小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

培養陰性の化膿性関節炎ではKingellaを考える

 原因菌検索のためのPCR検査の有用性に関する論文です。化膿性関節炎の原因菌は、黄色ブドウ球菌などが多いですが、小児においては、Kingella kingaeを外すことは出来ません。しかし、この菌はなかなか発育しないため、培養陰性の感染炎の症例の中にも、Kingellaの関節炎が紛れていることが考えられます。
 カナダから、培養陰性の関節液のPCRをやってみた報告です。
 
要点
・16S rDNA PCRを実施することにより、培養陰性の関節炎・骨髄炎の14-26%の割合でK. kingaeが検出される。
・Kingella kingaeは、黄色ブドウ球菌に次ぐ小児の関節炎・骨髄炎の原因菌になる。
・Kingella kingaeの関節炎の症例は、低年齢に多く、CRPが上昇しない症例が多かもしれない。
・培養陰性の化膿性関節炎では、PCR検査で原因菌の同定を試みる価値がある。
 
Polymerase chain reaction detection of Kingella kingae in children with culture-negative septic arthritis in eastern Ontario
Slinger R, et al. Paediatr Child Health. 2016;21(2):79.
 
背景:
Kingellaは培養で検出が難しく、分子生物学的手法での検出が優れているため、カナダの小児化膿性関節炎の原因として十分に認識されていない可能性がある。
 
目的:
 オンタリオ州東部において、小児の培養陰性となった関節穿刺液中にKingellaが存在するかどうかPCR法を用いて調べる。
 
方法:
 オンタリオ州オタワ小児病院で2010年から2013年までに採取された培養陰性関節液の残検体を用いて、K. kingaeのPCR検査を実施した。K. kingaeによる化膿性関節炎を発症した小児の臨床的特徴を、黄色ブドウ球菌およびA群溶連菌による化膿性関節炎と比較した。
 
結果:
 研究期間中に計50例の関節液検体が提出された。そのうち10例が培養陽性、8例が黄色ブドウ球菌、2例がA群溶連菌であった。培養陰性の40検体中27検体で残検体があり、7検体(25.9%)でPCR法によりK. kingaeが検出された。Kingellaが原因菌の症例は、他の細菌に比べて年齢が低く(年齢中央値1.7歳 vs. 11.3歳、P=0.01)、CRPが低かった(中央値23.8mg/L vs. 117.6mg/L、P=0.01)。
 
結論:
 小児の培養陰性関節液検体からPCR法を用いてK. kingaeが高頻度に検出された。小児の培養陰性化膿性関節炎において、K. kingaeのPCR検査が必要であると考えられた。

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少し古い論文ですがこちらも似た論文です。
 
Contribution of a Broad Range Polymerase Chain Reaction to the Diagnosis of Osteoarticular Infections Caused by Kingella kingae Description of Twenty-four Recent Pediatric Diagnoses
Verdier I, et al. Pediatr Infect Dis J. 2005; 24(8):692.
 
背景:
小児の化膿性関節炎・骨髄炎の微生物学的診断は、血液・骨関節液培養から原因菌が判明しないことも多い。
 
患者と方法:
 2001年1月から2004年2月までの間に骨関節感染症(OAI)で小児科病棟に入院した患者が本研究に登録された。培養陰性の骨関節液・生検検体を使用し、universal 16S ribosomal DNA primerを用いたPCR検査を行った。
 
結果:
 171名の小児患者が登録された。64例(37.4%)は培養陽性となり、うち9例でKingella kingaeが検出された。培養陰性の107例を16S rDNA PCR検査した。15検体(14%)が陽性となり、15検体のすべてKingellaが検出された。OAIの原因菌は、黄色ブドウ球菌(38%)が最も多く、次いでK. kingae(30.4%)が多かった。培養で診断されたKingella症例(9例)は,PCRで診断された症例(15例)と臨床的特徴(抗菌薬投与歴を含む)に差はなかった。関節炎(n = 17)・骨髄炎(n = 7)を発症した24例の小児の特徴は、他の報告で報告されているものと同様であった。関節炎では、発熱(>38℃)が多く、症状発現から入院までの期間(中央値、4.5日)が短かった。
 
結論:
 16S rDNA PCRを用いることで、小児の化膿性関節感染症におけるK. kingaeの同定が可能となる。
 

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 171例中、92例はどうしても原因菌は不明のままとなります。しかし、培養陰性の15例(14%)の原因菌が判明するのは大きいと思います。
培養で検出された9例のK. kingaeについては、アモキシシリン、ピペラシリン、セフォキシチン、セフォタキシム、セフタジジム、イミペネム、ST合剤、シプロフロキサシン、アミカシンなどへの感受性は良好でした。