Pelvic pyomyositis in children: changing trends in occurrence and management
M. Kiran, et al. Int Orthop. 2018;42:1143.
+化膿性筋炎に関する解説
【はじめに】
以前は、熱帯地方に多い病気と考えられていた化膿性筋炎は、現在、熱帯以外の地方でも報告が増加している。成人では、悪性腫瘍や糖尿病などの免疫不全を背景に持った患者が多いが、小児では免疫正常者が多い。発症の機序は、運動などが原因で筋肉に軽微な外傷が加わり、たまたま生じた菌血症により、損傷を受けた筋肉に細菌が定着するものと考えられている。
【臨床経過】
臨床病期を3分類する方法が提唱されており、初期には抗菌薬投与のみで治癒が見込めるが、進行すると膿瘍形成し抗菌薬に加えて外科的治療を必要とする。
(横浜医学. 2018;69:11)
【罹患部位】
Bikels J, et al. J Bone Joint Surg Am. 2002 Dec;84(12):2277-86.
【論文の内容紹介】
本論文は、小児の骨盤の化膿性筋炎のケースシリーズである。1998−2016年までに英国(リバプール)の小児病院で治療を受けた41症例(小児例)を後方視的に解析した。
結果:
2015-2016年に化膿性筋炎の症例が増加していた。85%がコッヘルの化膿性関節炎の予測式の基準を満たした。診断までの平均日数は、2.8±0.8日。罹患部位は、閉鎖筋(66%)であり、複数の筋肉が罹患した症例は46%であった。早期診断と早期治療(発症7日以内)が、唯一予後に関する因子であった。
考察:
化膿性筋炎は、もはや熱帯地方に特有の病気ではない。発症から治療開始までの日数が予後に関連する。身体所見、炎症反応は、診断の特異度が低く、化膿性筋炎・化膿性関節炎・骨髄炎・その他の疾患を判別することが難しい。MRIは、化膿性筋炎の診断において、より感度が高く、早期でも診断が可能である。股関節の化膿性関節炎が疑われる症例では、超音波検査を行うべきであるが、関節炎の診断に至るような所見がない場合には、MRIが考慮される。早期診断が、予後を改善する。
もう少し論文の内容を詳しく見ます。
平均年齢は、7.5歳ですが、生後1週間の新生児でも罹患することがあります。新生児・乳児では、おむつを交換する時に嫌がるなどがヒントになります。
Kocherのクライテリア(症状と血液検査)では、化膿性股関節炎と化膿性筋炎の区別は非常に難しいことが分かります。
<Kocherのクライテリアとは>
(1)発熱
(2)体重を負荷しない
(3)ESR 40mm/hr以上
(4)WBC 12,000/μL以上
上記4項目のうち、3項目以上を満たせば、化膿性関節炎の可能性が93%以上であるという予測式です。(J Pediatr Orthop. 2017;37:e114)
本論文中で、後遺症を残っしたのは、3例で、発症から治療開始までの日数は、8日、10日、13日でした。起炎菌は、MSSA(27例)が多く、MRSAは1例のみです。41例中32例の原因菌が判明していますが、原因菌が判明したのは2/3程度という論文もあります (Pediatr Infect Dis J. 2015;34:1)。そのため、MRSAを絶対カバーするかは悩ましいところです。バンコマイシンを開始した場合、血液培養が陰性なら、いつまで継続するか悩みます。。
以下は私見です。
日本においては、黄色ブドウ球菌の4割程度がMRSAで市中発症のMRSA感染症もそれなりに多いです。そのため、重症例、新生児を含む免疫不全者、医療曝露歴があれば、個人的には、第3世代セフェム+バンコマイシンで治療を開始すると思います。
しかし、それほど重症でない市中発症例については、セファゾリンで治療を開始して、治療反応を見るのが良いのでは無いかと思います。