小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

日本の急性脳炎・脳症の予後因子

 日本のDPCデータを使った小児の急性脳炎・脳症の予後不良因子の検討です。
乳児のインフルエンザ脳症というのが悪いパターンだと思っていましたが、むしろインフルエンザウイルスと単純ヘルペスウイルスが原因の脳炎・脳症は予後が良いようです。抗ウイルス薬があるおかげなのか、他の要因があるのかは分かりませんが。
 本研究のlimitationでも指摘されていますが、注意すべきは、DPCデータなので、そもそも本疾患のデータを分析するためのデータベースではない点です。年齢・性別、基礎疾患、入院時の意識状態やICU入院などのデータについては、正確だと思います。しかし、脳炎・脳症の原因微生物は、入院後しばらくして判明したり(場合によっては、退院後に判明する)こともあります。個人的には、原因微生物が判明したからと言って、DPCをわざわざ自分で修正したりしていません。
 そういう背景があるので、単純にHSVとインフルエンザウイルスの脳炎は予後が良いと言えない、現場の認識との乖離があるように感じました。(HSVは新生児を除外しているため、予後が良い可能性も高いです。)
 
Prognostic Factors Among Children With Acute Encephalitis/Encephalopathy Associated With Viral and Other Pathogens
Clin Infect Dis. 2021; 73: 7-82.
 
背景
ウイルスやその他の病原体に起因する急性脳炎・脳症(AE)は、神経学的後遺症や死亡の原因となる。そのため、予後因子を知ることは、迅速な治療介入のために重要である。本研究では、日本の全国規模のデータベースを用いて、AEに罹患した小児の早期の予後不良因子を検討した。
 
方法
全国の急性期入院患者の約半数が登録されているDiagnosis Procedure Combination(DPC)データベースを用いて、後方視的コホート研究を行った。2010年4月から2018年3月までにAEで入院し、退院した18歳以下の小児を登録した。退院時の予後不良転帰は、「院内死亡・気管切開・経腸管栄養・理学リハビリテーション」が含まれる。予後不良因子は、患者特性、関連病原体、入院2日以内の介入を含む多変量ポアソン回帰モデルを用いて評価した。
 
結果
本研究では、9386例の小児AEが対象となった(年齢中央値,3歳)。院内死亡は241例(2.6%)で、2027例(21.6%)が予後不良転帰となった。有意な予後不良因子は、12~18歳、先天性異常、てんかん、入院時のJapan Coma Scaleスコアが100~300であった。一方,単純ヘルペスウイルス感染症とインフルエンザウイルス感染症は、良好な予後と関連していた。
 
結論
本研究では、小児AEの早期(入院後2日以内)の予後不良因子を明らかにした。これらの知見は、早期に積極的な治療介入を行うことが有益な患者を特定するのに役立つと考えられる。
 

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