ウイルス性胃腸炎の季節が始まります。小児がウイルス性胃腸炎に罹患すると、嘔吐→下痢の順で発症することが一般的です。腹痛や発熱を伴うことがあります。小児科医としては、脱水の程度を評価することが救急外来では重要です。
下痢をしていたら、便のウイルス検査をしたり、便培養を提出したりして、原因を追求することができます。しかし、病初期の「嘔吐のみ」のパターンでは、「まだウイルスが下まで降りてきていないやろ」と思って、便検査は行わないことが多いです。
この論文では、実は、嘔吐のみでも便から病原微生物が高い割合で検出できることを示しています。
ただし、嘔吐のみで、受診時に便が採取できなかった症例に関しては、自宅で採取して郵送していますので、受診時のスワブで必ずしも陽性になるわけではないです。また、培養以外にPCRで病原体の検索をしており、非常に感度が高い方法を使用しています。日本で一般的に用いられる、ノロウイルスやロタウイルスの抗原検査では、ここまでの陽性率にはならない可能性が高いです。
要点
・胃腸炎が疑われる嘔吐のみの小児では、下痢をしていなくても、便から病原体が検出される可能性は高い。
・6%くらいの患者が、胃腸炎以外の病気なので、注意が必要。
Microbial Etiologies and Clinical Characteristics of Children Seeking Emergency Department Care Due to Vomiting in the Absence of Diarrhea
Clin Infect Dis. 2021; 73: 1414
背景
嘔吐だけが症状で受診する小児患者は、病原体検査に適した検体(つまり下痢便)を提出することができないため、その感染の原因となる病原微生物に関する知見は少ない。
研究
2014年12月から2018年8月に、カナダ・アルバータ州の2つの救急診療所(ED)を受診した急性胃腸炎と推定される18歳未満の小児を対象とした。対象者は、24時間以内に嘔吐および/または下痢のエピソードが3回以上あり、症状の期間が7日未満で、直腸スワブまたは便の検体を提出した患者である。病原微生物が同定された嘔吐のみの小児の割合を定量化し、臨床的特徴、病原微生物の種類、使用したリソース、代替診断(胃腸炎以外の診断)を分析した。
結果
2695名が対象となった。ED受診時に、「下痢のみ」は295名(10.9%)、「嘔吐と下痢」は1321名(49.0%)、「嘔吐のみ」は1079名(40.0%)であった。病原微生物は,嘔吐と下痢を併発している患者で最も多く検出された(1067/1321,80.8%)。下痢のみ(170/295,57.6%)と嘔吐のみ(589/1079,54.6%)の患者の間には有意差がなかった(95%信頼区間:-3.4%,9.3%)。嘔吐のみの小児は、ウイルス(557/1077;51.7%)が最も多く、ウイルスの中でノロウイルス(321/1077;29.8%)が最多であった。細菌は5.7%(62/1079)であった。レントゲン、超音波、尿検査は、嘔吐のみを呈した小児で最も多く行われた。嘔吐のみの患者で、胃腸炎以外の診断がつく割合が最も多かった(5.7%;61/1079)。
結論