小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児AMLの好中球減少に対してセフェピム予防投与

 小児白血病治療中の好中球減少性発熱(FN)は、大きな問題で、血流感染症の死亡率は高いです。フルオロキノロンの予防投与が、小児のAMLや再発ALLで強度の化学療法中に推奨されますが、国内では、キノロン系抗菌薬が小児禁忌(一部は除く)のため、使用しにくい状況が続いていました。(前任地では、ピペラシリンを使用したり、予防的には抗菌薬を使用しないというポリシーの病院もありました。)
 また、キノロン系抗菌薬の使用により、ビリダンス属レンサ球菌の耐性化が進行するというデメリットがあることも分かっています。
 この研究は米国テキサス州の小児医療施設で実施された後方視的研究です。好中球減少が始まった時点から、セフェピムを予防的に投与することで、血流感染症やFNが現象するかを見ています。これまでも、セフェピムを予防的にした研究はありましたが、この研究は、14年間という長期間にわたり、好中球減少に対して予防投与を検討した、症例数も多い研究になります。
 この手の研究は、患者個人の利益のみならず、長期的にみて院内の耐性菌が増加するなど、影響を考える必要があると思います。しかし、キノロンが使いにくい国内では、セフェピム予防投与により、血流感染やFNが減少し、PICUに入室する重症例が減るのは、良いことと思います。
 
要点
・小児AMLに対して、好中球減少時にセフェピム予防投与を導入した。
・前後で、血流感染症は6割減少し、FNも減少した。
・一方、CDIの増加は気になる点。
・抗菌薬は、ピペラシリン・タゾバクタムが減った。
 
Retrospective Observational Assessment of the Impact of Cefepime Prophylaxis in Neutropenic Pediatric Patients With Acute Myelogenous Leukemia.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Aug 31;12(8):471-476.
 
背景
 急性骨髄性白血病(AML)の小児患者において、セフェピム予防投与により血流感染症(BSI)が減少するかについては、明らかにされていない。
 
方法
 本研究は、米国(テキサス州)の2つの小児3次医療施設において、2010年から2018年の期間に、AMLで入院した21歳未満の患者を対象とした。高度の好中球減少時に発熱のないAML患者に対してルーチンでセフェピム予防投与を導入した前後の後方視的研究である。
 
結果
 好中球減少日数1,000日あたりのBSI発生率は、ベースライン群と比較し、予防投与群で有意に低かった(2.6 vs 15.5、発生率比[IRR]0.17、95%CI 0.09-0.32)。時系列解析でも、BSIの急激な減少と予防投与の実施の時期が一致していることが示された。ビリダンス属連鎖球菌による菌血症は、ベースライン群では頻繁に経験されたが、予防投与導入後は観察されなかった。セフェピムの使用が増加したにも関わらず、好中球減少日数1,000日あたりのセフェピム耐性菌によるBSIの発生率は減少した(1.6 vs 4.1、IRR 0.40、95%CI 0.16-0.99)。患者あたりの発熱性好中球減少症のエピソード回数も予防投与群で減少し、集中治療室(ICU)入院した患者の割合も減少した(22/51例(43.1%) vs 26/38例(68.4%);リスク差-25.3%、95%CI -44.4~-2.8)。予防投与群では、Clostridioides difficile感染症が増加する傾向が認められた(10/51例(19.6%) vs 3/38例(7.9%);リスク差11.7%、95%CI -3.4~29.0)。
 
結論
 セフェピム予防投与は、小児AML患者におけるBSI、発熱性好中球減少症、およびICU入室の有意な減少に関連した。
 
本研究のレジメン
・好中球数が 500/μL未満に減少したら、
 セフェピム50mg/kgを12時間毎投与(最大2g/回)
・好中球が回復するまで投与する。
 

予防投与開始前後での比較。明確に血流感染症が減少した。

 

FNの回数も減っている

患者背景
Baseline Group (n = 38)
Prophylaxis Group (n = 51)
好中球減少
 
 
 1患者あたりの日数, 中央値 (IQR) 
88.5 (66–117.8) 
80 (65–102) 
 1患者あたりの回数, 中央値 (IQR) 
4 (3–4) 
3 (2–4) 
好中球減少性発熱(FN)
 
 
 1患者あたりの回数, 中央値 (IQR)
3 (2–4) 
1 (1–2) 

 

 使用した抗菌薬については、当然ながらセフェピムが激増している。一方で、ピペラシリン・タゾバクタムやキノロンは大幅に減少しており、バンコマイシンも半減している。一方、メロペネムは倍以上に増加した。このあたりの事情は書かれていない。合計の抗菌薬使用量に関しては、ほとんど変化がない。

 このあたりを上手くマネージメントできれば、広域抗菌薬の使用を減らせるかもしれない。

抗菌薬
DOT
per 1000 neutropenia days
ベースライン
セフェピム予防投与
セフェピム
84.4
778.9
ピペラシリン・タゾバクタム
555.8
89.6
メロペネム
48.1
109.4
シプロフロキサシン
17.0
7.8
レボフロキサシン
20.5
2.1
アミカシン
62.4
0.2
バンコマイシン
218.1
125.6
合計
1153.6
1165.6

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov