小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

バンコマイシンヘテロ耐性は治療失敗を増やすかも

 連続でバンコマイシンヘテロ耐性の話題です。St. Jude病院で白血病患者のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)によるカテーテル関連血流感染症を対象にした研究です。
 ヘテロ耐性がある株(すべてが表皮ブドウ球菌)と無い株で、患者背景や予後を検討しました。後方視的な検討なので、限界はありますが、それでも、ヘテロ耐性は患者の予後を悪化させる可能性があります。
 
要点
バンコマイシンの予防的投与が行われた患者で、バンコマイシンヘテロ耐性が検出されやすい。
バンコマイシンヘテロ耐性株が原因となると、治療失敗のリスクが高くなる
 
 
Vancomycin Heteroresistance and Clinical Outcomes in Bloodstream Infections Caused by Coagulase-Negative Staphylococci
Dao TH, et al. Antimicrob Ageents Chemother. 2020;64:e00944-20.
 
 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)は、免疫不全患者における重症感染症や再発性感染症の一般的な原因菌である。ほとんどの分離株はバンコマイシンに感受性があるように見えるが、1つの株に薬剤耐性を有する亜集団が存在する場合がある。この現象はヘテロ耐性と呼ばれ、治療に対する反応に悪影響を及ぼす可能性がある。St. Jude Children's Research Hospitalで治療を受けた小児白血病患者で、CoNSによる中心静脈カテーテル関連血流感染症(CLABSI)を発症した患者を対象に、後方視的コホート研究を行った。入手可能な分離株を配列決定し、集団解析プロファイリング(PAP)によりバンコマイシンヘテロ耐性の検査を行った。ヘテロ耐性の危険因子およびヘテロ耐性と治療の失敗(死亡または感染の再発)またはバンコマイシン療法に対する臨床反応不良(バンコマイシン開始後の治療失敗または持続的な菌血症)との関連が評価された。CoNSによるCLABSIを発症した65人の対象患者について、62の初期分離株が評価可能であった。そのうち24株(39%)がバンコマイシンヘテロ耐性であった。ヘテロ耐性株はすべてStaphylococcus epidermidisであり、複数のSTから構成されていた。ヘテロ耐性株が検出された患者では、感染前の60日間にバンコマイシンの予防投与を受けている割合が多かった(P=0.026)。臨床転帰について評価可能な40人の患者のうち、ヘテロ耐性は治療失敗(P=0.012)と臨床的な治療反応不良(P=0.001)のリスクを増加させた。この影響は同定された交絡因子を調整した後も認められた。この結果から、バンコマイシンヘテロ耐性は小児白血病患者のCLABSIから分離されたCoNS分離株でよく見られ、治療成績の悪化と関連していることを示している。これらの知見を独立したコホートで検証し、ヘテロ性感染症患者において代替抗菌薬の効果を評価することは、重篤なCoNS感染症に対するケアを改善する可能性がある。
 

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(繰り返しになりますが、このヘテロ耐性という現象自体を認めないという立場の専門家もいます。私自身としては、まだ勉強中ですので、強いことは言えませんが、臨床的な治療失敗の原因として、あっても良いのではないかと思います。CoNSのCLABSIの場合には、重症例では早期のカテーテル抜去、十分量のバンコマイシンを投与し、改善しない場合には、早めにダプトマイシンなどの代替薬に切り替えることが重要と思います。)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov