小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の川崎病

 先日、国内でもCOVID-19に罹患した後に、川崎病を発症した症例が報告されました。欧米での報告が多くMIS-C(多系統炎症性症候群)と言われております。これまでに出版された論文の655例のまとめです。
 
A Systematic Review of Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Associated With SARS-CoV-2 Infection
Ashlesha K, et al. Pediatr Infect Dis J. 2020
 
背景:小児において多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children: MIS-C)と呼ばれる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した重篤な症状が報告されている。罹患した患者に良い管理を行うためには、この新しい症候群に関する研究の分析が必要である。
 
方法:大規模な検索として、電子データベース(PubMed、EMBASE、CINAHL)およびプレプリントサーバー(BioRxiv.orgおよびMedRxiv.org)で、ガイドラインに従って、2020年1月1日から2020年7月31日までに発表されたすべての論文を検索した。観察的横断的、コホート、症例シリーズ、症例報告が含まれていた。
 
結果:合計328件の論文が同定された。最終的な解析は、655人(生後3カ月~20歳)の16研究で行った。報告された研究では、ほとんどの児が発熱、胃腸症状、川崎病様症状を呈した。患者の68%が集中治療を要し、40%が強心薬、34%が抗凝固療法を、15%が機械的換気を必要とした。2/3以上の患者が免疫グロブリンの静脈内投与を受け、49%がステロイドを投与された。レムデシビルと回復期血漿はあまり使用されなかった。左室機能障害は32%の患者で報告された。KD様症状を呈した患者のうち、23%が冠動脈異常を呈し、26%がショックを呈した。11例(1.7%)が死亡した。
 
結論:本システマティックレビューでは、SARS-CoV-2 感染に伴う MIS-C の臨床的特徴、管理、転帰を明らかにした。ほとんどの小児が集中治療と免疫調節療法を必要としたが、大多数の小児では良好な転帰が報告されており、死亡率は低かった。
 
 
 MIS-Cの症状をまとめた表があります。
 発熱はほぼ必発で、皮疹・消化器症状(70%)も多い。心血管症状は51%で見られ、28%の患者がショックを呈していました。古典的KD症状は41例(6.2%)。194例(29.6%)がKD症状はとしては不完全な症状でした。無菌性髄膜炎などの中枢神経合併症は145例(22%)。呼吸器症状はあまり認めませんでした。
 このことから、MIS-Cは川崎病とは似ているが、川崎病の典型例とはかなり異なっている様子が分かります。ショックを呈する割合が多い、消化器症状が多い点なども、通常の川崎病とは別の概念の疾患だろうと思われます。
 
 COVID-19に罹患後2−4週間程度で発症することが多いのですが、 PCR陽性者は218例(33%)、抗体陽性者は352例(54%)でした。まだ気道にウイルスが残っている時期にも発症することが分かります。黒人、ヒスパニック、南アジア人で、MIS-Cの発症率が高い可能性もあります。