小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

結局、内科医は知識があってなんぼです。

 X(Twitter)では、大阪のトンデモ医師が話題になっていますが、医師(特に内科医)にとって、医学知識はよい医療を提供するために必須です。常に勉強です…。

 知らない病気は診断できないし、診断できなければ治療もできません。私もたまにそういう患者さんに出会い、「医者の無知は恐ろしい」と思います。

 

 さて、今回の論文は成人の内科医(ホスピタリスト)で、専門医試験の成績が良いと患者予後が良くなるか、内科研修のマイルストーン評価が高ければ、患者予後が良くなるかを検討した研究です。

 研修のマイルストーンと言うのが分かりにくいですが、このようなサイトで紹介されています。

「ACGMEコア・コンピテンシーは、医師が病気を診断・治療し、患者の健康とウェルネスを継続的に改善するための戦略を提案・実行し、患者の病気を予防するためのアドバイスやリソースを提供し、患者をケアし、患者の家族やサポートシステムと交流する中で、身体的な治療だけでなく精神的なサポートも提供するために、医師が高いレベルのケアを行う能力を測るものである。」

ACGMEの6つのコアコンピテンシーは以下の通りである:

  • 実践に基づく学習と改善
  • 患者ケアと手続き技能
  • システム・ベースの実践
  • 医療知識
  • 対人スキルとコミュニケーション・スキル
  • プロフェッショナリズム

 端的に言うと、患者の病気を治すだけではなく、退院後につながるケア方針を立てて、次の病気を予防し、精神的なサポートもするという、総合的な力を測る方法みたいです。

knowledgeplus.nejm.org

 

要点

・米国のホスピタリストにおいて、内科専門医試験の上位合格者が担当したほうが患者予後は良くなる。他科コンサルテーションを行う割合も多い。

・一方、コア・コンピテンシーの評価が高い医師が担当しても、患者予後には影響がなかった。(総合的な患者ケアの質や長期的な予後は今回の検討対象ではありません)

Associations of Internal Medicine Residency Milestone Ratings and Certification Examination Scores With Patient Outcomes.
JAMA. 2024 May 6. doi: 10.1001/jama.2024.5268.
 
要旨
はじめに
 内科研修医に対する医学教育と能力評価において重要であるにも関わらず、内科医のマイルストーン評価と米国内科学会の専門医試験と入院患者の転帰との関係に関するエビデンスは乏しい。本研究では、内科医のマイルストーン評価および専門医試験の成績と入院患者の転帰との関連を検討した。
 
方法
 2016~2018年に米国で内科研修を修了し、2017~2019年に米国の病院でメディケア有料サービス受給患者を担当したホスピタリスト6898例を対象とした後方視的コホート解析である。主要評価項目は、7日死亡率と再入院率とした。30日死亡率および再入院率、入院期間、専門家へのコンサルテーション頻度も評価した。解析では医療機関による影響を考慮し、患者特性、医師の経験年数、年次で調整した。専門医試験の成績四分位値とマイルストーン評価(研修終了マイルストーンの総合的コア・コンピテンシー評価指標と、知識コア・コンピテンシー評価指標で、低・中・高の3段階評価)ごとに、評価を行った。
 
結果
 455120例の入院患者の年齢中央値は79歳(IQR、73~86歳)、56.5%が女性、1.9%がアジア人、9.8%が黒人、4.6%がヒスパニック、81.9%が白人であった。7日後の死亡率と再入院率はそれぞれ3.5%(95%信頼区間、3.4%-3.6%)と5.6%(95%信頼区間、5.5%-5.6%)であった。30日後の死亡率と再入院率はそれぞれ8.8%(95%信頼区間、8.7%-8.9%)と16.6%(95%信頼区間、16.5%-16.7%)であった。平均在院日数は3.6日(95%CI、3.6-3.6日)、専門医試験受験回数は1.01回(95%CI、1.00-1.03回)であった。総合的および知識マイルストーンコンピテンシー評価は、アウトカム指標のいずれとも関連していなかった。一方、専門医試験成績の上位1/4の医師と下位1/4の医師では、上位1/4の医師が担当したほうが、担当患者の7日死亡率が8.0%減少(95%CI、-13.0%~-3.1%;P = 0.002)し、7日再入院率が9.3%減少(95%CI、-13.0%~-5.7%;P < 0.001)した。30日死亡率は、3.5%減少(95%CI、-6.7%~-0.4%;P = 0.03)した。成績上位の医師は、他科コンサルテーション回数が2.4%多く(95%CI、0.8%~3.9%;P < 0.003)、入院期間や30日再入院率と成績は関連していなかった。
 
結論
 米国の内科専門医研修を受けたホスピタリストにおいて、専門医試験の成績は、メディケア受給者の入院患者の転帰の改善と関連していた。一方、研修マイルストーンの評価とは関連がなかった。
 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

Overall Core Competency Associations: Adjusted Percentage Difference Compared With the Adjusted Low Ratings Category Outcome

総合的なコア・コンピテンシーの評価と患者予後。コア・コンピテンシーの評価による患者予後の差はない。

 

 

Certifying Examination Quartile Associations: Adjusted Percentage Difference Compared With the Adjusted Bottom Quartile Outcome

一方、内科専門医試験の上位合格者が担当した場合には、死亡率・再入院率も低い。また、他科コンサルテーションを行う率も高い。