キノロン系抗菌薬は、小児には基本的には使用しない薬剤です。しかし、どうしてもキノロンを使わざるを得ない状況もまれにはあります。また、国内ではトスフロキサシンという経口キノロンがマイコプラズマ肺炎などによく使われている現状があります。
しかし、小児科医は往々にして、キノロンの副作用については、あまり認識していないように思います。
今回紹介する論文は、シプロフロキサシンによる末梢神経障害の報告と、これまでの報告のまとめです。小児の症例数は少ないですが、もともと使用している人数も少ないので、頻度はよく分かりません。
Ciprofloxacin-associated Peripheral Neuropathy in a Child: A Case Report and Review of the Literature
Pediatr Infect Dis J . 2022 Feb 1;41(2):121-122.
キノロン系抗菌薬の副作用として、末梢神経障害は、成人領域でよく知られている。2013年にFDAは、この神経障害について警告を出した。しかし、小児においては、報告も限られており、頻度や症状についてははっきりしたものは分かっていない。本報告では、著者らの経験した症例を提示し、これまでの報告から小児例をまとめた。
症例
13歳の生来健康な男児
前頭洞炎と、前頭骨骨髄炎、硬膜外膿瘍と診断された。セフォタキシムとリンコマイシンの点滴を開始した。培養から、Streptococcus intermedius、MSSA、Eikenella corrodensが検出され、セフォタキシムは継続したが、リンコマイシンをフルクロキサシリンに変更した。16日目に、薬疹を認め、抗菌薬は、リンコマイシンとシプロフロキサシン(500mg、12時間毎)に変更した。
シプロフロキサシン開始から4日目に末梢神経障害が出現した。両上下肢の感覚異常を訴え、両手は紅斑し、熱感と腫脹を認めた。患者は、手足の感覚を「何千匹ものアリに噛まれているようだ」と表現し、両手両足を氷水に浸すと、症状は緩和された。シプロフロキサシンを中止したところ、24時間以内に症状は完全に消失した。
年齢
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抗菌薬
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発症時期
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副反応
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9歳
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シプロフロキサシン
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不明
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末梢神経障害
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12歳
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レボフロキサシン
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不明
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10歳
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ノルフロキサシン
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不明
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末梢神経障害
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15歳
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オフロキサシン
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不明
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末梢神経障害
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11歳
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レボフロキサシン
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5日目
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末梢神経障害
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16歳
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シプロフロキサシン
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1-2週目
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下肢の感覚異常と疼痛
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<18歳
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モキシフロキサシン
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不明
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末梢神経障害
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13歳
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シプロフロキサシン
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4日目
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末梢神経障害
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成人の報告では、頭痛、眠気、興奮、精神病、痙攣、末梢の感覚障害や運動障害などのキノロンによる神経毒性関連の症状を発症する可能性があります。これらの症状は、投与後1週間以内に発症することが最も多く、急激に発症することもあれば、長期間持続することもある。
シプロフロキサシンを含むフルオロキノロン系薬剤は、動物実験で筋骨格への影響が懸念され、小児へは慎重に使用されてきました。これまでのところ、長期的な筋骨格への影響を示す強いエビデンスはない。報告は少ないものの、フルオロキノロンを処方する際は、末梢神経毒性のリスクを認識しておく必要がある。特に、乳幼児の場合、症状を言葉で伝えたり、症状を正確に解釈したりすることが難しいため、気づかないことがありえる。