小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ESBL産生菌による尿路感染症の治療(ESPIDより)

ESBL産生大腸菌および肺炎桿菌による尿路感染症の治療

 ESBL産生菌は、日本でも比較的多く見ることのある耐性菌です。大腸菌やクレブシエラ(肺炎桿菌)に多いです。当院でも大腸菌の約10%がESBL産生菌です。
 この論文は、ESBL(拡張スペクトラムβ-ラクタマーゼ)産生大腸菌および肺炎桿菌による尿路感染症(UTI)の治療に関する最新の知見をまとめたものです。
 重症には、メロペネム。非重症例では、セフメタゾールやアミノグリコシドという分け方が、日本ではよく行われていると思います。このESPID(ヨーロッパ小児感染症学会のReview)でも矛盾はないようです。
 

Treatment of Urinary Tract Infections Caused by ESBL-producing Escherichia coli or Klebsiella pneumoniae.
Pediatr Infect Dis J. 2019 Dec;38(12):e332-e335.

 

ESBL産生大腸菌および肺炎桿菌による尿路感染症の治療

 この論文は、ESBL(基質拡張型β-ラクタマーゼ)産生大腸菌および肺炎桿菌による尿路感染症(UTI)の治療に関する最新の知見をまとめたものです。

背景

  • UTIは、一般的にグラム陰性菌である大腸菌や肺炎桿菌によって引き起こされます。
  • ESBL産生菌は、新しいβ-ラクタム系抗菌薬を含む多くの抗菌薬に耐性を示します。
  • ESBL遺伝子はプラスミド上に存在し、他の菌株へ伝播することが可能です。

ベータラクタマーゼとESBLの分類

  • ベータラクタマーゼは、構造または機能的特性に基づいて分類されます。
  • ESBL産生菌は、第三世代セフェムやモノバクタムにも耐性を持ちます。

流行状況

  • ESBL産生菌によるUTIの発生率は地域によって異なり、アフリカや東南アジアでは高い一方、アメリカでは低い傾向にあります。
  • 特に、抗菌薬の使用歴や低年齢がESBL産生菌による感染症のリスク要因とされています。

診断と検出

  • 第三世代セフェムに耐性を示すすべての腸内細菌科細菌は、ESBL産生の有無に関してを検査するべき。
  • ESBL産生菌は、クラブラン酸存在下で第三世代セフェムを加水分解しないことから鑑別できる。

治療選択肢

  • カルバペネム: 重症例や院内感染の場合に最も信頼性の高い治療薬。一方、カルバペネム産生菌の発生を防ぐため、慎重に使用する必要があります。
  • ピペラシリン・タゾバクタムおよびセフェピム: ESBL産生大腸菌には効果的な場合があるが、肺炎桿菌には効果が限られる。
  • アミノグリコシドおよびキノロン抗生物質: コア耐性を持つことが多いが、アミカシンは有効な場合がある。
  • 再登場する抗生物質: ホスフォマイシンやニトロフラントインなどの古い抗菌薬も選択肢として再評価されています。
  • 新規および開発中の抗生物質: セフトリアキソン・アビバクタム、セフタジジム・アビバクタムなどが研究中です。

治療の考慮事項

  • 最適な治療法の選択は、重症度や感受性試験に基づくべきです。
  • 非カルバペネム抗生物質も適切な場合があり、特に非複雑性UTIには有効です。
  • 感染症の管理には、感受性試験結果に基づいた治療の修正が必要であることが示唆されています。

     非重症例では、セファマイシン(セフメタゾール)が含まれています。

結論

  • ESBL産生大腸菌および肺炎桿菌によるUTIの発生率は増加していますが、治療法の選択にはリスク要因と感受性試験結果を考慮する必要があります。
  • 重症例にはカルバペネムが重要ですが、軽症例には他の抗菌薬も検討されるべきです。
  • さらに臨床研究を進めることで、これらの感染症に対する適切な治療ガイドラインの策定が期待されます。