小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

神経疾患と緑膿菌〜叩くべきか叩かざるべきか〜

 以前にも取り上げましたが、脳性麻痺など重度の神経障害があるお子さんの緑膿菌の肺炎は、重症化する事があり、恐ろしい疾患です。一方、このようなお子さんは、気道にもともと緑膿菌を保菌していることが多く、気道感染=緑膿菌が原因とは限りません。

pediatric-infection.info

 コンサルトを受けると、いつも緑膿菌をカバーするか、カバーしないか、悩むわけですが、明確なガイドラインはありません。

 今回、ご紹介するのは、英国の小児病院で気道検体から緑膿菌が検出された神経疾患の患者さんの報告です。

 後方視的検討なので、あまり結論らしいことは言えませんが、筆者らの考えは

緑膿菌を保菌する患者が、気道感染を起こしても、抗菌薬の有無では臨床経過は大きく変わらない。(悪化するときは悪化するし、自然に治るときは自然に治る)

・ただし、臨床経過が悪化する時、緑膿菌カバーを開始すると全例が改善した。

ここから言えるのは、緑膿菌を保菌しているからと言って、全例に緑膿菌カバーした抗菌薬は必要ではないが、増悪する時には、緑膿菌をカバーする」ということでしょうか。

初期治療の時点で緑膿菌カバーするかは、患者さんの重症度とGram染色の所見次第かと、個人的には考えています。

 

Pseudomonas aeruginosa infection in respiratory samples in children with neurodisability-to treat or not to treat?
Eur J Pediatr . 2021 Sep;180(9):2897-2905.
 
はじめに
 複雑な神経疾患を持つ小児は、呼吸器疾患や緑膿菌などのグラム陰性菌感染症のが高い。現在、このような脆弱な子どもたちの治療選択に役立つガイドラインはない。
 
目的
 ガイドラインを今後作成するために、複雑な神経疾患を有する患者における緑膿菌PA)の保菌率と、当センターにおける現在の治療方法を調査することである。
 
方法
3次医療機関である小児病院(英国のSheffield Children's NHS Foundation Trust)で、診療録の後方視的レビューを実施した。神経筋疾患(NMD)または重度の脳性麻痺(CP)と診断され、調査期間中に呼吸器検体の培養検査を行った患者162名(平均年齢11.7歳)を対象とした。呼吸器検体中のPAと、診断、長期人工呼吸管理、胃瘻または気管切開の有無、抗菌薬の選択、臨床的増悪、有害事象との関連を分析した。25名(15%)の患者の呼吸器検体から1回以上のPAが分離された。このうち13人は気管切開をしており、呼吸器検体中のPAと気管切開有無には有意な関連があった(p<0.05)。52%の検体で、複数の病原体が同時に検出された。抗菌薬の選択と臨床転帰には有意な関連はなかったが、感染エピソードの経過中に抗菌薬をPAに活性のある抗菌薬に変更した場合、すべての症例において臨床改善が得られた。再入院した8人の患者を含む26回のエピソードにおいて、薬剤耐性のPA菌が検出された。
 
結論
 本研究で、15%の患者から緑膿菌を検出したが、大部分は高度な治療を要しなかった。臨床的に増悪したり、薬剤耐性PAが検出された患者では、早期に緑膿菌に対する標的治療により、悪化を防げた可能性がある。 より大規模な前向き研究により、ガイドライン作成のためのより明確な基準が確立されるかもしれない。病原性の高いPAを特定するための迅速検査などの技術は,患者の転帰を改善し、将来的に耐性菌の発生を防ぐ可能性がある。

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 治療開始時点での抗菌薬の有無と、その後の経過

→抗菌薬の有無により、経過は変わらないとしています。ウイルス感染が疑われれば抗菌薬は使われにくくなりますし、細菌感染で特に重症な場合、緑膿菌もカバーされるので、なんとも言えません。

臨床経過
抗菌薬なし
緑膿菌カバーなし抗菌薬
緑膿菌カバーあり抗菌薬
悪化なし(%)
2 (40%)
7 (64%)
1 (25%)
悪化した(%)
3 (60%)
4 (36%)
3 (75%)
合計
5
11
4

本文中の表を転記

学校再開のみでコロナの流行は拡大しない

 オミクロンの流行が拡大に伴い、学校・幼稚園再開による小児の感染例が増加しています。
 学校再開が、Covid-19の流行拡大の原因になるのではという懸念があります。しかし、イスラエルで学校再開がCovid-19拡大に与えた影響をまとめたものです。2020年3-7月ですので、かなり流行初期のデータなので、オミクロンに適応はできないかもしれません。
 学校再開よりも、成人の規制緩和が社会にCovid-19拡大に寄与する度合いは大きそうです。
 
Reopening Schools and the Dynamics of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Infections in Israel: A Nationwide Study 
Clin Infect Dis . 2021 Dec 16;73(12):2265-2275.
 
背景
学校再開のメリットと、COVID-19の罹患・死亡のリスクおよびCOVID-19の感染拡大を助長する影響と比較検討する必要がある。我々は、2020年3月から7月にイスラエルにおいて、学校再開と社会的距離制限の緩和がSARS-CoV-2感染の動向に与える影響を調査した。
 
方法
 全国の年齢別発症率、有病率、PCR検査数、PCR陽性率、COVID-19による入院・関連死亡率を調査した。これらの変数が、学校再開後、学校終了後、大規模集会の許可などの規制緩和後の時間的な違いを調べた。
 
結果
SARS-CoV-2感染症の発生率は,学校再開後にすべての年齢層で徐々に増加した。小児よりも成人での増加率が有意に高かった。学校再開後21~27日後の陽性率は、学校再開前の陽性率と比較して、40~59歳(RR, 4.72; 95% CI, 3.26-6.83)と20~39歳(RR, 3.37 [2.51-4.53] )の年齢層で高かった。しかし、0~9歳(RR, 1.46 [.85-2.51] )および10~19歳(RR, .93 [.65-1.34] )の小児では増加が見られなかった。学校再開後もCOVID-19関連の入院や死亡の増加は認められなかった。一方、大規模集会の規制緩和後には、すべての年齢層で増加し、検査陽性率が上昇し、入院や死亡も増加した。
 
結論
今回の解析では、イスラエルにおけるCOVID-19の再流行に学校再開が大きな役割を果たしているとは言えなかった。大規模な集会に対する規制を緩和したことが、今回の流行再燃に大きな影響を与えたと考えられる。

 

 

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A: 学校閉鎖、B: 一部学校再開、C: 完全学校再開
1:一部社会活動制限の緩和  2:さらなる社会活動制限の緩和
BとCで、学校が再開されていますが、そのタイミングでは増加せずに、1,2の社会活動の拡大とともに、患者が増加しています。
(日本では、緊急事態宣言1回目は2020年4月7日〜5月25日。学校一斉休校は2020年3月2日〜5月末まで。)
 

小児でもキノロンの末梢神経障害に注意

 キノロン系抗菌薬は、小児には基本的には使用しない薬剤です。しかし、どうしてもキノロンを使わざるを得ない状況もまれにはあります。また、国内ではトスフロキサシンという経口キノロンマイコプラズマ肺炎などによく使われている現状があります。
 しかし、小児科医は往々にして、キノロンの副作用については、あまり認識していないように思います。
 今回紹介する論文は、シプロフロキサシンによる末梢神経障害の報告と、これまでの報告のまとめです。小児の症例数は少ないですが、もともと使用している人数も少ないので、頻度はよく分かりません。
 
Ciprofloxacin-associated Peripheral Neuropathy in a Child: A Case Report and Review of the Literature
Pediatr Infect Dis J . 2022 Feb 1;41(2):121-122.
 
キノロン系抗菌薬の副作用として、末梢神経障害は、成人領域でよく知られている。2013年にFDAは、この神経障害について警告を出した。しかし、小児においては、報告も限られており、頻度や症状についてははっきりしたものは分かっていない。本報告では、著者らの経験した症例を提示し、これまでの報告から小児例をまとめた。
 
症例
13歳の生来健康な男児
 前頭洞炎と、前頭骨骨髄炎、硬膜外膿瘍と診断された。セフォタキシムとリンコマイシンの点滴を開始した。培養から、Streptococcus intermedius、MSSA、Eikenella corrodensが検出され、セフォタキシムは継続したが、リンコマイシンをフルクロキサシリンに変更した。16日目に、薬疹を認め、抗菌薬は、リンコマイシンとシプロフロキサシン(500mg、12時間毎)に変更した。
 シプロフロキサシン開始から4日目に末梢神経障害が出現した。両上下肢の感覚異常を訴え、両手は紅斑し、熱感と腫脹を認めた。患者は、手足の感覚を「何千匹ものアリに噛まれているようだ」と表現し、両手両足を氷水に浸すと、症状は緩和された。シプロフロキサシンを中止したところ、24時間以内に症状は完全に消失した。
 
年齢
抗菌薬
発症時期
副反応
9歳
シプロフロキサシン
不明
末梢神経障害
12歳
レボフロキサシン
不明
10歳
ノルフロキサシン
不明
末梢神経障害
15歳
オフロキサシン
不明
末梢神経障害
11歳
レボフロキサシン
5日目
末梢神経障害
16歳
シプロフロキサシン
1-2週目
下肢の感覚異常と疼痛
<18歳
モキシフロキサシン
不明
末梢神経障害
13歳
シプロフロキサシン
4日目
末梢神経障害
 
成人の報告では、頭痛、眠気、興奮、精神病、痙攣、末梢の感覚障害や運動障害などのキノロンによる神経毒性関連の症状を発症する可能性があります。これらの症状は、投与後1週間以内に発症することが最も多く、急激に発症することもあれば、長期間持続することもある。
 
シプロフロキサシンを含むフルオロキノロン系薬剤は、動物実験で筋骨格への影響が懸念され、小児へは慎重に使用されてきました。これまでのところ、長期的な筋骨格への影響を示す強いエビデンスはない。報告は少ないものの、フルオロキノロンを処方する際は、末梢神経毒性のリスクを認識しておく必要がある。特に、乳幼児の場合、症状を言葉で伝えたり、症状を正確に解釈したりすることが難しいため、気づかないことがありえる。
 
2016年のFDAレビューを受け、米国小児科学会は、フルオロキノロンは多剤耐性感染症にのみ使用するか、フルオロキノロンの経口投与が静注抗菌薬の代わりになる場合にのみ使用すべきであると勧告している。

小児の不明熱で押さえておきたい疾患「菊池病」

 菊池病は、若い女性に多い疾患で、亜急性壊死性リンパ節炎とも呼ばれています。不明熱の原因にもなりますが、小児科領域においては、あまり認知度が高くありません。(おそらく、リンパ節生検の敷居が高いためだと思われます。)
 実際に臨床をしていると、生検はしなかったけど、おそらく菊池病だったよね、というケースを経験します。
 小児の菊池病に関して、文献レビューを行った論文がありましたので、紹介します。小児の菊池病の症状から検査所見、治療に至るまで、現状がよく分かる研究です。

 

Kikuchi Disease in Children: Case Report and Review of the Literature
Abdu A, et al. Pediatr Infect Dis J . 2021 Nov 30.
背景
 菊池病(KD)は、発熱や頸部リンパ節腫脹などの非特異的な症状を呈する、まれな病因不明の良性疾患である。臨床症状は様々である。10歳の女児の非典型的なKDの症例提示を行い、小児におけるKDの臨床症状、臨床検査の特徴、治療に関する最新の文献レビューを行った。
 
方法
 以下の検索項目(Kikuchi-Fujimoto disease or histiocytic necrotizing lymphadenitis or Kikuchi disease)を用いてPubMedを検索し,研究(2020年2月までに発表されたもの)を特定した。一次検索の結果、1117件の論文が該当した。最終的な解析対象となったのは34件の論文で、患者数は670人であった。
 
結果
 すべての小児患者がリンパ節腫脹を呈していた。ほぼ全例(96.3%)が頸部リンパ節腫脹を認めた。発熱は大部分の患者(77.1%)に認められた。臨床検査では、過半数の患者が白血球減少(56.0%)とESP亢進(56.0%)を認めた。また、30%以上の患者がCRP上昇と貧血を呈した。白血球減少・血小板減少・抗核抗体陽性などの所見が見られる頻度は、低かった。KDは、ほとんどが自然治癒するが、長期間症状が持続する場合には、ステロイド、ヒドロキシクロロキン、免疫グロブリンの静注が行われていた。これらの治療の有効性は、臨床試験ではまだ確立されていない。
 
結論
 KDの症状は多様であり、診断を確定する特定の症状や検査項目は存在しないため、病理組織学的診断が重要である。確実な評価と有効な治療法の確立には、今後の前向きな研究が必要である。
 
 
論文の内容
1.疫学
 ・やっぱりアジアからの報告が多い:特に韓国・中国・日本・台湾が多いようです。
 ・平均年齢 12.5歳 (最年少は9ヶ月だが、多くは10歳台)
 ・男女比 1.2 : 1 で男児に多い。成人の菊池病が女性に多いのと対象的です。

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2.主要な症状

 基本的には、リンパ節が腫れて、熱が出る病気です。
 川崎病(奇しくも略語はKD)もリンパ節が腫れて熱が出る病気ですが、川崎病のリンパ節は、多胞性で、痛みも強く、顔の形が変わるくらいになります。一方、菊池病のリンパ節は、触診すると患者さんは痛がりますが、そこまでサイズが大きくない感じです。

症状
割合
リンパ節腫脹
100%
発熱
77.1%
頭痛
12.5%
上気道炎症状
11.5%
発疹
11.2%
食欲低下
8.9%
倦怠感
8.9%
盗汗
7.4%
体重減少
6.6%
肝腫大
4.6%
関節痛・関節炎
4.1%
3.8%
嘔吐
2.5%
筋肉痛
2.5%
脾腫
2.3%
腹痛
2.0%
結膜炎・ぶどう膜炎
1.5%
悪寒
1.3%
下痢
0.8%
めまい
0.8%
髄膜脳炎
0.8%
胸水貯留
0.3%
脱毛
0.3%
光線過敏
0.3%

 

3. リンパ節腫脹の部位

 殆どが、頸部リンパ節に限局しています。

部位
割合
頸部
96.3%
3.8%
鎖骨上
2.2%
腹部
2.1%
鼠径部
1.7%
全身
0.2%

 

4. 血液検査の特徴

 白血球減少が特徴的です。個人的な印象ですが、極端に白血球数は低下しません。せいぜい3000台くらいのイメージです。CRPは熱の割に上がらないなあという印象です。(そこも川崎病と異なります。)

血液検査の特徴
割合
白血球減少
56.0%
白血球増加
4.4%
貧血
33.6%
血小板減少
14.4%
CRP上昇
32.3%
ESR亢進
56.0%
抗核抗体陽性
18.6%

 

5. 治療選択

 決まった治療が無いので難しいですね。抗菌薬は投与したり、しなかったりですが、個人的には猫ひっかき病やマイコプラズマの頸部リンパ節炎の経験もあるので、菊池病と疑っても、マクロライドで治療反応をみることが比較的多いです。マクロライドで治療している間に、治療反応が無い時の対応(リンパ節生検やステロイドでの治療)を計画しています。

治療内容
割合
抗菌薬
46.6%
36.0%
ヒドロキシクロロキン
1.3%
NSAIDS
12.2%
IVIG
1.3%

 

 現時点では、小児の菊池病において文献的なレビューが最もしっかりしている論文だと思います。とても、勉強になりました。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ファイザーワクチン5-11歳での効果と安全性の報告

すでに日本では承認されましたが、ファイザーワクチンを5-11歳の小児に接種した場合の、安全性・効果についての報告です。10μgと少ない量でも十分な反応が得られるようです。
 
Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age 
Walter EB, et al. N Engl J Med. 2022. PMID: 34752019
 
背景
12歳未満の小児において、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対する安全で効果的なワクチンが緊急に必要とされている。
 
方法
第1相の用量設定試験および第2-3相無作為化試験を実施した。生後6カ月から11歳までの小児を対象に、BNT162b2ワクチン(ファイザーワクチン)を21日間隔で2回接種した際の安全性、免疫原性、有効性を検討した。今回は、5-11歳までの結果を紹介する。第2-3相試験では、参加者は、第1相試験で確認された用量のBNT162b2ワクチンを2回接種する群と、プラセボを投与する群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。BNT162b2の2回目の投与から1カ月後の免疫反応は、30μgのBNT162b2を2回投与した16歳から25歳の被験者の免疫反応と比較した。また、2回目の投与から7日以上経過した時点でのCovid-19に対するワクチンの有効性を評価した。
 
結果
第1相試験では,5-11歳の小児48名にBNT162b2ワクチンを10μg,20μg,30μgのいずれかの用量で投与した(各用量16名)。反応原性と免疫原性に基づいて、10μgが選択された。第2-3相試験では、2,268人の小児が無作為にBNT162b2ワクチン(1517人)またはプラセボ(751人)の投与を受けた。データ収集時点での追跡調査期間の中央値は2.3カ月であった。5-11歳までの年齢層では、他の年齢層と同様に、BNT162b2ワクチンの安全性は良好であった。重篤な有害事象は認められなかった。2 回目の接種から 1 カ月後、5-11 歳と 16-25 歳のSARS-CoV-2中和抗体価の平均値の比は 1.04(95%信頼区間[CI]0.93-1.18)であり、事前に規定した免疫原性の基準を満たしていた。BNT162b2ワクチンを接種した3名とプラセボを接種した16名が、2回目の接種から7日以上経過してCOVID-19を発症した。(ワクチンの有効性90.7%;95%CI,67.7~98.3).
 
結論
5-11歳の小児において、BNT162b2(10μg)を21日間隔で2回接種する方法で、安全性、免疫原性、有効性が確認された。
 

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