小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

定期的な気管分泌物培養はVAPの抗菌薬選択に役立つ

 人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、小児PICUにおける、重篤な合併症です。緑膿菌MRSAなど耐性菌も考慮した抗菌薬が選択されることが多いですが、どうしても広域抗菌薬が選択されがちです。
 気管内挿管中は、小児では例外的に良い喀痰検体が採取できるので、定期的に気管内の定着菌を調べておけば、VAPを発症した時に、よりターゲットを狭めた治療ができるのではないかというフランスの研究です。
 
要点
・隔週で気管内分泌物の培養を実施した。
・実施後は、VAPを発症した患者により境域抗菌薬、最適な抗菌薬が選択される割合が増加した。
 
Systematic Endotracheal Aspiration in the Pediatric Intensive Care Unit Reduces Broad-spectrum Antibiotic Use for Ventilator-associated Pneumonia
Pediatr Infect Dis J . 2022 Jul 1;41(7):544-548.
 
【目的】
人工呼吸器関連肺炎(VAP)に対する初期抗菌薬治療において、人工呼吸器装着患者に対して隔週での気管内吸引(ETA)検体採取の影響を明らかにすること。
 
【研究デザイン・場所】
後方視的コホート研究。三次医療施設のPICU(内科・外科16床)で実施。
 
【対象者】
PICU に入院中の 16 歳未満の VAP 基準該当者。
 
【介入】
人工呼吸器装着中の患者を対象に、隔週でETA検体採取を実施した。
 
【アウトカム評価】
VAPの疑いで抗菌薬治療を受けた患者を対象に、系統的ETA開始の前後12カ月間(第1期、第2期)を後方視的に分析し、両期で初期抗菌薬を評価した。
 
【結果】
第1期で56例、第2期で47例がVAPを発症した。両期間ともVAP発症率は17例/1000人工呼吸日数であった。最適な抗菌薬が処方されたのは第1期で19.6%、第2期で55.2%であった(P=0.001)。第1期と比較し、第2期ではVAPに用いられた初期抗菌薬のうち、広域抗菌薬が占める割合は有意に低かった(P=0.01)。
 
【結論】
研究を実施したPICUでは、気管内に定着した細菌に関する情報があれば、VAPに対する広域抗菌薬の初回使用率が低下することが示された。