小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

抗菌薬に整腸剤を併用する意義は?

 抗菌薬の副作用として、抗菌薬関連下痢症(antibiotics associated diarrhea: AAD)は、よく起きます。抗菌薬により腸管内の正常細菌叢が乱されて起きると考えられており、整腸剤は一定の役割を果たすのでは無いかと考えられてきました。
 しかし、どの銘柄が良いとか、適切な投与量とかに関しては、エビデンスが十分では有りません。
 今回の研究は、ビフィズス菌など8種類の菌を混合したプロバイオティクス(整腸剤)を使用したものです。小児に対して、抗菌薬を使用する時には、明らかなAADは減らないものの、下痢の頻度は減ったようです。
 
Multispecies Probiotic for the Prevention of Antibiotic-Associated Diarrhea in Children A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2022;176(9):860-866.
 
意義:抗菌薬関連下痢症(AAD)の予防における多種類のプロバイオティクス製剤の有効性は、明らかではない。
 
目的:小児の AAD に対する多種類のプロバイオティクスの予防効果を評価すること。
 
方法:本研究は、無作為化四重盲検プラセボ対照試験である。2018年2月から2021年5月まで、複数施設の入院患者および外来患者を対象に実施された。適格基準は、年齢3カ月~18歳、広域スペクトラムの抗菌薬の全身投与開始後24時間以内の患者である。合計で646人の候補者に対し、350人の患者が試験に参加した。使用した製剤は、Bifidobacterium bifidum W23, Bifidobacterium lactis W51, Lactobacillus acidophilus W37, L acidophilus W55, Lacticaseibacillus paracasei W20, Lactiplantibacillus plantarum W62, Lacticaseibacillus rhamnosus W71, and Ligilactobacillus salivarius W24からなる多菌種を含むプロバイオティクスである。抗菌薬投与中および投与後 7 日間、1日あたり100 億cfu (colony-forming units)を1回投与した。主要アウトカムは、AADの発生である。AADは、24時間以内に1日3回以上の軟便または水様便を発症し、一般的な下痢性病原体が除外され、Clostridioides difficileまたはその他の原因不明の疾患と定義した。副次的アウトカムには、全ての下痢症状、下痢の期間、および下痢の合併症とした。
 
結果:合計350名の小児(男児192名、女児158名、平均年齢50[3-212]か月)が無作為化された。313名がintention-to-treat解析に組み入れられた。プラセボ(n=155)と比較して、プロバイオティクス(n=158)はAAD発症率に影響を及ぼさなかった(相対リスク[RR]、0.81;95%CI、0.49-1.33)。プロバイオティクス群は、全ての下痢症状のリスクが有意に低かった(RR,0.65;95%CI,0.44-0.94)。有害事象を含む副次的アウトカムのほとんどで、差は認めなかった。
 
結論:多菌種のプロバイオティクスは、小児におけるAADのリスクを減少させなかった。しかし、抗菌薬治療中および治療後7日間の全ての下痢のリスクを減少させた。AADの定義が臨床試験結果とその解釈に大きな影響を与えることが示唆された。
 
アウトカム
プロバイオ
ティクス群
相対リスク
(95% CI)
抗菌薬関連下痢症
14.6%
18.1%
0.81 (0.49-1.33)
全ての下痢症
20.9%
32.3%
0.65 (0.44-0.94)