小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児骨髄炎のまとめ(NEJMより)

小児急性骨髄炎

Acute Osteomyelitis in Children

Peltola H, et al. N Engl J Med. 2014; 370: 352.

 

 NEJMの小児骨髄炎の総論です。成人は骨髄炎といえば、椎体炎が多いですが、小児では長管骨の骨髄炎が多いことが特徴的です。

 

1.はじめに
 外傷からの直接接種、蜂窩織炎、化膿性関節炎からの進展、または血行性播種を介して、細菌が骨に到達する。小児では、急性骨髄炎はほとんどの場合、血行性播種によるものである。先進国で急性骨髄炎は年間小児10万人あたり8人に発症するが、低所得国ではより頻度が高い。急性骨髄炎を迅速に診断し、適切な治療を行わないと、致死的な転機となったり、後遺症の発生率も高くなる。 
 骨髄炎の原因菌は、黄色ブドウ球菌が圧倒的に多く、次いでStreptococcus pyogenesとS. pneumoniaeがこれに続く。サルモネラは、発展途上国や鎌状赤血球症患者の間で骨髄炎の一般的な原因となっている。Kingellaは増加しており、4歳未満の小児に最も多く見られる。
 
2.臨床症状
 骨髄炎と診断された場合、罹患期間が2週間未満の場合は急性、2週間~3ヶ月の場合は亜急性、それ以上の場合は慢性に分類される。多発骨髄炎は年齢に関係なく発症する可能性があるが、新生児に最も多く発症する。
 小児における典型的な臨床症状は、跛行や歩行不能、発熱、圧痛であり、長管骨の周囲に発赤や腫脹が見られることがあり、上肢よりも下肢に多く見られる(図1)。多くの場合、患者の状態は臨床症状が現れる数日前に悪化している。踵骨骨髄炎は気づかないうちに進行し、受診が遅れることもある。椎体の骨髄炎は典型的には腰痛を発症するが、直腸指診で痛みがある場合には、仙骨骨髄炎の可能性もある。急性骨髄炎は、不明熱の患者で考慮すべき鑑別診断である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)骨髄炎の小児例は、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の子供に比べて、高熱、頻脈、疼痛による歩行困難を呈することが多い。
 

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3.診断
 小児骨髄炎の診断へのアプローチを図2に示す。身体診察で骨病変が示唆された場合、検査を行う。血清CRPとプロカルシトニンは診断の感度が高く、病勢のフォローに有用であるが、プロカルシトニンはより高価でCRPより優れている点はほとんどない。赤血球沈降速度(ESR)は増加するが、CRP値よりも緩徐に減少するため、病勢をモニターする上ではあまり有用ではない。他の菌による骨髄炎と比較して、MRSAによる骨髄炎では、CRP値、赤血球沈降速度、白血球数の上昇が大きい。
 骨髄炎で見られる骨の「rat bite」は、発症から2~3週間後にX線写真で確認できるようになる。入院時のX線写真が正常であるからといって、急性骨髄炎を除外できるわけではないが、骨折の除外やユーイング肉腫やその他の悪性疾患の発見に役立つこともあり、撮影する。
 シンチグラフィは感度が高く、特に長管骨に病変がある場合や症状のある部位がはっきりしない場合に有用である。磁気共鳴画像法(MRI)は、診断が困難な症例で利用される。超音波検査はあまり重要ではないが、隣接する関節に液体貯留があれば化膿性関節炎を示唆する。
 急性骨髄炎において原因菌を特定することは非常に重要である。骨髄炎は画像診断によって診断できるが、原因菌の抗菌薬感受性を確認するために検体を採取することは、可能な限り行うべきである。血液培養は必須であるが、原因菌が判明するのは40%に過ぎない。K. kingaeは、年少児において、これまで考えられていたより多いことが分かっており、特殊な培養法やポリメラーゼ連鎖反応法を使用することで検出感度を上げることができる。
 
 
4.治療
・抗菌薬
 急性骨髄炎の治療は、原因菌と薬剤感受性が判明する前に、経験的に開始されることがほとんどである。使用頻度の高い抗生物質を表 1に示すが、投与量が多く、経口投与した場合の副作用が許容できるものでなければならない。クリンダマイシンおよび第一世代セファロスポリンは、比較的安全である。クリンダマイシンは小児で下痢を起こすことはほとんどないが、発疹が出ることがある。多くのMRSA株はクリンダマイシンに感受性があるが、K. Kingaeに対してはクリンダマイシン(バンコマイシンと同様)を使用すべきではない。H. influenzae type b による症例では、β-ラクタマーゼ陰性株であればアンピシリンまたはアモキシシリン、β-ラクタマーゼ陽性株であれば第2世代または第3世代セファロスポリンが有効である。特に、H. influenzae b 型に対するワクチン接種を受けておらず、骨髄炎や化膿性関節炎を呈する 4 歳未満の小児には、本剤を検討すべきである。状態が悪い患者や、クリンダマイシン耐性菌の頻度の高い地域では、バンコマイシンを第一選択薬として選択すべきである 、一方でバンコマイシンに反応しない患者には、リネゾリドを検討するべきである。小規模な後方視的研究で、MRSA骨髄炎に対するトリメトプリム-スルファメトキサゾール治療で良い結果が得られたが、大規模な臨床試験のデータが無く、安価で多くの点で有利なST合剤は依然として議論の的となっている。サルモネラによる骨髄炎には、セフォタキシムやセフトリアキソンなどの第三世代のセファロスポリン、またはフルオロキノロンが必要である。現在先進国では入手困難なクロラムフェニコールを使用することも可能である。
 
 骨髄炎には、他の薬剤が必要になることがある。臨床医の判断により、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を症状緩和のために使用することができる。急性骨髄炎におけるステロイドの使用を支持するデータは無い。深部静脈血栓症、敗血症性肺塞栓症、またはその両方を合併した症例では、抗凝固薬が必要となる場合がある。
 
・静注薬から経口薬への切り替え
 3つの臨床試験では、静脈内投与の期間を1週間より短くしても転帰に変化は見られなかった。英国のレビューでは、合併症を伴わない骨髄炎では短期の静注抗菌薬投与が許容されると結論づけられています。生後3ヶ月以上の免疫正常児131人を対象とした検討では、静脈内投与は2~4日間のみで、その後に経口投与に変更されたが、再発例がなかったことが報告されているが、この研究にはMRSAが原因菌の症例が含まれていない。MRSAが一般的な病原体である米国などでは、より保守的なアプローチが妥当であろう。
 
・治療期間と治療困難な病原体
 1960年に報告された研究では、治療開始の遅れと抗菌薬投与期間3週間未満の2つの要因が再発の危険因子と考えられた。他の研究では、約21日以上の長期投与では利点がないことが示されている。我々の前向きランダム化試験では、MSSA、連鎖球菌、肺炎球菌による骨髄炎に対して、高用量クリンダマイシンまたは第一世代セファロスポリン(投与量は表1に記載)の20日間と30日間のレジメンが比較された。
 IDSAガイドラインでは、MRSAによる急性骨髄炎の小児に対しては、最低4~6週間の治療を推奨している。また、進行した患者やサルモネラによる骨髄炎が一般的な地域の患者にも適用できるかもしれない。病的骨折は、同一パルスフィールドパターン(USA300-0114株)を特徴とするMRSAが関連しているが、骨折は必ずしも外科的介入を必要とするわけではない。MSSAと比較して、MRSA深部静脈血栓症、敗血症性肺塞栓に関連することが多い。MRSAは合併症の増加と関連しているが、ペニシリン耐性肺炎球菌は骨関節症の合併症のリスクの増加とは関連していない。
 短期間治療に関連して、他に注意点がある。新生児、免疫不全や栄養失調の患者、鎌状赤血球症の患者における短期間の治療法の使用に関するデータはないが、これらの患者ではより長い治療期間が必要となる可能性が高い。急性骨髄炎が化膿性関節炎を合併しており、慢性化しており、CRP値の正常化が遅い場合、より長期間の治療も検討する必要がある。
 
・手術の役割
 小児の骨髄炎に対する手術のランダム化試験がないため、手術の時期や方法、生検以外の外科的介入の必要性についての問題点が残っている。積極的な早期手術を受けた68人の患者を対象とした研究では、17%が慢性骨髄炎を発症した。状態が安定した後、または数日以内に抗菌薬療法に反応がない場合には、膿瘍の排出などの介入を行うことで治癒プロセスを早めることができるかもしれない。亜急性または慢性の骨髄炎(Brodie's abscess)の場合、しばしば手術が必要と考えられている。