Klebsiella oxytocaは、腸管内の常在菌ですが、抗菌薬関連下痢症を起こすことがあります。抗菌薬関連下痢といえば、C. difficileが有名ですが、K. oxytocaもあります。C. difficileについては、難治例では、便移植療法(FMT)が確立してきているが、K. oxytocaについては、FMTの有用性はよく分かりませんでした。
今回、K. oxytocaの抗菌薬関連下痢症が難治例となり、複数回の抗菌薬投与で改善しなかったため、FMTを行い改善した報告が出ました。稀な病気ですが、未診断例も多いと思われるので、紹介します。
Chronic Diarrhea Caused by a Klebsiella oxytoca Toxin Producer Strain Following Antibiotic-Associated Hemorrhagic Colitis: Successful Treatment by Fecal Microbiota Transplant.
Clin Infect Dis. 2023 Dec 15;77(12):1700-1703.
要旨
Klebsiella oxytocaは、腸管内に存在するグラム陰性菌であり、抗菌薬関連出血性大腸炎などいくつかの感染症を引き起こす。今回、慢性下痢症から、K. oxytoca毒素産生株によって引き起こされた大腸炎を、便移植(FMT)によって治療することに成功した。
本報告では、慢性下痢症から進展したK. oxytoca毒素産生株による大腸炎を便移植(FMT)で治療することに成功した症例を提示する。FMT後の臨床的、微生物学的変化、および菌株の分子学的特徴を示す。
症例提示
2016年11月、基礎疾患のない43歳女性が、副鼻腔炎を発症し、アモキシシリン・クラブラン酸塩(875mgを1日2回)の経口投与を受けた。5日後に、血性・粘液性の下痢(15回/日以上)、腹痛、テネスムス、嘔吐で受診した。感染症との接触、旅行歴、汚染された食品の摂取はなかった。便培養は病原菌陰性(2回実施)であった。寄生虫スクリーニングとC. difficile毒素検出は陰性であった。PCR法で、志賀毒素産生性大腸菌も陰性であった。MacConkey寒天培地に便を培養したところ、K. oxytocaのムコイドコロニーが大量に認められた。水分補給と抗菌薬中止後、血便と下痢は減少し、患者は5日後に退院した。10日後、疼痛、下痢および血便が再発した。2ヵ月後の経過観察では、頻回の下痢は持続していたが、血便は消失した。便培養では、K. oxytoca陽性であり、他の病原体は陰性であった。
繰り返し、ST合剤による治療を行ったが、すぐに再発した。PCRによりK. oxytocaの毒素産生株が検出された。糞便移植(FMT)を、症状発現から13ヵ月後に、11歳の息子の便を用いて行った。下痢は移植後1週間で消失した。FMT後2ヵ月と12ヵ月の細菌叢分析では、K. oxytocaの毒素遺伝子は陰性であり、α多様性の指標も改善した。患者はFMT後6年経過した現在も全く無症状である。