Gram陽性ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)からなります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(いわゆるMRSA)は40%程度、メチシリン耐性CNS(MRCNS)は70−80%程度の頻度で国内では見られます。
しかし、バンコマイシン感受性の菌の集団が中のごく一部にバンコマイシン低感受性の菌が混じっている事があります。この状態をバンコマイシンヘテロ耐性といいます。問題点は、一般的な検査でバンコマイシンが無効の菌が混じってますよとわかれば良いのですが、通常の細菌検査では判断出来ません。
ただ、臨床からの報告が、ほとんど海外のもので、ヘテロ耐性がどれだけ日本で一般的なことなのかは不明です。
ポイント
・「十分量のバンコマイシンを投与し、感染巣のコントロールを行ったにも関わらず菌血症が持続する」時、バンコマイシンヘテロ耐性も考え、バンコマイシンにこだわらず他の系統の抗菌薬(ダプトマイシンなど)に変更する事が重要。
Vancomycin heteroresistance in coagulase negative Staphylococcus blood stream infections from patients of intensive care units in Mansoura University Hospitals, Egypt
Mashaly GES, et al. Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2017;16:63.
背景
近年、コアグラーゼ陰性黄色ブドウ球菌(CoNS)におけるバンコマイシンヘテロ耐性は、特に血流感染症のような重症感染症の治療の失敗につながる可能性があるため、注目されている。Mansoura大学病院(MUHs)の集中治療室(ICU)患者の血流感染症の原因となるCoNSにおけるバンコマイシンヘテロ耐性の有病率については、ほとんど情報が得られていない。
方法
本前向き研究では、2014 年 1 月から 2016 年 3 月までの期間に血流感染症の臨床症状を呈した ICU 患者から採取した 743 例の血液サンプルを対象とした。ルーチン検査でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を同定した。菌株同定は、API Staph 32で行った。オキサシリン耐性CoNSはcefoxitinディスク拡散法により同定した。分離されたCoNSのバンコマイシンに対する感受性試験はバンコマイシン寒天希釈法を用いて行った.オキサシリン耐性についてはPCRによるMec A遺伝子検出を行った。バンコマイシンヘテロ耐性のスクリーニングは、4μg/mLのバンコマイシンを含むbrain heart infusion(BHI)寒天を用いて行った。バンコマイシンヘテロ耐性の確認は、population analysis profile(PAP)により行った。
結果
臨床的に血流感染が疑われる患者から,合計58株がCoNSとして同定された.確認された菌種は、S. epidermidis33株(56.9%)、S. capitis12株(20.7%)、S. haemolyticus7株(12.1%)、S. lugdunensis3株(5.2%)であった.3株はAPI Staph 32で同定不可能であった。オキサシリン耐性菌は44株(75.9%)であった。オキサシリン耐性株の全株にMec A遺伝子が検出された。また、寒天希釈法によるバンコマイシンのMICは全株が感受性であった。9株(15.5%)が4μg/mLのバンコマイシンを含むBHI寒天培地で生育した(バンコマイシンヘテロ耐性)。これらの分離株はPAPからvancomycinに対する耐性のプロファイルが不均一であった。
結論
バンコマイシンヘテロ耐性のCoNSは、ICU患者において、認識されていないが増加しつつある問題である。これらの分離株はバンコマイシンに対して感受性を示すMICを有している。これらの高リスク患者の臨床転帰を改善するためには,スクリーニング法が推奨される。
細菌検査室のルーチンの測定では、すべての株でバンコマイシンのMICは2μg/ml以下
→つまり「バンコマイシンは効く」ことになる
しかし、実際には…
9株のPAP。バンコマイシン濃度が4μg/mL以上でも、発育していることがわかる。
検査室で測定されたバンコマイシンのMICは、1か2なのに関わらず、PAPのMICは10以上を示していた