小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

シナジスを全小児に接種したら?

 パリビズマブ(シナジス)は、RSウイルスに対するモノクローナル抗体製剤で、RSV感染症の予防になります。高価な薬剤であること、1ヶ月に1回の接種が必要なことから、対象は早産児や心臓や肺疾患を有する小児に限られます。
 米国の先住民の小児は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高いことが知られており、この集団アメリカインディアン)の小児全体を対象にシナジスを接種したというスタディです。
 基礎疾患がなくリスクが低い子供も、RSV感染症と入院が減りました。
(後は、これが医療経済学的に効果があると判定できるかですね…)
 たまに、シナジスの適応ではないお子さんをお持ちの保護者から、「シナジスを打って欲しい」と言われることがありますが、自費診療でお値段をお話したら、ドン引きされ、一人も希望されなくなります。医療って、すごいお金かかってるんですよね…。
 社会保険と高額医療費制度で、安く済んでいるだけで。
Potential Benefits of Expanded Palivizumab in American Indian Children Under the Age of 2 Years.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Sep 27;12(9):522-524.
 
要旨
重症のRSウイルス(RSV)感染症は、アメリカ・インディアンの地域社会に大きな影響もたらしている。我々は、アリゾナ州東部の農村部にあるアメリカンインディアンのコミュニティにおいて、パリビズマブ接種を2歳未満のすべての小児に拡大するプログラムを実施し、高リスク患者と低リスク患者の両方でRSV感染と入院を有意に減少させた。
 
方法
 小児ICUのベッド数が、この地域では不足しているため、Whiteriver Service Unit(WRSU)では2022年10月1日から2023年2月28日までパリビズマブ(PVZ)の接種を2歳未満の小児全員に拡大した。シーズンを通してRSV感染と入院をモニタリングした。事後解析で、PVZ接種者と非接種者を比較した。
 
結果
 2022年10月1日から2023年2月28日までに、2歳未満の小児593例中271例(45.7%)にRSV検査が実施され、128例が陽性となった。罹患率は21.6%(128/593例)、検査陽性率は47.2%(128/271例)であった。2歳未満児50人(39.0%)が重症RSV感染症で入院した。非接種者と比較して、PVZ接種者は年齢が若く、RSV陽性の可能性が低く、RSV感染症による入院の可能性が有意に低かった。PVZ接種群では、入院のリスクが8.4%減少し、入院を1例予防するのに必要な接種者数は12例であった。
 
考察
 アメリカインディアンの地域社会で2歳未満を対象にPVZを接種すると、RSV感染および入院の有意な減少は、低リスク者も含め、全PVZ投与者で観察された。