主要な結果です
・5374名が陽性(陽性率4%)
→99名が集中治療室(陽性者の1.8%)
→8名が死亡(陽性者の0.2%)
やはり小児の重症例は少ない
→99名が集中治療室(陽性者の1.8%)
→8名が死亡(陽性者の0.2%)
やはり小児の重症例は少ない
・黒人・ヒスパニック・アジア系人種は、検査を受ける割合が低いが、陽性率が高い
・悪性腫瘍や心臓疾患などの基礎疾患を有する小児で陽性率が高い
・2020年前半時点で、川崎病は増えていない(むしろ減っている)
という点です。
他にも、このデータから、たくさんの興味深い点が分かるので解説します。
Assessment of 135 794 Pediatric Patients Tested for Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Across the United States
Bailey LC, et al. JAMA Pediatr. 2020 Nov 23.
この研究の重要性:
目的:
方法:
この後方視的コホート研究は、2020年1月1日〜9月8日までにSARS-CoV-2の検査を受けた25歳未満の患者135,794人の電子カルテデータを用いて実施された。データは、主に11州の650万人からなる米国の小児医療システム7つのネットワークであるPEDSnetから得たものである。データ解析は、2020年9月8日から9月24日までに実施された。
結果:
合計135 794人の小児患者(男性53%、平均[SD]年齢、8.8[6.7]歳、アジア系3%、黒人15%、ヒスパニック11%、白人59%、人口10000人あたり290人[範囲 155~395人])がSARS-CoV-2の検査を受け、5374人(4%)が陽性であった(人口10000人1たり12人[範囲 7~16人])。白人と比較して、黒人、ヒスパニックおよびアジア系では、検査率が低かった(黒人:オッズ比[OR], 0.70[95%CI, 0.68~0.72]、ヒスパニック:OR, 0.65 [95%CI, 0.63-0.67]、アジア系:OR, 0.60 [95%CI, 0.57-0.63])。しかし、検査陽性率は有意に高かった(黒人:OR, 2.66 [95%CI, 0.68-0.72])、ヒスパニック:OR, 3.75 [95%CI, 3.39-4.15]、アジア系:OR, 2.04[95%CI, 1.69-2.48])。年長児(5~11歳:OR, 1.25[95%CI, 1.13-1.38]、12-17歳:OR, 1.92 [95%CI、1.73-2.12]、18-24歳:OR, 3.51 [95%CI, 3.11-3.97])、公費負担者(OR, 1.43 [95%CI, 1.31-1.57])、外来検査(OR, 2.13 [1.86-2.44])、救急外来検査(OR, 3.16 [95%CI, 2.72-3.67])も陽性率が高かった。単変量解析では、悪性腫瘍以外の慢性疾患患者は検査率が低く、呼吸器疾患のある患者は検査陽性率が低かった(standardized ratio [SR], 0.78[95%CI, 0.73-0.84])。しかし、他のいくつかの基礎疾患は検査陽性率が高かった。:悪性腫瘍(SR, 1.54[95%C, 1.19-1.93])、心疾患(SR, 1.18[95%C, 1.05-1.32])、内分泌疾患(SR, 1.52[95%CI, 1.31-1.75])、消化器疾患(SR, 1.20[95%CI, 1.04~1.38])。 、遺伝性疾患(SR, 1.19[95%CI, 1.00~1.40])、血液疾患(SR, 1.26[95%CI, 1.06~1.47])、筋骨格系疾患(SR, 1.18[95%CI, 1.07~1.30])、精神疾患(SR, 1.20[95%CI, 1.10~1.30])、代謝性疾患(SR, 1.42[95%CI, 1.24~1.61])であった。検査陽性であった5374例のうち,359例(7%)が呼吸器症状,血圧低下(shock, sepsis),COVID-19による症状で入院した.このうち、99人(28%)が集中治療室での治療を必要とし、33人(9%)が人工呼吸器管理を必要とした。死亡率は0.2%(5374例中8例)であった。2020年前半に川崎病と診断された患者数は、2018年および2019年に比べて40%減少した(259人 vs 433人および430人)。
結論:
米国の小児患者を対象とした大規模コホートでは、SARS-CoV-2の感染率は低く、臨床症状は典型的には軽度であった。黒人、ヒスパニック、アジア系の人種、思春期および若年成人層、呼吸器疾患以外の慢性疾患を有する患者で、検査陽性率が高かった。小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)の代理指標として川崎病が増加している訳ではない。
追加の解説です
今回の研究では、繰り返しになりますが
5374名が陽性(検査陽性率は4%)→359名が入院(陽性者の6.7%)→99名が集中治療室(陽性者の1.8%)→33名が人工呼吸器管理(陽性者の0.6%)→8名が死亡(陽性者の0.2%)
ということが分かりました。やはり、小児では患者も少なく重症化する率が低いのは、これまで通りの結果です。
米国では、無症状・軽症例は、入院しないことが原則なので、97%が外来で診療されています。
年齢別の重症度です。ここで「重症」の定義ですが、肺炎、セプシス、COVID-19のために入院した検査陽性症例です。なので、必ずしも、挿管が必要とかいうレベルではありません。この点は、注意が必要だと思います。
年齢
|
「重症」化率
|
1歳未満
|
12.7% (72/566)
|
1−4歳
|
4.7% (40/848)
|
5−11歳
|
6.5% (72/1101)
|
12−17歳
|
7.1% (117/1638)
|
18−24歳
|
4.7% (58/1221)
|
これまでの報告通り、1歳未満の重症化が比較的多いと思われます。
Table 2の続きです
人種
|
検査陽性率
|
「重症」化率
|
ヒスパニック
|
6.7%
|
10.5% (108/1026)
|
アジア
|
3.4%
|
5.6% (9/160)
|
黒人
|
7.6%
|
7.7% (119/1543)
|
白人
|
2.6%
|
4.6% (97/2085)
|
人種差に関する検討は米国らしいです。
・黒人・ヒスパニックは、陽性率も重症化率も高い
・白人・アジアンは、陽性率も重症化率も低い
これまでもヒスパニック・黒人でCOVID-19は重症化しやすいという報告もあるので、小児でもその傾向と合致します。
視点を変えると、人種により医療アクセスの違い(検査を受けるpopulationの差)がある可能性があります。それを示唆するのが、検査陽性率の違いです。
以下は仮説ですが、
・白人・アジアンは、医療サービスへアクセスが良い。そのため、検査数が多いが、陽性率は低い。軽症が多く見つかるので、重症化が少ない。
・アジア各国のCOVID-19患者が少ないのは、文化や生活習慣などの可能性もあります。米国でもアジア人のコミュニティでは比較的感染者が少ない可能性がある。
・ヒスパニック・黒人は、医療サービスへのアクセスが悪い。多少の体調不良でも受診を控え、自宅で粘る。結果として、陽性率が増加し、重症例が多く見つかっている。
次は、基礎疾患がある患者の臨床経過です。
基礎疾患
|
無症状・軽症
|
「重症」
|
「重症」化率
|
無し
|
3132
|
172
|
5.2%
|
1臓器
|
1040
|
52
|
4.7%
|
2臓器以上
|
843
|
135
|
13.8%
|
複数の臓器にわたるより複雑な基礎疾患を抱えている子どもの重症化率は高い傾向にあります。
各疾患ごとの陽性率です(重症化率ではないことに注意)
意外な点は、基礎疾患に呼吸器疾患を有している患者の、検査率も陽性率は高くないことです。生活習慣上、普段から気道感染予防に気をつけているのかもしれません。他の基礎疾患であっても、健康な児と比較して、2倍、3倍かかりやすいわけではありません。この点は、朗報かと思います。(もちろん、重症化はしやすいので注意が必要ですが…)
年齢ごとの、検査数と陽性率です
年齢が上昇し、成人に達すると、活動範囲が広がり、患者が増える傾向は日本と同じですね。
最後に川崎病との関連です
川崎病に類似した多系統炎症症候群(MIS-C)が、COVID-19後に欧米から報告されていますが、今の所、日本ではそのような報告はありません。報告を読んでも、川崎病と言うより、ショックを伴っており、TSSなど過剰な免疫反応が病態のような印象を持ちます。COVID-19流行が始まってから、むしろ川崎病の患者数は減少していることを示しています。MIS-Cと川崎病が同じ病態なら、境界にある患者が増え、川崎病が増えるのが自然です。MIS-Cと川崎病が別の病態と考えたほうが良いことを示唆するデータだと思います。