小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の急性副鼻腔炎の初期治療薬はアモキシシリンで十分

 小児科外来をしていると、アモキシシリン(商品名:ワイドシリン、サワシリンなど)は、最も重要な抗菌薬です。それは、中耳炎、肺炎、咽頭炎(溶連菌)などの気道感染症の第一選択薬になるからです。
 急性副鼻腔炎も比較的多い感染症ですが、こちらの第一選択薬は、米国のガイドラインでは、アモキシシリン・クラブラン酸(商品名:クラバモックスやオーグメンチン)でした。
 中耳炎、副鼻腔炎、肺炎の原因菌は、肺炎球菌やインフルエンザ菌なので、基本的には大差ないと考えられますが、副鼻腔炎だけは何故か広域抗菌薬であるアモキシシリン・クラブラン酸でした。個人的には、アモキシシリンで治療することが多かったのですが、それで治療不十分と感じる症例はあまり有りませんでした。
 今回、傾向スコアマッチングを用いて、急性副鼻腔炎の治療は、アモキシシリン・クラブラン酸かアモキシシリンのどちらが良いかを検討した論文が出ました。
 
 ただ、今年は、アモキシシリンもアモキシシリン・クラブラン酸も出荷制限で、どこの医療機関も、抗菌薬が足りなくなっています。新規の薬剤への投資をすることも大事ですが、臨床上極めて重要な薬剤が不足する事態は避けてほしいものです。

IDATEN 日本感染症教育研究会 | NEWS: アモキシシリンならびにアモキシシリン/クラブラン酸がよく用いられる臨床状況と、各々の状況に応じた代替抗菌薬の提案(成人・小児)

 
要点
・アモキシシリンで、急性副鼻腔炎は十分治療できる。
・アモキシシリンの方が、副作用が少ない(特に消化器症状と真菌感染症が少ない)。
・小児の気道感染を外来で診療する上で抗菌薬は、アモキシシリンほぼ一択になる。
 (例外は、マイコプラズマと百日咳くらいか…)
 
Treatment Failure and Adverse Events After Amoxicillin-Clavulanate vs Amoxicillin for Pediatric Acute Sinusitis.
JAMA. 2023 Sep 19;330(11):1064-1073.
 
キーポイント
問題 小児急性副鼻腔炎において、アモキシシリン-クラブラン酸塩はアモキシシリンと比較して治療失敗や有害事象の発生率が異なるか?
 
所見 320 141人の小児を対象としたこのコホート研究では、治療失敗はまれであり(全体で1.7%)、重篤な治療失敗は非常にまれであった(0.01%)。有害事象、特に胃腸症状と酵母感染はアモキシシリン・クラブラン酸塩を投与された患者でより頻度が高かった。
 
外来で治療を受けた小児の急性副鼻腔炎患者において、アモキシシリン-クラブラネートはアモキシシリンと比較して有害事象が多く、治療失敗リスクに差はなかった。
 
 
 
はじめに
 急性副鼻腔炎は、小児における抗菌薬が処方されることの多い感染症の一つであり、米国では年間490万例に処方されていると推定されている。最適な経験的抗菌薬に関するコンセンサスは存在しない。小児外来での急性副鼻腔炎の治療において、アモキシシリン-クラブラン酸とアモキシシリンを比較することを目的に、本研究を行った。
 
方法
 全国規模の医療機関受診データベースを用いて、外来で急性副鼻腔炎と新たに診断され、アモキシシリン-クラブラン酸またはアモキシシリンが処方された17歳以下の小児を対象とした。交絡因子を軽減するため傾向スコアマッチングを用いた。治療失敗は、「新たに他の抗菌薬が処方される」、「急性副鼻腔炎による救急受診または入院する」、「副鼻腔炎合併症による入院」のいずれかを満たす症例と定義し、患者登録後1~14日目に評価した。有害事象は、消化器症状、アレルギー反応、皮疹、急性腎障害、二次感染を含めた。
 
結果
 このコホートには、320141人が登録された。傾向スコアマッチング後の患者数は198942人(各群99471人)で、内訳は女児100340人(50.4%)、12~17歳101726人(51.1%)、6~11歳52149人(26.2%)、0~5歳45 067人(22.7%)であった。治療失敗は全体の1.7%に認められ、0.01%に重篤な治療失敗(救急受診または入院)があった。アモキシシリン-クラブラン酸群とアモキシシリン群の間で治療失敗に差はなかった(相対リスク[RR]、0.98[95%CI、0.92-1.05])。消化器症状(RR、1.15[95%CI、1.05-1.25])および真菌感染(RR、1.33[95%CI、1.16-1.54])は、アモキシシリン-クラブラン酸群で高かった。年齢で層別化すると、アモキシシリン-クラブラン酸投与後の治療失敗リスクは、0~5歳ではRRが0.98(95%CI、0.86-1.12)、6~11歳ではRRが1.06(95%CI、0.92-1.21)、12~17歳ではRRが0.87(95%CI、0.79-0.95)であった。アモキシシリン-クラブラン酸投与後の有害事象の年齢層別リスクは、0~5歳ではRRが1.23(95%CI、1.10-1.37)、6~11歳ではRRが1.19(95%CI、1.04-1.35)、12~17歳ではRRが1.04(95%CI、0.95-1.14)であった。
 
結論
 外来治療を受けた急性副鼻腔炎の小児において、アモキシシリン-クラブラン酸を投与とアモキシシリンで治療失敗のリスクに差はなかった。アモキシシリン-クラブラン酸投与は、消化器症状と真菌感染の増加と関連していた。これらの結果は、急性副鼻腔炎における経験的抗菌薬選択の決定に役立つと考えられる。

 治療失敗は、アモキシシリン・クラブラン酸で1.7%、アモキシシリンで1.8%とどちらも低い水準でした。
 

 副作用は、アモキシシリン・クラブラン酸で2.3%、アモキシシリンで2.0%でした。有意差があったのは、消化器症状 1.2% vs. 1.0%, 真菌感染 0.4% vs. 0.3%でした。どちらも、臨床的に意味があるような数値には感じません。(アモキシシリン・クラブラン酸を処方すると、もう少し高率に下痢が出ますが、あくまで医療データベースからデータを収集しているので、報告されていない副作用もあるとは思います。)

  年齢別に見ても、あまり大きな差はないです。年少時ほど、副作用がやや多い傾向はあります。