感染症科をやっていると、血液培養から、いろいろな菌種が出てきた患者さんを見ます。しかし、血培陽性になった日に、菌の名前は分からないので、分からないなりに菌を推定して、治療を考えます。
Gram陽性ブドウ球菌→黄色ブドウ球菌かCNS、バンコマイシン追加する?
個人的に、一番考え方が悩ましいのがGram陽性連鎖球菌が出たときです。連鎖が短い(特に双球菌)なら、肺炎球菌、腸球菌を考えますし、連鎖が長く菌体が大きめで正円に近いなら、溶血性連鎖球菌(GAS、GBS、GGSなど)を考えます。しかし、推定がつかない場合も多く、いわゆる緑色連鎖球菌と言われるα溶血する菌は、菌種も多く、いろんなフォーカスを考え、時にコンタミネーションもあり、悩みます。
今回の論文は、連鎖球菌が血液培養から検出された場合、IEを合併しているリスクが菌ごとに違うよーという内容ですが、まず、連鎖球菌の分類を考える図がわかりやすく良いです。
〜Gram陽性連鎖球菌の考え方〜
Pyogenicグループ:GAS、GBS、GGSなどが入る。
Mitisグループ:S. mitis、S. oralis、S. sanguinisなど。IEを起こしやすいグループ。
Salivariusグループ:S. salivariusなど。IE起こすことも。
Anginosusグループ:S. anginosus, S. intermedius, S. constellatus。深頸部感染症などを起こすグループ。
Mutansグループ:S. mutansなど。口腔内感染症・齲歯、IEの原因にもなる。
Bovisグループ:S. gallolyticusなど。大腸がん→菌血症として有名。
その他:S. suis→豚から人に感染し髄膜炎・菌血症、NVSグループ→培養難しい。培養陰性IEの原因として重要。
前提は、以上でこれからが本題ですが、論文中の図がすべてを語っています。
Prevalence of Infective Endocarditis in Streptococcal Bloodstream Infections Is Dependent on Streptococcal Species.
Circulation. 2020 Aug 25;142(8):720-730.
要旨
背景
連鎖球菌は、感染性心内膜炎(IE)の原因となることが多いが、菌種によって血流感染症(BSI)にIEを合併する有病率は不明である。我々は、連鎖球菌によるBSI患者におけるIEの有病率を菌種毎に調査することを目的とした。
方法
2008年から2017年にかけて、デンマーク首都圏で連鎖球菌性BSIを発症した全患者を調査した。データはデンマークの全国レジストリーと連携させ、IEを合併した入院患者の同定を行った。多変量ロジスティック回帰分析において、年齢、性別、3本以上の血液培養陽性、自然弁の弁膜症、人工弁、IEの既往、および心臓内デバイスで調整した連鎖球菌の菌種によるIEのリスクを調査した。
結果
連鎖球菌性BSI症例6506例(平均年齢68.1歳[SD 16.2]、男性52.8%)のIE有病率は7.1%(95%CI、6.5-7.8)であった。IE有病率が最も低かったのは肺炎球菌(S. pneumoniae)で1.2%(0.8-1.6)、S. pyogenesで1.9%(0.9-3.3)であった。IEの有病率が中程度であったのは、S. anginosus 4.8%(3.0-7.3)、S. salivarius 5.8%(2.9-10.1)、S. agalactiae 9.1%(6.6-12.1)であった。IE有病率が最も高かったのは、S. mitis/oralis 19.4%(15.6-23.5)、S. gallolyticus(旧S. bovis)30.2%(24.3-36.7)、S. sanguinis 34.6%(26.6-43.3)、S. gordonii 44.2%(34.0-54.8)、S. mutans 47.9%(33.3-62.8)であった。S. pneumoniaeを基準とした多変量解析では、S. pyogenesを除くすべての菌種のIEリスクは有意に高く、最もリスクが高いS. gallolyticusのオッズ比(OR)は31.0(18.8-51.1)、S. mitis/oralisのORは31.6(19.8-50.5)、S. sanguinisのORは59.1(32.6-107)、S. gordoniiのORは80.8(43.9-149)、S. mutansのORは81.3(37.6-176)であった。
結論
連鎖球菌のBSIにおいて、IEの有病率は菌種に依存している。S. mutans、S. gordonii、S. sanguinis、S. gallolyticus、およびS. mitis/oralisにおいて、IEの有病率が最も高く、IEの危険因子を調整した後でも関連IEリスクが最も高かった。
・肺炎球菌は、頻度が高いが、IEは起こしにくい。GGSとGASとGBSも同様。
・MitisグループとMutansグループは、頻度は低いが、IEを起こしやすい。