小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の虫垂炎は、保存的治療でいけるか?

 かつては、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)は、小児の緊急手術が必要な疾患の代表でした。小児科医になりたての頃は、いかに早く診断することが重要で、早く外科の先生に紹介して、早く虫垂切除術をしてもらうことが、患者の予後を良くすると信じていました。
 しかし、医師5年目くらいから、抗菌薬で保存的治療(いわゆる薬で散らす)を第一選択とする病院で勤務し、「虫垂炎は、手術しなくても結構大丈夫だな」と思うようになりました。
 色々、論争があり、施設により方針も違うテーマですが、最近の主流は、まずは保存的治療を行い、時間をおいてから虫垂切除術(interval appendectomy)を行うようです。
 今回紹介する論文は、米国の施設で、合併症のない虫垂炎を保存的治療したとき、成功率と、日常生活ができなくなる日数を手術と比較しました。
 
要点
・保存的治療の成功率は、67.1%。(1年間のうちに虫垂切除術をしない割合)
・日常生活できなくなる日数は緊急手術の方が長い。
 
Association of Nonoperative Management Using Antibiotic Therapy vs Laparoscopic Appendectomy With Treatment Success and Disability Days in Children With Uncomplicated Appendicitis
JAMA . 2020 Aug 11;324(6):581-593. doi: 10.1001/jama.2020.10888.
 
はじめに
 合併症のない小児虫垂炎において、抗菌薬による保存的治療により、手術よりも通常の日常生活ができない期間が減る可能性がある。
 
方法
 合併症のない小児虫垂炎において、保存的治療の奏効率を明らかにする。また、治療に関連した障害、満足度、健康に関連したQOL、合併症を、保存的治療と手術との間で比較する。2015年5月から2018年10月に、米国7州の10ヶ所の三次小児病院で治療を受けた7-17歳の合併症のない虫垂炎の小児1068人を対象とした。多施設非ランダム化比較介入研究で、2019年10月まで1年間のフォローアップを行った。対象となった1209人のうち、1068人が研究に登録した。治療介入は 抗菌薬による保存的治療(非手術群、n=370)または緊急(入院12時間以内)の腹腔鏡下虫垂切除術(手術群、n=698)とし、患者および家族が各治療法を選択した。主要アウトカムは、障害日数(虫垂炎関連のケアが必要になり、通常の活動のすべてに参加できなかった日数)と、保存的治療の奏功率(最初に保存的治療を受けた後、1年間の間に虫垂切除術を受けなかった割合)とした。
 
結果
 登録された1068名の患者(年齢中央値12.4歳、女児38%)のうち、370名(35%)が保存的治療を選択し、698名(65%)が手術を選択した。合計806名(75%)が追跡調査可能であった。追跡可能であったのは、非手術群284例(77%)、手術群522例(75%)。非手術群の患者は、より若く(年齢中央値、12.3歳 vs 12.5歳)、黒人(9.6% vs 4.9%)または他の人種(14.6% vs 8.7%)が多く、学士号を持つ保護者(29.8% vs 23.5%)の割合が高く、超音波診断(79.7% vs 74.5%)が多くみられた。発症1年後までの保存的治療の成功率は67.1%(96%CI、61.5%-72.31%、P = 0.86)であった。保存的治療は、手術よりも 1 年間の障害日数が有意に少なかった(調整平均、6.6 日 vs 10.9 日;平均差、-4.3 日(99% CI,-6.17~-2.43;P < 0.001))。
 
結論
 合併症のない小児の虫垂炎において、抗菌薬による保存的治療は、成功率が 67.1%であり、緊急手術を行う場合と比較し、1 年後の障害日数が有意に少なかった。しかし、追跡可能で症例が少なく、成功率として事前に規定した閾値との比較では、統計的に有意ではなかった。

 

対象患者
7-17歳
合併症のない虫垂炎の定義
虫垂の直径が1.1cm以下
膿瘍・糞石が無い
蜂窩織炎虫垂炎ではない
(壁構造が保たれている)
WBC 5000-18000/μL
腹痛発症から48時間以内に抗菌薬投与開始
除外基準
慢性的に間欠的な腹痛がある
汎発性腹膜炎の所見がある
妊娠反応陽性
意思疎通が困難(重度知的発達障害など)

 

治療レジメン
・入院の上、24時間以上抗菌薬を静脈内投与する
・ピペラシリン・タゾバクタムを選択する
ペニシリンアレルギーでは、シプロフロキサシン+メトロニダゾールを選択
・臨床症状が改善傾向かつ治療開始12時間以上経過してから経口摂取開始
・通常の食事ができたら、アモキシシリン・クラブラン酸(アレルギーではシプロフロキサシン+メトロニダゾール)内服に変更する
・合計治療日数は7日間

日本の現状と比較すると、経口抗菌薬に変更するのが早すぎる気もします。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov