小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児のボカウイルス気道感染の実態

 ボカウイルスは、小児に気道感染を起こすウイルスです。迅速検査などは無いので、一般臨床では検出されることは殆どないウイルスです。私も、成育医療センターにいた1ヶ月でたまたま1例見ました。
 この論文は、ノルウェーからの報告です。mRNAの有無で、真の感染か、保菌かを判断しているのは面白いですね。
要点
・小児ボカウイルス感染症は、RSVの10分の1以下の頻度
・他のウイルスとの重複感染が多い
・12-17ヶ月齢で多い
・秋と冬にピークがある
 
The Burden of Human Bocavirus 1 in Hospitalized Children With Respiratory Tract Infections.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 May 31;12(5):282-289.
 
背景
 ヒトボカウイルス1型(HBoV1)は、他のウイルスと重複して検出されることが多く、また無症状の小児でも検出される。そのため、HBoV1による呼吸器感染症(RTI)の実態は不明であった。そこで、HBoV1-mRNAを用いて、真のHBoV1 RTIの指標として、RSウイルス(RSV)と比較して、小児入院患者におけるHBoV1の疾病負荷とウイルス重複検出の影響について評価した。
 
方法
11年間に、RTIで入院した16歳未満の小児4879人を対象した。鼻咽頭吸引液は、HBoV1-DNA、HBoV1-mRNA、および他の19の病原体を検出するPCRを実施した。
 
結果
HBoV1-mRNAは2.7%(130/4850)検体で検出され、秋と冬に緩やかなピークが見られた。HBoV1 mRNAが検出された43%は、12~17ヶ月齢で、6ヶ月齢未満は5%のみであった。73.8%の症例で複数のウイルスが検出された。HBoV1-DNAが単独で検出された場合(オッズ比[OR]:3.9、95%信頼区間[CI]:1.7-8.9)または1種類のウイルスが同時に検出された場合(OR:1.9、95%CI:1.1-3.3)では、≧2種類が検出されたケースと比較して、HBoV1mRNAが検出されやすかった。RSVのような重症化しやすいウイルスが同時検出された場合は、HBoV1-mRNAの検出率が低かった(OR:0.34、95%CI:0.19-0.61)。5歳未満の小児1000人あたりの下気道感染の年間入院率は、HBoV1-mRNAで0.7、RSVで8.7であった。
 
結論
 真のHBoV1 RTIは、HBoV1-DNAが単独、あるいは他の1種類のウイルスと同時に検出された場合に可能性が高い。しかし、HBoV1 LRTIによる入院は、RSVの10~12倍少ない。