壊死性筋膜炎は、小児では極めてまれな疾患です。そのため、まとまったデータは少なく、成人の教科書の記載が、しばしばそのまま引用されています。しかし、小児には小児の特徴があり、注意するべき点がいくつかあります。
これ1本で、小児の壊死性筋膜炎のすべてが分かるような、素晴らしいレビュー記事です。
要点(成人との違いをメインに)
・0−2歳と、10歳前後に発症のピークがある
・感染症(特に水痘)が先行することがある
・新生児・乳児では体幹に多い(個人的には臍炎からの発症例を経験しました)
・顔面も発生部位として少なくない
Diagnosis and Treatment of Pediatric Necrotizing Fasciitis: A Systematic Review of the Literature
研究の方法
小児の壊死性筋膜炎(NF)について、2010年1月以降に英語で出版された論文に限定して、システマティックレビューを行った。0−16歳の小児が対象で、論文を2名の著者が独立して評価した。
結果
91例の研究がスクリーニングされたが、最終的に32論文の53症例について検討を行った。
1. 年齢と性別
53例中、29例(54.7%)が男児だった。平均年齢は5.27歳。生後1ヶ月未満が最も多かった。2歳をすぎると発症は減るが、10歳前後にも発症のピークがある。
2. 発症要因
発症のリスク因子は、鈍的外傷12例(22.6%)(うち、2例は骨折)、先行する感染症7例(うち、3例は水痘)。皮膚病変は12例にあり、刺傷3例、咬傷3例(昆虫とイヌ)、手術2例、小さな膿瘍3例、皮疹1例、BCG接種1例。免疫不全に関する基礎疾患を有していたのは、8例で、悪性腫瘍、先天性免疫不全症、血液疾患、ネフローゼ症候群であった。他に、4名が肥満、2例が早産児であった。
3. 症状
初発症状は、発熱、紅斑、圧痛、疼痛であった。紅斑は、23例で言及があり、「発赤」、「皮膚の変色」、「紫斑」、「赤紫色の変色」などと表現されていた。圧痛は、16例が訴えていたが、病変部位外の疼痛を含めると25例に疼痛があった。意識障害4例、全身状態の悪化4例、嘔吐4例であった。最も一般的な症状(発熱,紅斑,圧痛,腫脹,疼痛)は、すべての年齢層で認めるが、意識障害、全身状態の悪化は11歳以上の症例では無かった。嘔吐も5歳以下の症例のみであった。新生児は、皮膚の局所的な変化(紅斑、浮腫、腫脹)で受診していた。
発熱は、多くの症例で報告され、平均体温39.3度であった。4例は発熱を認めなかった。頻脈13例、血圧低下12例が報告されている。臨床検査所見は、白血球数上昇が多くで見られるが、8歳未満については、あまり多くはない。3名は白血球減少が見られた。CRP上昇は13例で記載があった。
4. 発生部位
発生部位は、四肢が最も多く、下肢20名、上肢6名であった。体幹は18名で、胸壁5名、腹壁4名、臀部4名、鼠径部2名、背部・側腹部・腋窩が各1名であった。顔面は、6例であった。内訳は、眼窩周囲が3例、口唇1例、顔面全体が2例であった。5例は、外性器であった。新生児9例のうち、7例は体幹に発症した。うち、2例は外性器から発症し、体幹に拡大した。10歳以上では、四肢が多かった(10例中8例)。残り、2例は顔面であった。
5. 原因微生物
原因微生物は、53例中50例で報告されている。44例が単一菌種、4例が複数菌であった。2例は、有意な菌の発育はなかった。1例が新生児の壊死性腸炎から、ムコール感染症となり、壊死性筋膜炎になった。レンサ球菌とブドウ球菌が最多であった。A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)が14例、B群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)およびG群溶血性レンサ球菌が各1例であった。14例が黄色ブドウ球菌であった。うち、9例がMRSAであった。緑膿菌は、3番目に多い原因菌(7例)であった。基礎疾患を有する児に多かった。他には、大腸菌、ビブリオ、Chromobacterium violaceum、Arcanobacterium haemolyticumなどが報告された。
6.治療
経験的抗菌薬のレジメンの記載があるのは、33例。23例が広域抗菌薬を使用していた。19例が抗MRSA薬を使用した。22例で、緑膿菌に活性がある薬剤が使用されていた。外科的処置は、デブリドマンが中心であった。VAC療法は6例に使用された。皮膚移植11例など、皮膚の欠損と位置により色々な再建手術が行われた。切断を行ったのは7例であった。44例が生存、8例が死亡した。