小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

培養陰性の肺炎でde-escalationしても予後は悪化しない(むしろ良い)

 肺炎の患者さんの治療は、経験的治療を行うのですが、多剤耐性菌による肺炎を起こしやすい背景(入院歴、保菌歴、免疫不全など)があると、初期から広域の抗菌薬を使います。しかし、喀痰から有意な菌が検出されない時、患者さんが良くなったら、「広域抗菌薬だから良くなったんだ」という意見と、「そもそも広域抗菌薬でなくても良くなった」という意見が対立します。
 なかなか、根拠のないde-escalationが難しい領域になります。今回、紹介する論文は、成人の肺炎において、初期にMRSA緑膿菌をカバーした症例において、値懲戒し4日目までにde-escalationした場合の予後についてです。
 
要点
・成人の培養陰性肺炎で、治療開始4日目までにMRSA緑膿菌カバーを外しても、死亡率は上昇しない。
・むしろ、ICU入室とコストは減り、入院期間は短くなる。
・ただし、病院によりde-escalation率は大きく異なる。
 
De-escalation of Empiric Antibiotics Following Negative Cultures in Hospitalized Patients With Pneumonia: Rates and Outcomes
Clin Infect Dis. 2021;72:1314.
 
背景
I DSA/ATSのガイドラインでは、多剤耐性菌のリスクがある患者の肺炎に対して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)と緑膿菌に対する経験的治療を推奨している。培養結果が陰性の場合、ガイドラインでは抗菌薬のde-escalationを推奨している。培養が陰性の肺炎入院患者を対象に、病院ごとの抗菌薬のde-escalationの実施状況と、転帰との関連を評価した。
 
方法
 2010-2015年に米国の164病院に肺炎で入院した成人(18歳以上)のうち、血液培養/呼吸器検体の培養が陰性で、キノロン系以外の抗MRSA薬と抗緑膿菌薬の両方を投与された患者を対象とした。De-escalationは、4日目に両方の経験的治療薬を中止し、他の抗菌薬を継続することと定義した。傾向スコアマッチングを用いて、de-escalationによる、院内14日死亡率、治療後悪化(ICUへの入室)、在院日数(LOS)、費用について比較した。また、病院ごとのde-escalation率と、治療結果を比較した。
 
結果
 14,170人の患者のうち、1,924人(13%)は入院4日目までに経験的治療薬を両方とも中止した。病院ごとのde-escalation率は2-35%であり、病院のde-escalation率は、転帰と有意に関連していなかった。De-escalationが多い上位4分の1の病院でも、死亡リスクが最も低い患者のDe-escalation率は50%未満であった。傾向スコア分析では、de-escalationを行った患者は、その後のICUへの転室(aOR 0.38; 95%CI, 0.18-0.79), LOS (adjusted ratio of means, 0.76;0.75-0.78)、費用 (0.74; 0.72-0.76)が低かった。
 
結論
 今回、検討した肺炎患者のうち、培養陰性で4日目までに経験的治療薬を中止したのは少数で、de-escalation率は病院によって大きく異なっていた。ガイドラインを遵守するためには、診療の大幅な変更が必要である。
 
 

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