小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児におけるClostridioides (Clostridium) difficile感染症 レビュー

Clostridioides difficile感染症の小児のレビュー記事です。
Clostridium difficile Infection in Children
Sammons JS, et al. JAMA Pediatr. 2013; 167(6): 567
 
 
 
はじめに
Clostridium difficileは、米国における医療関連下痢症の最も一般的な原因である。過去10年間、C. difficile感染症CDI)の感染率と重症度が増加している。成人では、CDIMRSAとともに、米国の医療関連感染症の最も一般的な原因菌となっている。疫学の変化の原因は、North American pulse-field gel electrophoresis type 1 strain (NAP1)と呼ばれる高病原性株の出現である。CDIは、リスクが低いと考えられていた集団でも増加しており、外来患者など、市中発症(CA)CDIという概念が生まれている。以前はC. difficileは、小児では軽症と考えられていたが、CDIの重症例やNAP1株への感染が小児でも報告されている。小児におけるCDIの意義や転帰、診断と治療法については、不明な部分も多い。
 
1.病原体の概要と臨床症状
 Clostridium difficile はグラム陽性の偏性嫌気性菌で、CDI発症に重要な2つの毒素 (toxin A, toxin B)を産生する。毒性の無い株も存在するが、CDI の原因にはならない。C. difficile は芽胞形成するため、菌は環境に長期間留まり、伝播しやすい。CDIの発症の主な誘因は、腸内細菌叢の変化であり、毒素原性菌株が定着し、C. difficileが増殖し、毒素産生が起こる。感染は、医療従事者の手や環境表面がC. difficileに汚染され、糞口感染が起きる。
 
 それでも、多くの人が C. difficileに曝露し定着しても無症状なのは、宿主要因に加えて、toxin Aに対する抗体反応が関係している可能性がある。無症候性感染は、1歳未満の乳児に特に多く見られるが、腸内細菌叢が確立されるにつれて年齢とともに減少し、通常は 2 歳までに減少する。市中の健康な成人の感染率は低く、最近の研究では毒素原性株の感染率は 1.6%~4%である。入院中の成人の感染率は5%~26%であるが、流行期の長期療養施設の患者では 52%にもなることもある。3次医療機関の小児病院で CDI を持つ入院患者を評価した最近の観察研究では、C. difficile陽性の便検体の25%が無症状保菌であると判断されました。入院患者の毒素原性菌の保菌の危険因子には、基礎疾患、入院歴、2 種類以上の抗菌薬への曝露がある。
 
 CDI の臨床症状は、多岐にわたる。重症患者は、麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸を発症することがあり、下痢は起きないこともある。重症例の合併症は、脱水、電解質障害、腸穿孔、低血圧、腎不全、敗血症などが含まれ、死亡することもある。CDI の再発は重症化する可能性があり、成人では最大25%に発生し、元の株への感染再発または新しい株への再感染が原因となっている。
 
 CDI の腸外症状はまれだが、菌血症、腹膜炎、肛門周囲膿瘍、手術部位感染、および関節炎、骨髄炎、反応性関節炎、屈筋腱鞘炎を含む筋骨格系の感染の報告がある。成人の間では、C. difficileによる腸管外感染は多くの場合、複数菌感染であり、基礎疾患を持つ患者で見られる。
 
2.発生と疫学
CDIの疫学の変化
 過去10年の間に、CDIアウトブレイクだけでなく、腸管切除や死亡例など劇症例が増加していることが、報告で明らかになった。以前はリスクが低いと考えられていた集団(市中の健康な成人)でCDIの発生率が増加している。最初のアウトブレイク事例は、2000-02年に、米国とカナダのケベック州で報告されたものがある。NAP1株は、罹患率と死亡率の上昇と関連していた。それ以来、NAP1は北米全域に広がり、ヨーロッパ、アジアでのアウトブレイクも報告されている。NAP1株は小児でも確認されている。小児病院でトキシン陽性の便の19.4%がNAP1株という報告もある。
 
小児におけるCDIの発生率と疫学
 CDI は報告対象疾患ではないため、サーベイランスデータは限られている。C. difficile は小児でも重要な病原体として認識されるようになった。2002年に行われた小児病院のサーベイランスデータによると、院内発症下痢症は院内感染のうち3番目に多く、その中でC. difficileが単独で最も多い原因(32%)であった。
 最初の研究は、Kimが報告したもので、米国の22の小児病院に入院している子供4895人を対象とした大規模なレトロスペクティブ・コホート研究で、CDI の発生率が2001年から2006年にかけて、入院患者1000人あたり2.6人から4人に増加していることが示された。診断時の年齢の中央値は4歳。同様の結果は、Kids' Inpatient Database (KID) 内の時系列分析でも確認され、1997年から2006年の間に、小児の CDI 関連入院が 1 万件あたり 7.24 件から 12.80 件へと増加した。
 
 小児におけるCA-CDIの増加が報告されている。小児救急科に来院した下痢の小児を評価した研究で、便検体の47%から細菌病原体が検出され、C. difficileが最も頻繁に同定された。CDIで入院した181人の子供たちのコホートでは、25%が市中発症であった。
 
3.小児CDIの危険因子
 成人の発症の主な危険因子には、高齢、免疫不全状態、腸内細菌叢の変化、C. difficile への曝露の増加など、宿主の防御力を低下させる因子が含まれる。抗生物質への曝露歴は、成人と小児のCDIの最も重要な単一の危険因子として認識され、ほぼすべての抗生物質はC. difficile 疾患と関連している。
 
 院内発症のCDIは、抗生物質への曝露歴と過去の入院歴との間に関連があることが報告されている。2000-03年の間にカナダで行われた、C. difficileトキシン陽性の入院患者の記録では、CDIの200症例のうち、75%が過去2ヶ月間に抗生物質曝露歴があり、56% が前月に入院していたことがわかった。最近では、小児病院でC. difficileの検査を受けた入院中の子どもたちを対象とした大規模なケースコントロール研究で、以前の抗生物質への曝露に加えて、固形臓器移植や胃瘻や空腸瘻チューブの存在など、CDIの危険因子が特定された。この研究では、24時間以内にC. difficileに活性のある抗生物質を投与された場合には発生率が低く、C. difficileに活性のある抗菌薬治療を受けている患者では、C. difficile検査の実施率が低い可能性があることが示唆される。
 
 CDIの疫学が市中発症の外来患者を含むように変化してきたため、いくつかの成人の研究ではCA-CDIの危険因子が検討されてきた。CA-CDI小児患者に関する報告で、抗生物質曝露歴は様々だが、CDI患者の捕捉が不完全で、過去の抗生物質使用の記録が不完全であることから、知見は慎重に解釈する必要がある。
 
 最近のメタアナリシスで、胃酸抑制剤、特にプロトンポンプ阻害剤 (PPI)は、成人のCDIのリスクを高くするとされ、FDAの医薬品安全性アラートの対象となった。PPICDIの発症との関連のメカニズムは明らかになっていないが、胃酸は摂取した病原体に対する宿主の防御機構であり、C. difficileの芽胞はpHが上昇した胃で生存できることが示されている。抗生物質PPIの併用は、PPI単独の使用よりもCDIのリスクが高いことが示されており、共通の機序が示唆されている。C. difficile検査を受けた腹痛/下痢を呈する小児のCDIのリスクを評価した研究では、PPIの使用はCDIと有意に関連していた。
 
4.小児の特別な集団におけるCDI
 CDIを発症した小児例は基礎疾患を持っていることが多い、医療曝露、抗生物質へ曝露、免疫抑制状態、腸内細菌叢の変化させる他の要因などが、組み合わされ、CDIを発症している可能性が高い。Kimらによる小児入院患者を対象とした大規模な研究では、患者の67%が少なくとも1つの併存疾患を有していた。しかし、併存疾患は年齢により大きく異なっていた。心血管疾患は、年少児(新生児)に多く、一方、がんは年長児(5~17歳)に最も多くみられた。
 
 炎症性腸疾患(IBD)を有する小児はCDIの発生率が高いと報告されている。さらに、CDIの存在はIBDの重症度に影響することが示されており、感染後の入院率やIBD治療の強化が必要になる。小児病院に入院している患者におけるCDI重症化の危険因子を評価したところ、悪性腫瘍でCDIを発症した全症例が重症化していた。
5.乳幼児とCDI
 乳幼児の間では、C. difficileの重要性についてはまだ議論の余地があります。さらに最近では、2歳未満の子どものC. difficileのプロスペクティブなスクリーニングにより、全体で保菌率が33%であった。保菌の原因は、母親ではなく、保育園や医療環境で、C. difficileの芽胞に暴露したためと考えられる。
 Zilberberg は、2000-05年にかけて、12ヶ月未満の乳児でCDIによる入院が倍増し、毎年18%増加していることを示した。さらに、Bensonは、小児病院でC. difficile陽性の便検体の61%が2歳未満の小児から採取され、そのうち50%は壊死性腸炎(疑い)の症例であった。18%は腸管切除を受けていたと報告した。単一施設の報告であるが、乳児のCDIは、NICUの入院期間の延長や下痢の頻度の増加と関連している可能性が示唆されている。
 
6.診断
 CDIの診断は、臨床的判断と検査結果を組み合わせて行うべきであり、便検査は下痢便がある時のみ行うべきである。「治療後の陰性化確認」のために検査を繰り返すべきではない。toxin A, Bの酵素免疫測定 (EIA)が一般的な検査法である。C. difficileグルタミン酸ヒドロゲナーゼ (GDH) の酵素免疫測定の感度は高い。GDHはC. difficileの毒素原性株に特異的ではない。
 
 先行研究では、小児科入院患者のCDI評価に使用されたEIAテストの3分の1近くが偽陽性であったことが報告されている。検査の特異度が比較的高くても、検査を受けた集団における疾患の有病率が低下すると、陽性予測値は低下する。さらに、CDIが疑われる入院中の小児の便検体を評価した研究では、便培養と比較して便EIA検査の感度が35%であったことが報告されている。この結果は、小児CDIを診断するためにEIA検査を使用することに問題がある可能性がある。
 
 PCRを含む核酸増幅テスト (NAAT) は、C. difficileの迅速かつ高感度で特異的な代替手段である。NAAT 法はコストが高いため、C. difficile 毒素/GDHが一致しない検体(GDH陽性だが毒素陰性)に対して NAAT 法による確認テストを行うという 2 段階のアルゴリズムアプローチが広く使われるようになっている。小児病院にいて、初回EIA検査→次にNAAT法の2段階のアルゴリズムでは、感度、特異度、陽性予測値、陰性予測値はそれぞれ 81%、100%、100%、96%であり、真の陽性症例の50%を短時間に報告することができた。
 
7.治療と転帰
 入院中の小児CDIに関連する転帰に関するデータは少ない。CDI患者をCDIのない患者と傾向スコアで比較したところ、入院期間の延長、院内死亡率の上昇、入院料の増加など、転帰が悪化する傾向が認められた。しかし、この研究では、転帰を決定する上で重要な治療データが利用できなかったため、解釈には注意が必要である。
 
 
 
8.小児の重度CDI
 Kimによる入院中の小児CDIの多施設共同研究で、1.25%の小児が腸管切除術を受けた。CDIの小児の全死亡率は4%であった。我々は、2つの施設に入院した小児のコホートにおける重症CDIに関連する危険因子と転帰を評価した。59%の患者が重症の基準を満たしていた。17%がPICUに入院し、中毒性巨大結腸、消化管穿孔、および外科的介入はまれであり、それぞれ2%未満であった。
 
9.  小児CDIの管理
 小児CDIの最適な管理は不明のままである。耐性菌の増加リスクとバンコマイシンのコスト増加についての懸念から、米国小児科学会などは、第一選択療法としてメトロニダゾールを推奨している。(2018年のCDCガイドラインでは、バンコマイシンとメトロニダゾールが同等に推奨されている。)
 
ーCDC/SHEAガイドラインの引用ー
ー引用終わりー
 
 小児における経口バンコマイシンの使用は病院によって異なり、最近の研究では3.5%~30%の範囲であった。
 メトロニダゾールと経口バンコマイシンが最も一般的に使用されるが、CDIの管理、特に再発または難治性の場合に使用される薬剤は他にもある。しかし、これらの治療法のほとんどは小児のデータは限られている。リファキシミンは、成人の小規模な研究(20人の患者)でバンコマイシンと同等の治癒率を示すことが示されており、複数のCDI再発を持つ成人患者にも使用されるが、リファキシミンを使用する際の注意点として、治療中に臨床的なC. difficile分離株による高レベルの耐性が誘導される問題がある。ニタゾキサニドも、成人CDI患者においてメトロニダゾールおよび経口バンコマイシンと比較されている。成人のCDI患者においてメトロニダゾールと同様の治癒率および再発率を示すことが示されたが、サンプルサイズが小さく、バンコマイシンとの非劣性は証明されなかった。
 
 CDIに対する新しい抗菌療法の中で、フィダキソマイシンは成人への使用がFDAに承認されている。成人を対象とした研究、フィダキソマイシンとバンコマイシンを比較した結果、フィダキソマイシンはバンコマイシンよりも臨床的治癒の達成は非劣勢、再発率も低いことが示されている。さらに、第3相試験のデータを使用した研究では、フィダキソマイシンはバンコマイシンよりも抗菌薬併用中でも臨床的治癒を達成するのに有効であることが示されている。フィダキソマイシンは、安全性試験が実施されれば小児への使用の可能性があるかもしれない。
 
 CDIに対する非抗菌治療の評価は本レビューの範囲ではないが、プロバイオティクス(Saccharomyces boulardiiおよびLactobacillus species)および糞便移植の使用を含む、静脈内免疫グロブリンなどがある。プロバイオティクスは、腸内細菌叢の通常の保護機能を回復させる上で理論的には有益であるが、臨床研究の結果は大部分が決定的ではない。糞便移植は、小児症例を含む非対照の症例シリーズで再発CDIに有効であった。
 
 
10.  予防
 CDIの予防は、抗菌薬使用の頻度、期間、数を最小限に抑えることが重要である。抗菌薬適正使用チームのサポートが必要で、SHEAとIDSAのガイドラインでも推奨されている。これらの対策の中でも、手袋の使用がC. difficileの感染伝播阻止する上で最も効果的であることが示されている。環境表面は塩素系消毒薬などで洗浄する必要があります。
 
11. まとめと今後の方向性
 近年、CDIの疫学は劇的に変化し、CDIは小児でも問題となっている。いくつかの研究では、小児における CDI の発生率の上昇が報告されているが、市中発症CDIの疫学をより評価するためには、さらなる研究が必要である。さらに、乳幼児の無症候性保菌は知られているが、この集団での陽性検査の重要性を理解するためにさらなる研究が必要である。CDIの診断は、感度の高い特異的な検査アルゴリズムを用いた適切な臨床所見に基づいてのみ行われるべきであり、毒素のみを単独で検査するべきではない。最後に、小児のCDIに対するさまざまな治療戦略を評価した比較有効性研究は、特に重症例において知見が不足している。