症療法のみでした。このZiresovirの登場により、RSウイルスが治療できるウイルスになる可能性があります。中国の製薬メーカーからこのような画期的な薬剤が出てきたことがすごいと思います。とっくの前に、研究の量でも質でも日本を凌駕していますよね…。

 

要点

・RSV感染症で入院した乳児において、ziresovir投与すると、投与3日目の臨床スコアが改善する。

・治療5日目のウイルス量も減少する。

 

 

Ziresovir in Hospitalized Infants with Respiratory Syncytial Virus Infection.
N Engl J Med. 2024 Sep 26;391(12):1096-1107. 

 

はじめに
 呼吸器合胞体(RS)ウイルス(RSV)は、乳幼児における重篤な呼吸器感染症の主な原因であり、有効な治療法が限られています。Ziresovirは、RSV感染症の症状を軽減する可能性が示唆されており、Phase2試験で有望な結果が得られました。本研究は、RSV感染で入院した乳幼児におけるZiresovirの有効性と安全性を評価するために実施されました。

 

方法
 本研究は、中国で実施したPhase 3の多施設共同、二重盲検、ランダム化比較試験である。RSV感染症で入院した生後1〜24か月の乳幼児を対象にしました。被験者は、体重に応じ10〜40mgのZiresovir、または、プラセボを1日2回、5日間投与されました。主要評価項目は、ベースラインと比較した治療3日目の細気管支炎臨床スコア(Wangスコア)としました。

 

結果
 244人が解析対象となった。Ziresovir群ではプラセボ群に比べてWangスコアが有意に改善しました(−3.4点 vs. −2.7点、P=0.002)。また、5日目のウイルス量は、Ziresovir群で有意に減少した(−2.5 log10 vs. −1.9 log10、P=0.006)。副次的解析では、重症症例や6か月未満の乳児においても同様の改善が観察されました。副作用の発生率はZiresovir群で16%、プラセボ群で13%と大きな差はなく、安全性も確認されました。

 

考察
 Ziresovirは、RSV感染による細気管支炎の症状を軽減することが確認されました。副作用は少なく、安全性も良好でした。しかし、一部の患者で耐性関連の変異が発生したことから、今後はこれらの点についてさらに検討が必要です。Ziresovirは、RSV感染に対する有望な治療選択肢として、さらなる国際的な試験が求められます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2313551

髄液細胞数が上昇しないエンテロウイルス髄膜炎

 一般小児科では、細菌性髄膜炎の症例が減り、見る機会は非常に減りました。相対的に無菌性髄膜炎・ウイルス性髄膜炎の頻度が多くなります。FilmArrayが出てから、髄膜炎診療も変わってきた部分が多いと感じます。

 亀田で研修していたときに、「髄液細胞数が上昇しない髄膜炎があるから気をつけるように」と教えられてきました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今日紹介する論文は、2019年の「Paediatric enterovirus meningitis without cerebrospinal fluid pleocytosis. (髄液細胞数が増加しないエンテロウイルス髄膜炎」(J Infect. 2019 Dec;79(6):612-625.)です。新生児のエンテロウイルス髄膜炎では、細胞数が上昇しないほうが普通と言われると、髄膜炎の定義ってなんだろうと思ってしまいます。

 

はじめに
 エンテロウイルス(EV)は、ウイルス性髄膜炎VM)の主要な原因であり、特に小児では90%を占めます。通常、EV髄膜炎(EVM)は髄液細胞数増加とEV遺伝子検出によって診断されます。近年、分子診断技術の導入により、髄液細胞数増加がないEVMの症例が報告されています。本研究の目的は、小児における髄液細胞数増加のないEVMの発生頻度と関連する要因を調査することです。

方法
 本研究は、フランスのリール大学病院で2013年から2018年の間に実施された後ろ向き研究です。17歳未満で髄膜炎が疑われ、髄液検査とEVのRT-PCR検査が行われた患者が対象です。髄液細胞増加は年齢によって定義され、新生児では15/mm³以上、3ヶ月から3歳では8/mm³以上、3歳以上では5/mm³以上とされました。最終的に、780人の患者データが分析されました。

結果
 EVは141名(18%)の患者から検出され、そのうち39%(55名)が髄液細胞増加を示しませんでした。髄液細胞増加のない患者は低年齢に多く、特に新生児では84%に達しました。また、神経症状や消化器症状は、髄液細胞増加のない患者で少ない傾向が見られました。末梢血白血球数が低く、CRPが高いことが特徴で、抗菌薬使用も少ない傾向がありました。多変量解析の結果、髄液細胞数増加が見られないことは、低年齢およびCRP値上昇と独立して関連していることが確認されました。

考察
 本研究は、髄液細胞数増加がないEVMが小児において一般的であることを示した。特に低年齢でその傾向が強い。迅速なEV検査は、抗菌薬の早期中止や不要な検査の回避、早期退院を可能にし、患者や家族にとっても利益が大きいと考えられます。したがって、髄膜炎が疑われる場合、髄液細胞増加がない場合でもEVの検査を行うことが重要である。

 

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生後40日未満の乳児のCOVID-19について

 国内では、COVID-19の11波が落ち着きました。小児では重症例は少ないですが、新生児のCOVID-19の場合には慎重な対応が必要です。これまでの経験上、新生児が重症化しやすいという感じは受けなかったのですが、ベルギーから大規模な調査結果が出ました。

要点
・生後40日未満のCOVID-19の症状は、発熱>気道症状>消化器症状が多い。
・酸素投与以上が必要となるのは、14.2%であるが、人工呼吸器管理を要する例は極めて稀。

 

SARS-CoV-2 Infection in Children Less Than Forty Days Hospitalized in Belgium Between 2020 and 2022.
2020年から2022年にベルギーで入院した生後40日未満の小児におけるSARS-CoV-2感染
Pediatr Infect Dis J. 2024 Sep 1;43(9):e307-e309.

 

背景
 乳児におけるCOVID-19感染についてのデータは限られている。特に生後40日未満の乳児に関する情報は少ない。これまでに重症例や呼吸サポートが必要なケースが報告されているが、その頻度や詳細は明確でない。本研究の目的は、ベルギー国内で入院した生後40日未満の乳児におけるCOVID-19の重症度と、ウイルス変異株(Alpha、Delta、Omicron)の影響を評価することである。

方法
 2020年3月1日から2022年12月31日までの間に、ベルギー国内の21病院でSARS-CoV-2のPCR検査が陽性となり、入院した生後40日未満の乳児を対象とした後ろ向き観察研究である。対象となった乳児のうち、無症状またはCOVID-19以外の理由で入院した乳児は除外された。

結果
 期間中、SARS-CoV-2に感染した生後40日未満の乳児391名のうち、365名が対象となった。58.1%が男児で、10.1%に合併症があった。主要な症状は、発熱(87.4%)、呼吸器症状(72.3%)、消化器症状(21.6%)であった。全体の14.2%(52名)が呼吸サポートを必要とし、そのうち25名が低流量酸素、16名が高流量酸素、9名が非侵襲的陽圧換気、2名が侵襲的陽圧換気を受けた。また、4.7%(17名)がICUに入室したが、死亡例は報告されていない。入院期間の中央値は3日(四分位範囲2~4日)であった。オミクロン株の流行期間中の入院者が多かったものの、AlphaやDelta株と比較して重症度に差は見られなかった。

 結論
 生後40日未満の乳児におけるSARS-CoV-2感染は一般的に軽症であり、呼吸サポートが必要なケースはあったものの、死亡例は確認されなかった。ウイルス変異株によるの重症度に大きな違いはなかった。



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