2023年は、久しぶりのRSウイルス感染症の大きな流行がありました。人工呼吸器管理が必要な症例や通常の入院も多く、パンデミック後の呼吸器ウイルス感染の疫学が変わったことを肌で感じました。
米国でも同じくRSウイルスの流行が報告されていますが、この論文では検査数が増えただけではないかという考察がなされています。確かに、重症例が増加していないので、そうかも知れないです。
日本の小児科開業医の多くが、年少児の受診料を定額(いわゆるまるめ)にしているため、ウイルス検査が行われにくくなっている現状があります。そのため、定点報告数も重要ですが、更に重要なのは二次病院以上の医療機関での入院数かなと思います。
Increased Pediatric Respiratory Syncytial Virus Case Counts Following the Emergence of SARS-CoV-2 Can Be Attributed to Changes in Testing
Clin Infect Dis. 2024 Jun 14;78(6):1707-1717.
COVID-19パンデミック後の小児におけるRSウイルス感染症の増加が、主に検査の変更に起因することを示しています。
背景
COVID-19パンデミック初期にはRSVの流行が大幅に減少し、その後の再流行で症例数が急増しました。これに対して、「免疫負債 immunity debt」仮説が提唱されましたが、この仮説を支持する証拠は限られており、検査実施の変化の影響は十分に評価されていませんでした。
方法
32の米国小児病院で行われた342,530件のRSV関連診療と980,546件のRSV診断検査のデータを用い、多施設の後ろ向き解析を行いました。中断時系列分析を用いて、パンデミックに関連するRSV患者および検査量の変化を推定し、入院、集中治療、人工呼吸器使用を必要とする患者の割合の変化を定量化しました。
結果
- RSV患者数の増加:2021-2023年にはパンデミック前と比較してRSV患者数が2.4倍に増加し、RSV検査数は18.9倍に増加しました 。
- 年齢の変化:RSV検査を受けた患者の年齢が中央値で8.6ヶ月から35.1ヶ月に増加しました 。
- 臨床的重症度の低下:入院、集中治療、人工呼吸器使用を必要とする患者の割合がすべての年齢層で有意に減少しました 。
- 重症例が増加していない:重症RSV症例数はパンデミック前後で安定していました。
結論
RSV症例の増加はウイルスの流行の増加によるものではなく、検査の増加によるものである可能性が高い。これにより、「免疫負債」仮説を再評価する必要があり、サーベイランス方法(検査の閾値)が変化する場合の検査母数の考慮が重要です。
この論文は、パンデミックの影響で検査が増加し、それがRSV感染症の症例数の増加として現れたことを示しており、免疫負債仮説の再評価と検査母数の重要性を強調しています 。
パンデミック後、RSウイルス検査数(A)が増加し、患者数(B)が増加しているが、陽性率(C)は低下している。
救急外来からの入院率(A)は低下しているが、患者数(D)は変わらない
ICU入院率(B)は低下しているが、患者数(E)は変わらない
人工呼吸器管理を要する率(C)は低下しているが、患者数(F)は変わらない
このデータからは、やはり検査数の増加により、軽症例への検査数の増加による、見せかけのRSウイルスの流行が起きていたことが予想されます。