小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

乳幼児の熱源不明の発熱で、考えるウイルスは?

 少し古い論文の紹介です。乳幼児の発熱はとても多いのですが、診断がつかないことはよくあります。外来では、「何かのウイルス性の病気(いわゆる風邪)ですよ」としょっちゅう説明しますし、具合が悪く入院になっても、細菌検査で全く原因が分からず、ウイルス迅速検査も陽性にならないことはしょっちゅうです。
 しかし、「何らかのウイルス」は、小児科医ならみんな気になるところです。
 この論文は、米国の小児病院の救急外来を受診した患者さんの鼻咽腔と血液から多種類のウイルスを同時に検査したものです。生後2−36ヶ月の小児で、熱源不明の発熱では、アデノウイルス、HHV-6(突発性発疹のウイルス)、エンテロウイルス、パレコウイルスなどの検出が多いことが分かりました。
 しかし、これらが検出されたら、全て熱の原因でしたとは言えません。なぜなら、予定手術のために受診した小児のなんと35%から、なんらかのウイルスが検出されています。発熱者からの検出率は76%なので、これらのウイルスが原因となっていることは確かですが、検出されたウイルスが全て病気を起こしているとは言えません。
 SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)でも問題となった、PCR陽性が持続する状態が、普通の風邪のウイルスにも起こることが分かります。
 重要なこととして、熱源不明の乳幼児を診察する時には、
1. しっかり細菌感染の熱源を探し、必要な培養を取る
2. 細菌感染らしくない場合には、アデノ、HHV6、エンテロ、パレコウイルスを考える
3. ウイルスが検出される=熱源になるというわけではない
Detection of viruses in young children with fever without an apparent source.
Pediatrics. 2012 Dec;130(6):e1455-62.
 
目的
 乳幼児では、原因のはっきりしない発熱は多い。現在、米国では乳幼児の重篤な細菌感染症はまれになっている。我々の目的は、原因となる可能性のあるウイルスを特定することである。
 
方法
 セントルイス小児病院救急部において、生後2−36ヶ月で、38℃以上の発熱があるが、熱源が明らかでない児と、熱源が細菌感染と考えられる児と、外来手術を受ける発熱のない小児を登録した。血液と鼻咽頭拭い液を、多種類のウイルスPCR検査を行った。
 
結果 
 熱源の明らかでない児75人のうち76%、細菌感染と考えられる15人のうち40%、発熱のない児116人のうち35%から1種類以上のウイルスが検出された(P < .001)。4種類のウイルス(アデノウイルス,ヒトヘルペスウイルス6,エンテロウイルス,パレコウイルス)が検出される頻度が高く、熱源不明の児の57%,細菌感染と考えられる児の13%,発熱のない児の7%で検出された(P < .001)。ウイルス感染症146例のうち34%は、血液のPCRだけで検出された。ウイルス感染症と診断され、細菌感染の証拠がない小児の51%が抗菌薬で治療されていた。
 
結論
 ウイルス感染症は、原因不明の発熱の小児に頻繁にみられる。鼻咽頭拭い液に加えて血液を検査することで、検出されるウイルスの範囲が広がる。今後の研究では、ウイルス検査の有用性を検討する必要がある。小児の熱源不明の発熱の原因となるウイルスを認識することで、不必要な抗菌薬の使用を抑えることができるかもしれない。