小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

キノロン予防投与中の緑膿菌菌血症にはメロペン耐性が多い

 成人領域では、白血病で骨髄抑制中や造血幹細胞移植後の患者に対してキノロンの予防投与を行うことが比較的よくあります。小児ではキノロンは基本的に禁忌ですが、海外の文献では小児への予防投与もよく見かけます。 緑膿菌は、このような患者さんにとって、時として重症の菌血症を起こす菌です。好中球減少性発熱が見られたときには、「必ず」抗緑膿菌活性のある抗菌薬を投与します。抗緑膿菌活性のある抗菌薬とは、セフェピムやピペラシリン・タゾバクタムやメロペネム(カルバペネム系抗菌薬)などです。「通常は、カルバペネム系はGram陰性菌に対して最も広域に効果がある」ので、セフェピムで患者さんの状態が良くならない場合になどには、メロペネムにescalationすることがあります。 しかし、ときどき、「セフェムがよく効くのに、カルバペネムだけ耐性」の緑膿菌を見かけます。理由は、OprDというポーリンの欠損だったり、抗菌薬の排泄ポンプの活性化だったりします。キノロンを投与すると、これらの耐性機序を持った緑膿菌による菌血症を起こすリスクが高くなることがわかりました。
要点
キノロンの予防投与中の患者の菌血症では、カルバペネム耐性緑膿菌が検出される可能性が高くなる。(メロペネム感受性は74.2%→15.4%)(というか、ほとんど、メロペネム効かない!)
・その理由は、排泄ポンプとポーリンの変異である。
・同じ系統の緑膿菌が異なる患者から検出されており、院内でクラスターが生じる。
Fluoroquinolone Prophylaxis Selects for Meropenem-nonsusceptible Pseudomonas aeruginosa in Patients With Hematologic Malignancies and Hematopoietic Cell Transplant Recipients.
Clin Infect Dis. 2019 May 30;68(12):2045-2052. 
 
背景
 緑膿菌において、フルオロキノロンへの曝露は、排泄ポンプのアップレギュレーションとポーリンOprDの転写ダウンレギュレーションを通じて、カルバペネム系抗菌薬に対する耐性を増加させる。好中球減少症に対してフルオロキノロン系抗菌薬の予防投与を受けている血液悪性腫瘍(HM)患者または造血細胞移植(HCT)レシピエントに関して、キノロン予防投与がカルバペネム耐性株の分離を増やすかについて、エビデンスは不足している。
 
方法
 当施設において、過去7年間のHM患者またはHCTレシピエントのうち緑膿菌血流感染エピソードを後方視的に検討した。菌血症を発症時のフルオロキノロン系抗菌薬の予防投与と、緑膿菌分離株のメロペネム非感受性のリスク因子の関連を検討した。全ゲノム配列シークエンス(WGS)およびメロペネム排出ポンプ活性を、一部の分離株について行い、メロペネム耐性の機序を明らかにした。
 
結果
 51例の患者に生じた緑膿菌菌血症55エピソードを解析した。フルオロキノロン系抗菌薬投与中のbreakthrough菌血症は、メロペネム非感受性株の分離と関連していたが、抗緑膿菌活性を有する他のβ-ラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬に対する非感受性とは関連していなかった。フルオロキノロン系抗菌薬の予防投与を受けたことは、メロペネム非感受性分離株による菌血症の独立した予測因子であった。WGSで解析した全てのメロペネム非感受性株はoprDが不活性する変異を有しており、全てのメロペネム非感受性株は、排泄ポンプ阻害剤を加えるとメロペネムに対するMICが低下した。WGSに基づく系統解析により、異なる患者から近縁の分離株が検出され、いくつかのクラスターが明らかになった。
 
結論
 HM患者およびHCTレシピエントにおけるフルオロキノロン系抗菌薬の予防投与は、メロペネム非感受性緑膿菌によるブレークスルー菌血症と関連する。排泄ポンプ活性を増加させる変異とポーリンOprD欠損が要因であると考えられる。
 
 FQ(キノロン)予防投薬群は、メロペネム感受性が15.4%!。非投与群は、72.4%です。セフェピム、セフタジジムなどについても、非投与群の方が感受性が良いですが、そこまで大きな差は無いです。
 
 とりあえず、ポーリンの変異も、排泄ポンプの変異もあるということです。