小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児でもOPAT(外来静注抗菌薬療法)ができる

 
 OPATは、Outpatient Parenteral Antimicrobial Therapyの略で、外来静注抗菌薬療法が日本語訳になります。OPATは、外来で点滴による抗菌薬投与を行う治療法のことです。肺炎などにセフトリアキソンを1日1回投与する方法も、OPATの一つでよく知られています。しかし、その他にも、インフュージョンポンプを使用して24時間持続点滴を行う方法が海外では実施されています。
 日本では、セフトリアキソン以外は一般的でなく、私も亀田総合病院で研修するまでは、その存在すら知りませんでした。亀田総合病院でのOPATの方法や実績については、以下の記事(馳先生)が詳しいです。
 ただ、治療に対する協力を得にくい小児ではOPATは難しいと思います。そもそも、PICCなどの血管内デバイスを入れたまま自宅で治療して安全か、成人より小さな口径のカテーテルなので閉塞のリスクも高いですし、自己抜去のリスクも高いと思います。
 そんな中、メルボルンの小児病院からOPATの枠を拡大して、実績を伸ばしていますという報告がありましたので、紹介します。
 

Impact of expanding a paediatric OPAT programme with an antimicrobial stewardship intervention

Huynh J, et al. Arch Dis Child. 2020;105:1220.
 
背景
 外来での外来静注抗菌薬療法(OPAT)による外来治療が急増するにつれ、リスクが増加したり、最適な治療が提供されない可能性がある。
 
目的
 OPAT治療枠の拡大前と拡大後の(1)治療完遂率と合併症発生率、(2)OPATに特化した抗菌薬適正使用プログラム(AMS)介入の影響を比較することを目的とした。
 
研究デザイン
  前期(2012年8月1日~2013年7月31日)と後期(2013年8月1日~2014年7月31日)の連続した12カ月間の前向き縦断研究。
 
施設
  メルボルン王立小児病院のHospital-in-the-Home(HITH)プログラム
 
参加者
 試験期間中にOPATを受けた全患者。
 
介入
 2つの期間に、OPAT枠が16人/日から32人/日に拡大された。同時にAMSによる介入が開始された。具体的には、OPATに特化したガイドラインの導入とOPAT処方の監査と小児感染症チームからの助言である。
 
主な成果指標
 OPATの完遂率、OPAT関連の合併症の発生率、再入院率、入院期間、抗菌薬が適切に使用された割合である。
 
結果
 2年間で646人の患者(女児47%、年齢中央値7歳)が754回のOPATを受けた。実施件数は、前期の254件から後期の500件へと増加した。それに比例して、1ヵ月未満の新生児や免疫不全患者も増加した。OPATを完遂できたのは前期 245/251例(98%)、後期 473/482例(98%)であった(OR 1.8、95%CI 0.7~4.5、p=0.3)。OPATに関連した合併症は、カテーテル関連の合併症 16/138例(12%)対 41/414例(10%)、抗菌薬関連の合併症0/254例(0%)対2/500例(0.4%)であり、前後で上昇は見られなかった。OPAT枠を拡大したが、抗菌薬の適正使用割合は、71%対76%と高い水準を維持していた。不適切な長期処方は、30/312例(10%)から37/617例(6%)に減少し(OR 0.6、95%CI 0.4~0.99、p=0.04)、抗菌薬の投与日数の中央値は11日(IQR 8~24.5)から8日(IQR 5~11)に減少した。
 
結論
 大幅なOPAT枠の拡大にもかかわらず、臨床成績は維持された。AMSの介入により、不適切な抗菌薬処方の一部は減少した。
 
 
以下は論文の詳細です。
 まず、年齢層ですが、年少児が多くて、びっくりしました。後期(Period B)の年齢分布は、1ヶ月未満が3.4%、1ヶ月−1歳未満が10%、1−5歳未満が31%、5−12歳未満が32%、12歳以上が24%となりました。5歳未満が44%を占めており、年少児でもOPATが可能であることがわかります。
 何らかの基礎疾患を持っている患者が半分程度でした。

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 次に、どのような疾患でOPATが実施されたかです。多様な感染症にOPATが使用されていることがわかります。Cystic fibrosisが多いのは、オーストラリアだからだと考えられます。

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疾患
割合
嚢胞線維症
(cystic fibrosis)の増悪
25%
12%
菌血症
(好中球減少性発熱)
11%
(7%)
CLABSI
10%
尿路感染症
10%
7%
骨髄炎
6%
下気道感染症
6%
化膿性リンパ節炎
2%
化膿性関節炎
2%
 
 使用した血管アクセスルートは、以下のようです。末梢ラインで実施している症例が最多でした。
投与ルート
割合
末梢ライン
36%
PICC
22%
トンネル型CVC
20%
ポート型カテーテル
16%
ミッドラインカテーテル
5%
静脈内アクセスなし
1%
 

 

 使用している抗菌薬は、セフトリアキソンが最多です。次いで、ゲンタマイシン、クロキサシリン、チカルシリン・クラブラン酸、ピペラシリン・タゾバクタムでした。黄色ブドウ球菌ペニシリンであるクロキサシリンなど狭域抗菌薬の平均投与日数は15日と長く、黄色ブドウ球菌の菌血症・CLABSI、骨髄炎などに使用される割合が多いと推測できます。また、セフトリアキソンやゲンタマイシンは平均投与日数が5日程度で、肺炎や尿路感染症など比較的治療期間が短くて済む疾患に対して使用されていると考えられれます。
 亀田総合病院では、感染性心内膜炎、CLABSI、骨髄炎などに対してセファゾリンIEや神経梅毒にペニシリンGなどを行っておりました。本来、入院で見たほうが良いけど、治療期間が長いし、落ち着いているので、外来でOPATをするという間隔です。
 このメルボルンの報告では、そもそも気道感染症や尿路感染症を最初からOPAT前提で、治療している割合もかなりいることがわかります。小児と成人の疾患の違い、国の医療制度の違いも反映しているのかもしれません。

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