小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

NICU入院中の菌血症症例の特徴

 NICUは、非常に特殊な病棟です。1000g未満の赤ちゃんから、重い心臓病や消化器の病気を持つ赤ちゃんなどがいます。また、1mlの採血で貧血になることもあれば、使用できる薬剤が限られていたり、投与量の計画も難しいです。

 そんな中、侵襲的な治療を行っていれば、菌血症を起こすこともあり、NICU内で発症する菌血症は重症となるケースも見られます。今回、ご紹介するのは、米国のNICU内での菌血症の特徴です。

 予想通りですが、超低出生体重児が発症するリスクが高いです。


Hospital-Onset Bacteremia Among Neonatal Intensive Care Unit Patients.
JAMA Pediatr. 2024 Jun 24. 

 

背景
 この研究は、CDC(米国疾病管理予防センター)が新たに導入しようとしている「院内発生菌血症(HOB)」を調査するもので、HOBが新生児集中治療室(NICU)に入院した乳児に与える影響を評価しています。HOBは、特に低出生体重児や早産児に多く見られる。

 

目的
- NICUに入院した乳児のHOB発生率を推定する。
- 出生体重グループおよび出生後日齢とHOBリスクの関連を検討する。
- HOBに起因する死亡率を推定する。

 

方法
 2016年から2021年に、米国の322のNICUで行われた後向き多施設コホート研究。対象は、4日以上NICUに入院した乳児とした。

 

主な結果
- 451,443人のうち、55.6%が男児、44.4%が女児、13.8%が出生体重1500g以下。
- 8,356人に9,015件のHOBイベントが発生した(2%)。
- HOB発生率は1,000患者日あたり1.1(95% CI, 1.0-1.2)。
- 中心静脈カテーテルが留置されていない患者におきたHOBが54.2%を占める。
- 生後2週間以内、出生体重750g以下の患者のHOB発生率は1,000患者日あたり14.2(95% CI, 12.6-16.1)と高い。
- 出生体重が2500gを超える児では、発生率は0.4(95% CI, 0.4-0.5)。
- 出生体重750g以下の患者は、42日以降にHOBリスクが90%減少する(IRR, 0.10; 95% CI, 0.1-0.1)。
- 出生体重2500gを超える児では、42日以降にHOBリスクが50%増加(IRR, 1.5; 95% CI, 1.2-1.9)。
- HOBを発症した児は、HOBを発症しなかった児と比較して、死亡率が5.5%(95% CI, 4.7-6.3)高かった。

結論
- NICUにおけるHOBは、死亡率の増加と関連がある。
- 出生体重はHOBの重要なリスク要因であり、低出生体重児では出生後の日齢とともにリスクが減少した。一方、出生体重が2500gを超える児ではリスクが増加する。

 

Unadjusted Hospital-Onset Bacteremia (HOB) Rate Stratified by Birth Weight Groups

 出生体重が小さい子ほど、出生早期のHOBのリスクが高く、次第にリスクが低下する。一方、出生体重が大きいと、出生後1ヶ月程度経過してからリスクが上昇する。

Clinical and Demographic Characteristics of Eligible Infants With and Without HOB

 

Supplemental Dataからの情報

 感染症科医としては、どんな菌が原因になるかも気になります。

Organism

n (%)

Median day of Life with IQR

Gram positive

6801 (72.6%)

18 (10, 37)

CNS

3553 (37.9%)

16 (10, 34)

Staphylococcus aureus

1523 (16.2%)

19 (11, 37)

Gram positive, unspecified

448 (4.8%)

17 (9, 33)

Group B streptococcus

396 (4.2%)

31.5 (19, 51)

Enterococcus species

360 (3.8%)

24 (13, 44)

Gram negative

2207 (23.5%)

15 (9, 32)

E. coli

927 (9.9%)

12 (7, 23)

Klebsiella species

496 (5.3%)

19 (11.8, 42)

Enterobacter species

210 (2.2%)

20 (11, 42.5)

Gram negative, unspecified

194 (2.1%)

11 (7, 21.8)

Serratia species

158 (1.7%)

24 (14, 50)

Pseudomonas species

107 (1.1%)

19 (10, 37.5)

Citrobacter species

29 (0.3%)

21 (10, 39)

Acinetobacter species

20 (0.2%)

20.5 (10.5, 36.8)

Haemophilus species

16 (0.2%)

18 (13.75, 30)

Fungal

242 (2.6%)

11 (8, 22)

Candida species

171 (1.8%)

11 (8, 19)

 多いのは、CNSや黄色ブドウ球菌で、カテーテル関連血流感染などが多いことが想像されます。大腸菌やクレブシエラ属もいることから、NECなど腸管由来の感染症やUTIなどもかなりあるのかもしれません。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov