小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

尿から肺炎球菌?

 タイトルを見て「??」と思いましたが、なるほどです。
 小児(だけではなく成人)の尿路感染症の多くは、大腸菌などのGram陰性菌が原因です。感染症科医としては、尿から「尿路感染症の原因にならない菌が検出された場合、菌血症→尿に出てきた」と考えることが一般的です。
 (黄色ブドウ球菌菌血症などでは、黄色ブドウ球菌の細菌尿がよく見られます)
 この研究は、成育医療センターから発表されたものですが、肺炎球菌やインフルエンザ菌など、通常は肺炎などの気道感染の原因となる菌が尿路感染症を起こすこともありますよ、ということを教えてくれます。
 とは言え、稀な事象で、多くは膀胱皮膚瘻など、尿路の解剖学的異常がある症例です。とても勉強になりました。Abstractには記載がないですが、複数菌感染の割合が多いこともポイントかなと思います。
 
Urinary tract infection caused by bacterial pathogens of the respiratory tract in children.
Pediatr Int. 2022 Jan;64(1):e15419.
 
背景
 肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラなどの呼吸器疾患を起こす細菌による尿路感染症(UTI)はまれであり、臨床的特徴や宿主の危険因子についてはほとんど分かっていない。本研究の目的は、その臨床的特徴を明らかにすることである。
 
方法
 3次小児病院において、S. pneumoniae、Haemophilus spp.、M. catarrhalisによる小児UTIに関する後方視的研究を実施した。2002年から2020年の間にUTIと診断された小児患者を対象とした。電子カルテおよび感染症サーベイランスシステムから,患者情報、検査データ、細菌検査結果を抽出した。
 
結果
 46,332件の尿検体のうち、対象菌種による細菌尿は76件(0.16%)、UTI症例22件(0.05%)が確認された(S. pneumoniae, n = 7, Haemophilus spp., n = 15)。うち17名(85%)に尿路の解剖学的異常があり、13名(60%)に膀胱皮膚瘻があった。S. pneumoniaeとHaemophilus spp.によるUTIは、すべて膀胱瘻を造設している患者に発生した。全例とも臨床経過は良好であった。
 
結論
 S. pneumoniaeとHaemophilus spp.は小児UTIの原因菌としては稀であるが、特に尿路の解剖学的異常や膀胱皮膚瘻を有する患者では、真の原因菌となる可能性がある。臨床医は、これらの病原体が上記のような基礎疾患のある患者に見られた場合、汚染菌として無視すべきではない。
 

 
 
肺炎球菌 5例
年齢(中央値)
3歳
3.5歳
UTIエピソード
7回
15回
尿路の異常
60%
93%
間欠的導尿
43%
33%
膀胱瘻
71%
54%
単一菌感染症
71%
47%

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov