小児感染症科医のお勉強ノート

群馬で小児の感染症を専門に診療しています。最新の論文紹介や病気のまとめを紹介します。

小児の黄色ブドウ球菌菌血症の治療戦略

Pediatricsから小児の黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)に関するレビューが出ました。非常に重要な論文なので、ほとんど全文を訳しました。
感染症に詳しくない先生もこれだけは知っておいて下さい
「血液培養から出た黄色ブドウ球菌は、(ほぼ)すべて本物の菌血症です」
 
Clinical Management of Staphylococcus aureus Bacteremia in Neonates, Children, and Adolescents
McMullan BJ, et al. Pediatrics. 2020 Aug 5;e20200134.
 
 黄色ブドウ球菌は、市中および医療関連菌血症の一般的な原因菌であり、最近の研究では、高所得国における黄色ブドウ球菌菌血症(S. aureus bacteremia: SAB)の発生率は、年間10万人小児人口あたり8~26人と推定されている。しかし、SABの治療効果を評価するための無作為ランダム化比較試験を実施された症例数は300人未満である。小児のSABの臨床および研究に関心を持つ感染症専門医パネルは、7つの重要な臨床疑問点を特定した。入手可能な文献を評価し、これら臨床上の疑問に関連して小児のSAB管理を要約した。新生児、小児、および青年のSABの管理は、主に臨床経験と成人の研究から外挿した試験データに基づいており、管理の指針となる質の高いエビデンスは限られている。小児のSABに対する最適で包括的な管理戦略は、SABの前向き観察コホートおよび臨床試験によって結果が得られるまで、不明である。
 
Q1.小児における SAB の発症の疫学的危険因子は何か?
 人口の約 30%が黄色ブドウ球菌を保菌している可能性があり、さらに 30%が断続的に保菌している可能性がある 。
 低年齢はSABの危険因子である。乳児の発生率は人口10万人あたり16.7人と高く、新生児の発生率は人口10万人あたり124.8人と高いことが報告されている。 NICUでは、低出生体重および早産は、SABの頻度と相関している。
 小児のSABの発生率は、いくつかの研究では人種によって異なり、これらの違いは社会的要因(社会経済的地位、世帯の混雑、地理的要因)と関連している可能性がある。対照的に、NICU患者を対象とした多施設共同研究では、地域的な影響を補正すると、人種によるSABの発生率に差はないとしている。
 小児における医療関連SABの最も頻度の高い原因は中心静脈カテーテル(CVC)感染症である。入院歴、HIV感染、栄養不良、長期療養施設での居住歴は、市中感染MRSA皮膚軟部組織感染症(SSTI)後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌血症(MRSA-B)の発生と関連している 。黄色ブドウ球菌は、基礎疾患のない小児にも菌血症を発生させることがある。
 
Q1の要約:若年(特に生後1ヶ月未満)、社会経済的要因、CVCは、小児におけるSABの危険因子である。基礎疾患もリスクと考えられる;さらなる小児特有の解析が必要である。
 
 
Q2. 小児の場合、すべてのSABは真の菌血症であるか?
 SABは軽度から重度のものまであり、血流中に無症状で検出されることはまれである(皮膚に保菌した患者のコンタミネーションと推定される)。さらに、明らかな感染巣のない小児のSABは、高い死亡率と関連している。
 
Q2の要約:SAB感染症の重症度は広範囲にわたる。黄色ブドウ球菌による血液培養の汚染はまれである。したがって、血液培養から分離されたS. aureusは常に真の菌血症と考え、抗菌薬治療を行うことを推奨する(図1)。

f:id:PedsID:20200810170127p:plain

Q3. 小児の複雑性SAB (complicated SAB)はどのように定義されるべきか?
 観察研究に基づいて、成人の非複雑性SABは、心内膜炎や体内人工物がない、48-72時間後の血液培養が陰性化、治療開始後72時間以内に解熱している、感染の播種病変がないこと、と定義されている。
 
 対照的に、小児の複雑性SABについては、エビデンスに基づいたコンセンサスがなく、管理が層別化されていない;治療期間は疾患の重症度に応じて変化し、臨床医の判断に依存することが多い。観察研究や症例シリーズでは、小児におけるSABと壊死性肺炎、敗血症、ICU入院、実質臓器内の膿瘍、心内膜炎、複数の病巣があるSSTI または骨関節感染症(OAI)、深部静脈血栓症の予後が悪いことが示唆されている。しかし、MRSA自体は死亡の危険因子として報告されていない。予後因子については、大規模な前向き研究されておらず、強力なエビデンスはない。
 
Q3の要約:現在、複雑性SABの定義は小児ではない。今後の研究では、治療後72時間を超えた持続的な菌血症や発熱、多巣性・複雑な局所感染、心内膜炎などの危険因子を検討すべきである。小児における複雑性SABの定義は、治療期間、予後、経口治療へ切り替えるタイミングを知るための重要なステップである。
 
Q4. SABを発症したすべての小児に感染症コンサルト、心エコー検査、画像診断、繰り返しの血液培養が必要か?
 成人のSABで感染症専門医へのコンサルト(IDC)の意義は、システマティックレビューで検討されている。30日死亡率はIDC群で有意に減少し(12.39%対26.07%)、相対リスクは0.53(95%信頼区間[CI] 0.43-0.65)であった。最近、小児の小規模なコホート研究で、IDCにより、心エコーが実施される割合が増加し、除去可能な感染巣が同定される割合が増加した。また、小児のSABでも死亡率の低下が実証された(B.J.M.未発表)。
 
 成人SABでは、心エコー検査や血液培養を繰り返し血液培養陰性化を確認することが日常的に推奨されている(図1)。成人のSAB患者における心内膜炎の発生率は、患者集団や検出方法により様々である。対照的に、心内膜炎は、先天性心疾患の無い小児ではまれであるが、先天性心疾患を持つ小児の1/3に発症する可能性がある。経胸壁心エコー検査(TTE)は、比較的高品質の画像が得られ、全身麻酔を避けることができ、ほとんどの小児でIEの検査前確率が低いことなどの理由から、経食道心エコー検査よりも、小児に好まれる。
 小児SABを対象とした前向き研究では、48~72時間後に菌血症が持続することはまれで、血液培養を繰り返し行うかはばらつきがある。小児のMRSAを対象とした後向きコホート研究では、CVC感染は治療失敗率が低いのに対し、血管内感染は治療の失敗率が高い。
 OAI(骨関節感染症)が原因のSABは、成人の16%であるのに対し、小児では約30%と頻度が高い。MRIはOAIの検出感度が高いが、低年齢では鎮静・全身麻酔を必要とすることが多い。慢性骨髄炎における活動性炎症と非活動性炎症の区別には、PET検査などの新しい技術が有用かもしれないが、主に成人を対象に評価され、小児での研究は少ない。
 
Q4の要約:小児のSABエピソードに対して利用可能なら感染症コンサルトが推奨される。心内膜炎は一般に小児のSAB患者ではまれで、危険因子(先天性心疾患など)や心内膜炎を示唆する臨床的特徴を有する患者にはTTEを実施すべきである。心エコー検査や陰性化を確認するための血液培養を繰り返し行うべきである。画像診断は、症状が持続している患者や、感染巣が不明な菌血症の患者で、骨関節・筋肉の感染巣を検出するのに有用なことがある。
 
Q5. 小児のメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対するセファロスポリン、グリコペプチド、新規抗菌薬は、ブドウ球菌ペニシリンASP)と同等か?
 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌血症(MSSA-B)では、β-ラクタムと比較してグリコペプチドで治療した場合の転帰が劣ることが報告されている。1,000症例以上の小児SABを対象とした研究で、30日死亡率はグリコペプチド投与群で増加し、調整オッズ比は2.7(95%CI 1.3-5.8)であった。MSSA-Bに対してグリコペプチドまたはβ-ラクタムの治療を受けた成人5784人の検討では、重症度、併存疾患、骨髄炎、年齢、β-ラクタムアレルギー、透析・末期腎疾患などの要因を調整すると、セファゾリンまたは抗ブドウ球菌ペニシリンASP)は、バンコマイシンと比較して死亡率を減少させる(ハザード比:0.57;95%CI 0.46-0.71)。
 SABに対してセファロスポリンを含むβ-ラクタム系薬剤とASPのどちらが良いか、小児のデータは無く、この薬剤を評価する臨床試験にはほとんど小児が含まれていない。診療ガイドラインでは、オキサシリン、ナフシリン、フルクロキサシリンなどのASPをMSSA-Bの治療の第一選択薬として推奨している。最近の発表されたいくつかのメタアナリシスでは、成人のMSSA-B患者において、セファゾリンASPの治療成績は同等、またはセファゾリンが有利であるとしている。 
 成人を対象としたSSTIの治療に関する非劣性試験で、β-ラクタム系薬剤と新しい薬剤を比較している(例:ダプトマイシンおよびテラバンシン)が、MSSA-Bの患者数が少ないため、結論は得られていない。MSSA感染症の200人以上の小児を対象に、SSTIのlinezolidとcefadroxilの比較を検討したRCTでは、21日目の臨床治癒率がそれぞれ90%と91%であったことを報告している(P = 0.737)。この試験ではSABの症例数は不明で、この結果から、菌血症治療に関する結論は出せない。
 
Q5要約:β-ラクタムは、小児MSSA-Bの治療にはグリコペプチドよりも優れている(図1)。また、新規抗ブドウ球菌薬とβ-ラクタム系薬剤を比較した小児のMSSA-B治療薬の研究は発表されていない。S. aureus感染症の治療に関する臨床試験では、菌血症患者の数と転帰について報告すべきである。
 
Q6. MRSA菌血症の小児への最適な治療戦略と併用療法の役割とは?
 バンコマイシンは、MRSA-Bやβ-ラクタム系アレルギーを持つ患者に推奨される第一選択の治療法であり、小児への使用歴が長く、黄色ブドウ球菌感染症治療に用いられる新規薬剤との比較対象となっている(図1)。一般的に、小児への 1 日 60 mg/kg の投与は、1 日 40 mg/kg よりも AUC24/MIC 比が 400 以上になる可能性が高いが、小児では血清トラフ値と臨床成績との相関関係は示されていない。小児のトラフ値が15mg/Lを超えると、臨床成績の改善なしに腎毒性のリスクが高まることを示す証拠がいくつかある。バンコマイシン中等度(MIC 4~8 ug/mL)およびバンコマイシン耐性(MIC 16 ug/mL以上)株は依然としてまれであるが、バンコマイシンに対する臨床効果が不十分、あるいは全くない持続性SABの場合には、これらの耐性株を考慮すべきである。
 
【代替抗菌薬】
 ダプトマイシンの排泄率は年齢に反比例し、若い患者では排泄率が高い。小児では相対的にダプトマイシンの用量を増やすことが必要である。毒性には、まれに神経症状および横紋筋融解症などが生じる。現時点で、生後12ヶ月未満の小児に対するデータは不十分である。1-17歳のSAB患者(n = 82)を対象とした臨床試験では、標準治療(セファゾリンまたはバンコマイシン)と比較して、ダプトマイシンの安全性と有効性は同等であることが示されたが、この試験は非劣性を評価するには症例数が不足していた。
 リネゾリドは経口吸収が良好で高い組織移行性を有するオキサゾリジノン系抗生物質である。リネゾリドは、小児SSTI  815 人を対象としたRCT が行われており、リネゾリドを1回10mg/kg を 8-12 時間ごとに投与している。副作用は骨髄抑制、末梢神経障害および視神経障害があるが、治療開始から3週間目以降に起こる可能性が高い。
 SSTIと市中肺炎の小児および成人患者を対象としたセフタロリンのRCTが報告されている。セフタロリンはMRSA-B患者(心内膜炎を含む)のサルベージ療法として症例シリーズ検討された。
 クリンダマイシンは、OAIの小児99例、侵襲性黄色ブドウ球菌感染症の小児63例の観察研究で検討された。クリンダマイシンはRCTでSABに対する治療として検討されておらず、再発リスクが高く、心内膜炎には使用しないことが推奨されている。
 ST合剤(co-trimoxazole)は、小児のブドウ球菌SSTIに一般的に使用されている。SABの小児におけるST合剤の有効性に関する臨床試験は報告されていない。オーストラリアの小規模な後向き研究では、トST合剤の経口投与を継続した SAB の小児 8人中2人が再発した。
 専門家の中には、ブドウ球菌の毒素が病態の疾患が疑われる患者に対しては、毒素産生を抑えるためにクリンダマイシンやリネゾリドなどのタンパク質合成阻害抗生物質の投与を検討することを推奨したり、SABが持続する患者、特にMRSAが原因菌の患者に対しては併用療法を検討することを推奨することもある。
 小児において、SABに対するリファンピシン併用に関するRCTは報告されていない。バンコマイシンとリファンピシンを併用した場合、持続性SABをの治療に有益であるとの報告もあったが、ARREST試験で否定されている。
同様に、ゲンタマイシンとの併用療法のエビデンスは不足している。3つのRCTと前向き研究のメタ解析では、黄色ブドウ球菌性心内膜炎でβ-ラクタムと併用した場合、臨床治癒率や死亡率の改善は示されなかった。
 
Q6 まとめ:小児のMRSA-Bに対する第一選択薬として、バンコマイシンは1日45~60mg/kgからの投与開始が推奨される(図1)。モニタリング(TDM)を行う場合、AUC/MICが400以上を求めるべきである。しかし、小児においては、バンコマイシンのTDMにより、治療効果が向上したデータは限られている。小児のSABには代替薬が使用されることもあるが、今後、代替薬の比較検討が必要である。
 
Q7. SABの小児に対する点滴治療の期間:小児と成人では異なるのか?
 SABの小児に対する点滴治療の期間に関するエビデンスはほとんどない。歴史的に、小児の治療は成人のデータを利用してきた。SABの新生児のサブグループ分析では、7日間の治療を受けた7人中4人(57%)が再発したが、14日間治療した群では再発がなかった(7人中0人[0%]、P = 0.022)。新生児は高リスク群であり、これらのデータを年長児にも適応することは困難である。OAIの小児192人を対象とした観察研究で、MRSA-Bでは、バンコマイシン点滴治療を7日未満にしても、適切に経口抗菌薬に変更した場合、再発の増加はなかった。
 最近の前向きRCTであるPOET研究で、MSSA心内膜炎の成人87人を対象に、左心系心内膜炎に対して点滴→経口抗菌薬治療と全期間点滴抗菌薬治療の比較を検討した。抗菌薬の静脈内投与を最低10日間行った後に経口投与に変更した場合、全死亡・予定外の心臓手術・塞栓イベント・菌血症の再発という転帰は、全期間点滴治療を継続した場合と比較し非劣性であった(オッズ比0.84 [95% CI 0.15-4.78])。
 
Q7の要約:小児のSABに対する治療期間は、主にこれまでの診療経験に基づいている。より良いエビデンスが得られるまでは、感染巣の無いSABのほとんどの小児では7-14日、新生児には14日以上、心内膜炎には少なくとも4-6週間の点滴治療が推奨される(図1)。SABを伴うOAIの小児に対して、治療期間は3-6週間が推奨されるが、多くの患者は最低3日間の点滴治療後に経口投与に切り替えることができる。しかし、実際の臨床的・微生物学的反応を評価するには、この最低投与期間よりも長い期間が必要になることがある。
 
 
Discussion
 小児の菌血症の原因として、SABは一般的である。しかし、小児は決して小さな大人ではない:成人と比較して、30日死亡率は低く(5%対21%)、心内膜炎を合併する割合は少なく(1%対12%)、OAIに関連した割合は多い(32%対12%)。経験豊富な小児科医は、SABについて専門知識を持っている;例えば、菌血症が遷延することはまれであり、もともと健康であった小児は治療によく反応し、未熟な新生児は感染と死亡のリスクが高いことなどが挙げられる。このような知見にも関わらず、治療方針は施設によって異なるため、小児のSABの治療に特化した研究が望まれる。
 優先課題として、非複雑性と複雑性の小児SABにおける最適な治療期間の定義や、複雑性SABの患者に併用療法が有効であるかどうかなどが挙げられる。ARREST試験では、成人のSAB患者に対する標準治療と比較して、リファンピシン追加の有用性は明らかにされなかった。小児を対象とした試験がなければ、小児科医はエビデンスを持たないままである。
 
 小児のSABに関連する重要な疑問について、現在の知識(または不足)を示した。小児SABの最適で包括的な治療戦略は、質の高い前向き観察コホート臨床試験により、臨床的疑問に答えが得られるまでは不明のままである。