UTIを起こした乳児に、抗菌薬予防投与をすると、UTI再発が減ることが分かっていました(RIVUR試験)。一方、UTIを起こす前にVURを見つけて、予防投与したら、意味があるのかは、よく分かっていませんでした。
今週のNEJMに掲載された報告です。
要点
・欧州で実施された無作為化試験。
・中等症以上のVURがあるが「一度もUTIを起こしたことがない」患者を対象
・予防投薬を24ヶ月まで行ったところ、対照群と比較して、期間中に初回UTIを起こす頻度は有意に低下した。(21.2% vs. 35.6%)
・一方、腎瘢痕や腎機能には影響がなかった。
・Grade IV, Vの女児では、予防効果がより大きい。
・中等症以上のVURがあるが「一度もUTIを起こしたことがない」患者を対象
・予防投薬を24ヶ月まで行ったところ、対照群と比較して、期間中に初回UTIを起こす頻度は有意に低下した。(21.2% vs. 35.6%)
・一方、腎瘢痕や腎機能には影響がなかった。
・Grade IV, Vの女児では、予防効果がより大きい。
Antibiotic Prophylaxis in Infants with Grade III, IV, or V Vesicoureteral Reflux.
N Engl J Med. 2023 Sep 14;389(11):987-997.
背景
膀胱尿管逆流(VUR)(Grade III、IV、V)を有する乳児において尿路感染症(UTI)を予防するために、予防的に抗菌薬投与が有効がについては議論がある。
方法
本研究は、欧州39施設で実施された医師主導の無作為化非盲検試験である。Grade III、IV、Vの膀胱尿管逆流(VUR)を有し、尿路感染症の既往歴がない生後1~5ヵ月の乳児を対象とし、24ヵ月間抗菌薬の予防投与を行う群(予防群)と治療を行わない群(無治療群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、試験期間中に初めて尿路感染症を発症することとした。副次的評価項目は、腎瘢痕の形成と24ヵ月時点の推定糸球体濾過量(eGFR)であった。
結果
合計292人の対象者が無作為化された(各群146人)。約75%は男児で、年齢中央値は3ヵ月、235人(80.5%)がグレードIV・VのVURであった。Intention-to-treat解析では、初回尿路感染症は、予防群31人(21.2%)、無治療群52人(35.6%)に発生した(ハザード比、0.55;95%信頼区間[CI]、0.35~0.86;P=0.008)。1回の尿路感染症を予防するために、2年間治療する必要がある人数は7人(95%CI、4~29)であった。無治療の参加者のうち、64.4%が期間中に尿路感染症を発症することはなかった。腎瘢痕の発生率および24ヵ月時のeGFRは、両群間で大きな差はなかった。予防群の参加者は、緑膿菌、大腸菌以外の細菌、抗菌薬耐性菌が原因菌となる尿路感染症を起こす割合が、無治療群の参加者より多かった。有害事象は両群で同程度であった。
結論
Grade III、IV、VのVURを有する、尿路感染症の既往がない乳児において、抗菌薬の予防投与は、初回の尿路感染症の予防に僅かであるが、有意な利益があった。しかし、大腸菌以外の菌や抗菌薬耐性菌の増加が見られた。
・この図をみると、予防投与した群(オレンジ色の線)では、初回UTIを発症する頻度が10%強ほど低い事がわかります。
・しかし、生後2年間に尿路感染症を起こすのは、無治療群であっても約1/3程度と思ったより少ないです。(2/3の患者は何もしなくてもUTIにならない)
・細かい図なのですが、予防効果については、男女差がかなりあります。
・Grade IVとVの女児:予防投与により、尿路感染症を予防できる効果が高い
Grade IVでハザード比 0.21 (N=36)、Grade Vでハザード比0.05 (N=17)。
症例数が少ないため、95%CIが広いですが、興味深い結果です。
Grade IVでハザード比 0.21 (N=36)、Grade Vでハザード比0.05 (N=17)。
症例数が少ないため、95%CIが広いですが、興味深い結果です。
・Grade IIIとGrade Vの男児:予防効果がほとんどありません。
特にGrade VはN=99と多数の症例をフォローしているのに全く効果がない。Grade IVでも、女子ほど差がありません。男子は、VURがあっても、そもそもUTIを発症しにくい?
特にGrade VはN=99と多数の症例をフォローしているのに全く効果がない。Grade IVでも、女子ほど差がありません。男子は、VURがあっても、そもそもUTIを発症しにくい?
・筆者らが以下のように意見を書いていますが、納得できます。
「抗菌薬を継続的に予防投与することをルーチン化することは正当化されない。」
「Grade IV・VのVURを有する女児や初回尿路感染後の再感染を予防するために、予防的抗菌薬投与は考慮するべき」
「抗菌薬を継続的に予防投与することをルーチン化することは正当化されない。」
「Grade IV・VのVURを有する女児や初回尿路感染後の再感染を予防するために、予防的抗菌薬投与は考慮するべき」
For these reasons, we believe that the routine use of continuous antibiotic prophylaxis
is not justified and should be considered only in female patients with grade IV or V vesicoureteral reflux or to prevent reinfections that may occur after a first UTI.
日本での応用を考えた時、1ヶ月検診でルーチンで腎エコーをするとかしない限り、UTI発症前のVURを見つけることはできないと思います。
参考:本文中でも取り上げられていますが、
初回尿路感染を起こした後の予防に関しては、すでにRIVUR試験でST合剤がゆうこうであるとの報告があります。ST合剤の予防で、尿路感染症の再燃が約半分になります(再発率が24%→13%)。
Antimicrobial prophylaxis for children with vesicoureteral reflux. N Engl J Med. 2014 Jun 19;370(25):2367-76. doi: 10.1056/NEJMoa1401811.