小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

口蓋裂の手術は生後6ヶ月が生後12ヶ月よりも良い

 今回は、感染症とは関係のない小児科の話題です。口蓋裂は、比較的よく遭遇する疾患で、当院でも形成外科で多く手術されています。手術時期については、あまり詳しくなかったのですが、ベストなタイミングについて意見が割れていたようです。
 今回、ヨーロッパと南米の多施設研究で、生後6ヶ月に実施したほうが、口蓋帆咽頭機能不全が少ないことがわかりました。
 口蓋裂の子供たちの、予後改善につながる素晴らしい成果だと思います。
 
 口蓋帆咽頭機能不全とは、発話中に口蓋帆(軟口蓋)が咽頭後壁(喉の後壁)に対して閉じることができないために、鼻過多症(共鳴障害)および/または発話中に鼻音が聞こえる(言語言語障害)につながります。(要は、上手く発音ができない)
 さらに、ほとんどの子音を生成するための空気の流れが不十分であるために、子音が弱められたり省略されたりすることがあるそうです。 
 
Timing of Primary Surgery for Cleft Palate.
N Engl J Med. 2023 Aug 31;389(9):795-807.
 
背景
 合併症のない口蓋裂の乳児において、生後6ヵ月と12ヶ月で根治手術を行う場合、どちらが言語、聴力、歯・顔面の発育、安全性の面で良いかは、分かっていない。
 
方法
 非症候性の口蓋裂の乳児において、標準化された根治手術を生後6ヵ月で受ける群(6ヵ月群)と、生後12ヵ月で受ける群(12ヵ月群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。1歳、3歳、5歳の時点で、ビデオ・音声記録により標準化された評価を行い、手術時期を知らない言語療法士によって評価が行われた。主要アウトカムは、5歳時の口蓋帆咽頭機能不全であり、閉鎖不全スコアが4点以上(スコアは0~6点の範囲で、スコアが高いほど重症であることを示す)と定義した。副次的転帰として、発語、術後合併症、聴覚、歯。顔面の発育、成長が含まれた。
 
結果
 ヨーロッパと南米の23施設で、生後6ヵ月で手術を受ける乳児(281人)と生後12ヵ月で手術を受ける乳児(277人)を無作為に割り付けた。6ヵ月群の235人(83.6%)と12ヵ月群の226人(81.6%)の音声記録が解析可能であった。5歳時の口蓋帆咽頭機能不全は、6ヵ月群では235人中21人(8.9%)に対し、12ヵ月群では226人中34人(15.0%)に認められた(リスク比、0.59;95%信頼区間、0.36~0.99;P=0.04)。術後合併症の頻度は低く、6ヵ月群と12ヵ月群で同様であった。4件の重篤な有害事象が報告され(6ヵ月群で3件、12ヵ月群で1件)、追跡調査時には改善していた。
 
結論
 十分な医療資源がある環境では、生後6ヵ月で口蓋裂の根治手術を受けた児は、生後12ヵ月で手術を受けた乳児に比べ、5歳の時点で口蓋帆咽頭不全になる可能性が低かった。