小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の末梢ラインの固定方法

 子どもの末梢静脈ラインの確保は、成人に比べて難しいですが、固定方法も同じくらい難しいです。昔の指導医が、「最もテープを少なく、最も動かなくするか」が大事と言っていましたが、未だに自分なりの絶対解はありません。そもそも、病院によって、固定方法が結構違っているので、その病院のルールに合わせています。

 以前は、「固定用の被覆材=テガダーム」でしたが、最近はいろんな製品が出ています。泣いて、汗をかいた子どもの皮膚には、フィルムが張り付きにくく、とても苦労します。

 今回、小児の末梢静脈ラインの固定に使用する製品を比較して、どれが最も末梢静脈ラインを長持ちさせられるかを検討しました。対象は、テガダーム VS ソーバービュー・シールド VS ソーバービュー・シールド+セキュアポートLP(接着剤)です。これは、日本中の小児科医が注目するガチンコ対決です。

 ちなみに、私はCOIはありません。

 

製品紹介です

テガダーム:3M製。元祖、固定用フィルム。白いテープを剥がすと、透明のフィルムのみ残ります。陶器のことを瀬戸物と呼ぶ如く、点滴の固定フィルムをテガダームと呼び続けるドクターもいます。

ソーバービュー・シールド:最近多い、白いシールがくっついているタイプのフィルム材です。シール部分が、皮膚と強く接着するようになり、剥がれにくいです。

セキュアポートLP:点滴の刺入部に滴下すると固まる皮膚用の接着剤です。個人的には使用した経験が無いですが、日本でも売っているようです。

 

要点

・テガダームは、1週間で約半数が駄目になるが、ソーバービューでは70%程度が使用できている。

・セキュアポートLPを追加すると、更に温存できる可能性が高くなる(80%以上)。
・コスト面でも、テガダームより優れる。

 

A. Novel Peripheral Intravenous Catheter Securement for Children and Catheter Failure Reduction: A Randomized Clinical Trial.

JAMA Pediatr. 2024 Apr 1:e240167.

 
はじめに
 末梢静脈カテーテル(PIVC)は重要な医療デバイスであるが、トラブルが多い。新たなカテーテルの固定戦略によりトラブルが減少し、患者の転帰が改善する可能性がある。小児に対する新しいPIVC固定技術の臨床的有効性を評価し、カテーテルトラブルを減少させる。
 
方法
 2020年2月5日から2022年1月14日まで、3群間の無作為化比較臨床試験をオーストラリアの2病院で実施した。入院治療においてPIVCが24時間以上必要と予想される生後6ヵ月~8歳の小児を対象とした。データは2022年5月25日から2024年2月20日まで解析された。対象者は、標準固定法であるボーダーポリウレタンドレッシング(Tegaderm[3M])、一体型固定ドレッシング(SorbaView SHIELD[Medline])、組織接着剤+一体型固定ドレッシング(Secureport IV)に1:1:1の割合でランダムに割り付けられた。患者1人につき1本のカテーテルを調査した。 主要転帰はPIVCの失敗とした。計画された治療が完了する前に何らかの理由でPIVCの機能が早期に停止した場合と定義した。副次的アウトカムは、PIVC合併症(事故抜去、閉塞、漏出、部分的な抜去、血管外漏出、静脈炎、疼痛)、PIVCが維持できた期間、認容性(臨床医、参加者、介護者;0-10スケール)、抜去時の疼痛(参加者、介護者;年齢に関連した0-10スケール)、有害事象、医療費である。
 
結果
 合計383例の患者(女児51%;年齢中央値36ヶ月[25~75パーセンタイル、22~72ヶ月])が、標準固定群134例、一体型固定ドレッシング群118例、組織接着剤+一体型固定ドレッシング群131例に無作為に割り付けられた。PIVC失敗は、組織接着剤+一体型固定ドレッシング(15例[12%]、調整ハザード比[aHR] 0.47;95%CI 0.26-0.84)で、一体型固定ドレッシング材(24例[21%]、aHR 0.78;95%CI 0.47-1.28)および標準固定群(43例[34%])と比較して最も低かった。デバイストラブルに関連する経済的費用を考慮すると、組織接着剤+一体型固定ドレッシング材(中央値[A$] 312; IQR A$302-A$380)および一体型固定ドレッシング材(中央値 A$303; IQR A$294-A$465)は、標準固定法(中央値 A$341; IQR A$297-A$592; P≦0.002)と比較して、費用が有意に安かった。PIVCが維持できた期間と認容性は全群で同様であった。
 
結論
 本研究では、小児の入院患者に対し、標準固定法であるポリウレタンドレッシングと比較し、一体型固定ドレッシングと組織接着剤を用いたPIVCは、PIVCの失敗を有意に減少させた。今後は、長期間留置と信頼性の高い静脈アクセスが必要とされる入院病棟での研究を実施するべきである。
 
臨床試験登録: Australian New Zealand Clinical Trials Registry Identifier:ACTRN12619001026112.
 

Kaplan-Meier Curve of the Primary Outcome by Study Groups