小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

抗菌薬投与後の下痢の予防方法

 抗菌薬は、細菌感染症の治療に必須の薬剤ですが、副作用として下痢が見られることがよくあります。治療のために必要だけど、下痢が続き、赤ちゃんのおしりが真っ赤になると心が痛みます。プロバイオティクスが、抗菌薬関連の下痢症予防に有効かをみた研究です。

 

要点
・この研究では8種類の菌が配合されたプロバイオティクス製剤を使用した。
・厳密に定義をした抗菌薬関連下痢症の予防効果に有意差はなかったが、すべての下痢の頻度は低下する。32%→21%。

 

はじめに

 抗菌薬関連下痢症(AAD)は、小児への抗菌薬治療に伴う一般的な合併症であり、腸内細菌叢が乱されることによって引き起こされると考えられています。本研究は、複数種のプロバイオティクスが小児のAADを予防する効果があるか検証することを目的としたランダム化比較試験(RCT)です。

 

方法

 本試験は、2018年2月から2021年5月にかけてポーランドおよびオランダの5つの病院で実施されました。対象は、抗菌薬治療を開始して24時間以内の3か月~18歳の小児であり、646名がスクリーニングされ、350名が参加しました。参加者は以下の2群にランダムに割り付けられました。

1. プロバイオティクス群: 8種の細菌株を含むプロバイオティクスを投与。

2. プラセボ: 外見・味がプロバイオティクスと同一のプラセボを投与。

 治療期間中および終了後7日間、プロバイオティクスまたはプラセボを毎日摂取しました。主要評価項目はAADの発生率で、24時間で3回以上の水様性便が確認された場合に診断されました。二次評価項目として、全ての下痢症例の発生率や持続期間などが含まれます。

使用したプロバイオティクスは、Bifidobacterium bifidum W23, Bifidobacterium lactis W51, Lactobacillus acidophilus W37, L acidophilus W55, Lacticaseibacillus paracasei W20, Lactiplantibacillus plantarum W62, Lacticaseibacillus rhamnosus W71, and Ligilactobacillus salivarius W24 (formerly known as Lactobacillus salivarius W24)です。

 

結果

313名がITTに含まれました(プロバイオティクス群158名、プラセボ群155名)。以下の結果が得られました。

AADの発生率: プロバイオティクス群14.6%、プラセボ群18.1%であり、統計的に有意な差は認められませんでした(相対リスク: 0.81, 95%信頼区間: 0.49-1.33)。

全ての下痢の発生率: プロバイオティクス群20.9%、プラセボ群32.3%で、プロバイオティクス群で有意に低下しました(相対リスク: 0.65, 95%信頼区間: 0.44-0.94, p=0.02)。

二次評価項目: AADの重症度や持続期間において両群間に差はありませんでしたが、プロバイオティクス群では点滴による脱水治療を要する症例が少ない傾向が見られました。

Main Results of the Available Case Analysis

結論

 本研究では、複数種プロバイオティクスがAADの予防には効果を示さなかったものの、全体的な下痢リスクを低減する可能性が示されました。プロバイオティクスの使用は、小児における抗菌薬治療中および治療直後の下痢予防に有用である可能性があります。また、AADの定義や評価基準が臨床試験の結果解釈に大きく影響を与えることが示唆されました。

 

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CIDの表紙に日本の木版画が!

 IDSA(米国感染症学会)の学会誌の最新号の表紙が、麻疹退治の木版画でした。
 
issue cover

麻疹退治(Hashika taiji)」、1862年、歌川芳藤(日本、1828–1889年)、江戸(東京)、E.13607-1886。ヴィクトリア・アルバート博物館(ロンドン、英国)所蔵.

 

19世紀中頃、日本では麻疹(はしか)の流行が相次ぎ、約10年ごとに全国に広がる状況でした。このパターンが1830年代に一時的に途切れた後、1862年の流行は特に壊滅的なものでした。当時、ウイルスへの免疫を持つ人はほとんどおらず、直近の流行から26年が経過していたため、それ以下の年齢の人々は特に感染のリスクが高かったのです。

芳藤は麻疹ウイルスを擬人化し、西洋人として描きました。これは、この流行が外国人船員によって日本にもたらされたと信じられていたためです。

On the cover: Defeating the Measles Demon (Hashika taiji), woodblock print, 1862, Utagawa Yoshifuji (Japanese, 1828-1889) Edo (Tokyo) E.13607-1886. Victoria and Albert Museum, London, UK. Reproduced with permission. The mid-19th century was a period of multiple outbreaks of measles in Japan, with the disease sweeping the island an average of every 10 years. Following a brief break in this pattern in the 1830s, the 1862 epidemic was one of the most devastat ing. Few had significant immunity to the virus. With the most recent outbreak taking place 26 years previously, anyone under that age was especially susceptible. Yoshifuji depicted the embodiment of measles virus as a westerner, following the belief that the epidemic was introduced to Japan by eign sailors. This woodcut is but one of several depicting the battle with measles completed by Yoshifuji in that fateful year. (Mary & Michael Grizzard, Cover Art Editors)
 

小児におけるCOVID-19重症化のリスク因子

 日本では、現状ではCOVID-19の流行は落ち着いていますが、毎年冬と夏の2回の流行が定着してきたように思います。改めて、小児における重症化リスクを大規模データから導き出した検討です。

 オミクロン株になり、更に重症化リスクは減っていると思いますが、一定数重症化するので、注意は必要です。

 

Risk Factors for Severe COVID-19 in Children.

(小児におけるCOVID-19重症化のリスク因子)
Pediatrics. 2022 Jan 1;149(1):e2021053418. 

背景  
 この研究は、COVID-19に関連する小児の重症化リスクを評価することを目的としています。COVID-19による入院小児の重症化(ICU入室、人工呼吸器使用、または死亡)のリスク要因を特定し、重症化率を算出しました。これまでの研究では、地域的またはパンデミック初期のデータに基づくものが多く、より広範なデータを用いた分析が求められていました。

 

方法  
 研究はCOVID-NET(COVID-19関連入院監視ネットワーク)を用い、2020年3月から2021年5月までに米国14州で入院した3106人の小児を対象に行われました。2293人の主にCOVID-19を理由とする入院患者のデータが分析対象とされ、多変量解析を用いて年齢、性別、基礎疾患などのリスク要因との関連を評価しました。また、人口ベースの重症化率を計算し、年齢、性別、人種・民族別に比較しました。

 

結果  
- 重症化率 
  約30%の入院患者が重症化し、全体で0.5%が入院中に死亡しました。重症化率は年齢や人種で異なり、特に12か月未満の乳児、ヒスパニック系および非ヒスパニック系黒人の子どもで高い傾向が見られました。

- リスク要因  
  1.  2歳未満の小児では、慢性肺疾患(リスク比[aRR]:2.2)、神経疾患(aRR:2.0)、心血管疾患(aRR:1.7)、未熟児(aRR:1.6)、気道異常(aRR:1.6)が重症化リスクと関連しました。  
  2.  2~17歳の小児では、経管栄養状態(aRR:2.0)、糖尿病(aRR:1.9)、肥満(aRR:1.2)がリスク要因とされました。

- 人口ベースの重症化率  
  入院率は全体で43.2/10万人、重症化率は12.0/10万人でした。これらの率は12か月未満の乳児、ヒスパニック系および非ヒスパニック系黒人で最も高い結果となりました。

 

考察  
 この研究は、小児のCOVID-19重症化におけるリスク要因を明らかにし、予防策(ワクチン接種など)や臨床的意思決定に役立つ情報を提供しました。また、パンデミックの進行やワクチン普及、新しいウイルス変異株の出現に伴う疾病動向の基準として利用されることが期待されます。基礎疾患が重症化リスクを高めることが改めて確認され、特に肥満や糖尿病、神経疾患などの重要性が示されました

 この研究は、地域や医療資源の差異を超えた広範なデータを用いており、結果の信頼性が高いと考えられます。一方で、医療記録の不備や各病院間のICU入室基準の違いがデータ解釈に影響を及ぼしている可能性もあります。今後、さらなる研究により、リスク要因の詳細や予防策の効果が解明されることが期待されます。

 

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MRワクチン後の血小板減少性紫斑病(ITP)について

 ワクチンによる免疫反応がきっかけで、血小板減少性紫斑病(ITP)を発症することがあります。風疹ワクチンが有名ですが、他のワクチンでも起きます。

 ワクチン関連のITPを経験した時、もう一度同じワクチンを打っても良いのでしょうか?疑問に思ったので、調べてみました。

 

Thrombocytopenic purpura after measles-mumps-rubella vaccination: a systematic review of the literature and guidance for management.
(麻疹・ムンプス・風疹ワクチン接種後の血小板減少性紫斑病:システマティックレビューと管理の方針)
J Pediatr. 2010 Apr;156(4):623-8. 

背景

麻疹・ムンプス・風疹(MMR)ワクチン接種後の血小板減少性紫斑病(ITP)は、稀に報告される副反応です。本研究では、MMRワクチン接種後のITP発生率、臨床経過と予後、再接種リスクについて系統的レビューを行い、これらのデータに基づいて管理指針を検討しました。

 

方法

Ovid MEDLINEデータベースを用いて1950年から2009年6月までの関連文献を検索し、MMR接種後のITP症例を報告する研究を選定しました。ITPの定義は、血小板数15万/μL未満および臨床的な出血症状の存在としました。研究では、ITPの発生率、6か月以内の病状の解消率、MMR再接種後の再発リスクについて分析しました。

 

結果

12件の研究が評価対象となりました。

1.発生率

MMR接種後のITP発生率は0.087~4例/10万回接種(中央値2.6例/10万回)でした。

自然感染による麻疹や風疹に比べ、MMR接種後のITPリスクは数倍低いことが確認されました。

2. 臨床経過と予後

•6か月以内に93%の患者でITPが寛解しました。慢性化する割合は7%で、自然感染由来のITPよりも低いことが示されました。

重篤な出血症状は稀であり、大半の症例は軽症でした。

3. 再接種リスク

•ITP既往患者(ワクチン由来・非由来を含む)において、MMR再接種後6週間以内の再発例は報告されていませんでした。

 

考察

MMRワクチン接種後のITPは稀であり、大半が軽症で一過性です。また、ITP既往患者におけるMMR再接種は安全と考えられます。自然感染によるITPリスクが接種リスクを大きく上回るため、ITP既往患者でも適切な年齢でMMR接種を推奨すべきです。再接種の必要性は抗体検査による免疫評価を基に判断することが推奨されます。最終的に、MMRワクチンは自然感染のリスクを回避しつつ、重大な副反応の発生を最小限に抑える重要な公衆衛生介入であると結論づけられます。

 

Discussionの最後の部分です。基本的にこの考え方に同意です。

「ITPの既往歴のあるケースにMMRワクチンを接種するかは、初回接種後のウイルスに対する予防効果と血小板減少症再発のリスクとを比較した上で決定すべきである。(中略)MMRワクチン初回接種から6週間以内にITPを発症したケースには、抗体検査を行うべきです。抗体価が上昇している場合は、ワクチンの再接種の必要はありません。抗体価が陰性の場合、MMRの再接種を推奨します。」

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虫垂炎に対して、タゾピペ(ピペラシリン・タゾバクタム)を減らしたい

 現在、コロナ後の抗菌薬の使用状況をまとめています。外科系領域でピペラシリン・タゾバクタム(タゾピペ、ゾシン)の使用量がかなり増えていることが分かり、対応を考えています。

 ちょうどそんな中、抗菌薬適正使用推進プログラム(ASP)により、小児の虫垂炎でタゾピペの使用量を96%減らしたという報告がスペインからありました。

 

Effects of a Paediatric Antimicrobial Stewardship Program on Antimicrobial Use and Quality of Prescriptions in Patients with Appendix-Related Intraabdominal Infections.
(小児虫垂炎関連の腹腔内感染に関する抗菌薬使用と処方の質に対する抗菌薬適正使用プログラムの影響)
Antibiotics (Basel). 2020 Dec 23;10(1):5. 

 

背景

小児における抗菌薬適正使用プログラム(ASP)は、抗菌薬使用量(AU)を減らし、処方の質を向上させることが実証されています。しかし、外科領域でのASP導入については十分なデータがなく、標準化された効果指標が議論されています。本研究では、ヨーロッパの大学病院で虫垂炎関連の腹腔内感染症(AR-IAI)を有する小児患者を対象に、ASP導入前後のAUや入院期間(LOS)、処方の質(QP)への影響を評価しました。

 

方法

本研究は、2014-2016年のASP導入前と2017-2019年の導入後を比較した前後比較研究です。対象は、虫垂炎関連の腹腔内感染症のために入院し、少なくとも1回の抗菌薬投与を受けた患者で、システムによりAU、LOS、そしてQPが追跡されました。ASPは主に処方後レビューとフィードバックに基づき、処方の最適化が行われました。

 

結果

全体のAUおよびLOSには有意な変化は見られませんでしたが、急性の膿瘍形成した虫垂炎においてはLOSと治療期間(LOT)が大幅に短縮されました。ピペラシリン・タゾバクタムの使用は96%減少しましたが、他の広域抗菌薬への代替使用の増加は見られませんでした。処方の質は、わずかに向上し(p=0.052)、再入院率や死亡率には影響がありませんでした。

 

考察

本研究により、小児外科領域のASPの効果が確認されました。ピペラシリン・タゾバクタムの使用減少は、広域抗菌薬使用抑制の一助になる可能性が示唆され、再発感染や死亡率への影響も見られませんでした。外科医との協力や継続的なASP活動の重要性が明らかになり、病院全体でのAU改善にはデジタル支援と多部門間の連携が不可欠であることが再確認されました。

 

 

 この研究では、比較的軽症例では、セフォキシチン(セフメタゾールと同じ系統)を使用し、膿瘍形成例などの重症例では、セフトリアキソン+メトロニダゾールを第1選択としているようです。

 個人的な経験ですが、アンピシリン・スルバクタムで治療すると、治療失敗が多い印象があり、セフメタゾールかセフトリアキソン+メトロニダゾールを使用するレジメンを積極的に取り入れたいと思います。

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