小児感染症科医のお勉強ノート

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小児のカンジダ血症について知っておくべきこと

 カンジダ血症は、一般小児科をやっているとあまり遭遇することはありませんが、基礎疾患を有する小児や重症の小児を診療している施設では、比較的よく経験します。
 血培からカンジダが生えたとき、困らないように、「小児のカンジダ血症について知っておくべきこと」をまとめました。
 
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Candidemia in children: Epidemiology, prevention and management
Mycoses. 2018;61:614
 
  1. 小児のカンジダ血症の疫学
カンジダ血症は、小児の血流感染症の3 or 4位。意外に多い。
 (コアグラーゼ陰性ブドウ球菌黄色ブドウ球菌>腸球菌に次ぐ)
血液培養からカンジダが検出された場合、決してコンタミではない。(これ、本当に重要です。)
・ヨーロッパでは、死亡率の高い小児感染症の第2位。
・PICU入室者1000名あたり、5名が発症する。30日死亡率は20%程度。
・台湾の報告(319症例)では、7日死亡率は13.4%、30日死亡率は25.2%。
・歴史的には、新生児と1歳未満の乳児がリスクが高い。(成人より発症率高い)
・更に、PICUに入室する先天性心疾患、心臓血管手術を受けた患者に多い。
 
  1. カンジダ血症の起源
・皮膚由来か消化管由来か、論争の的になるテーマ。
・通常、重症患者・免疫不全者では、カンジダ血症の由来は、消化管と考えられる。(分子学的な系統解析による。)
 
  1. Candida albicansからnon-albicansへのシフト
C. albicans, C. parapsilosis, C. glabrata, C. tropicalis, C. kruseiの5菌種で、分離されるカンジダの90%以上を占める。
・近年、C. albicansの分離頻度が低下し、non-albicans Candida species (NAC)が増えている。
・NACによるカンジダ血症が54.4%との報告もある。
・C. glabrata:造血幹細胞移植後の患者において重要な起炎菌。高齢者にも多い。
・C. parapsilosis:新生児・乳児でCVカテーテルから完全静脈栄養(TPN)を行っている患者において重要な起炎菌。皮膚に常在しやすい。ステロイド投与や好中球減少などの免疫不全者には少ない。乳児のカンジダによるカテーテル関連血流感染症の起炎菌の第1位というセンターもある。比較的死亡率が低い報告が多い。
・C. tropicalis:好中球減少、血液悪性腫瘍患者のカンジダ血症に関連。インドのPICUで多い。
・C. krusei:高齢者で、外科手術を受けた患者やフルコナゾールによる予防投与を受けていた患者に多い。死亡率が高い。
・C. auris:多剤耐性のカンジダ。アジア、アフリカ、南米などから院内感染の起炎菌として報告。
・小児において、C. albicansとNACのカンジダ血症で死亡率に有意な差はない。
 
  1. リスク因子
・新生児:未熟性、ICU入院、経静脈栄養、呼吸器疾患・人工呼吸管理
・小児:悪性腫瘍、好中球減少、神経疾患、ステロイド使用
・他の研究では、PICU入室、固形臓器移植後、CVカテーテル留置、バンコマイシンの使用、嫌気性菌に対する抗菌薬の使用(過去2週間に3日間以上)などもリスク因子として報告
カンジダが他の部位に定着していることがカンジダ血症のリスク因子。
 
  1. PICUでのカンジダ血症
・発生頻度は1000入院あたり6.9例という報告がある。
・基礎疾患は、血液悪性腫瘍、先天性心疾患が多い。
・死亡率22%(うち直接死因となるのは5%)。
・NACが多い(54.6%)。
 
  1. CVカテーテル(CVC)とカンジダ血症
・経皮的にシリコン製のCVCはリスク高い。
・CVポートはリスク低い。
・新生児のカンジダ血症の58%、小児の70%が、カテーテル由来。
カンジダ血症の感染巣が、CVCなら、可及的速やかに抜去するべきである。
カンジダ血症で、CVCを温存するか抜去するかで、死亡率に影響があるかをみたランダム化比較試験はない。
・しかし、73研究のレビューでは、40研究で抜去したほうが良い、33研究で明確な差はない、温存の方が良いとする研究はなかった。
エタノールロック療法と抗真菌薬で、温存に成功したというケースレポートは、少しある。(が、基本的には、抜去が必要。)
 
  1. CVCのバンドルアプローチ
・米国では過去10年間に、CLABSIによるカンジダ血症は減少した。
・CLABSIの予防バンドルの遵守率が、カンジダ血症の発生率に有意に関連する。
・手指衛生にはじまるCLABSIの予防ガイドラインを導入するべきである。
 
  1. 抗真菌薬の予防的投与に関して
・抗真菌薬の予防的な投与は、カンジダ血症の頻度は減らすが、死亡率を減少させるエビデンスはない。
・たとえ重症であっても、抗真菌薬の予防的投与は議論がある。
 
  1. カンジダ血症を予防する他の方法
・プロバイオティクスにより、カンジダ保菌やカンジダ尿症が減少した報告がある。
・広域抗菌薬投与を受ける重症の小児例を対象として、プロバイオティクスが、カンジダ血症を減らすというエビデンスはない。
・クロルヘキシジン入浴は、重症児で菌血症を減少させることが証明されているが、カンジダ血症に関してはほとんど効果がない。
 
カンジダ血症を予防するための提案
・CVCのタイプを注意深く選択する(シリコン製CVCを避ける、可能ならポート)
・CVC挿入時と挿入中は、毎日、チェックリストに沿った感染予防バンドルを実施する
・手指衛生の遵守率を厳しく評価する
・毎日、カテーテルの必要性について評価を行う
・毎日、抗菌薬の必要性について評価を行う
・正常な腸管内細菌叢を維持するための努力を行う
・抗菌薬含浸カテーテルの仕様について、リスクとベネフィット、コストについて評価を行う
・抗真菌薬の予防投与について、患者ごとにリスクとベネフィットについて評価を行う。
 
  1. 小児カンジダ血症の治療
エキノキャンディンは、殺菌的な抗真菌薬でバイオフィルムへの浸透も良いため、使用されるケースが増加している。
・ヨーロッパ(ESCM)では、侵襲性カンジダ感染症に対して、カスポファンギン、ミカファンギン、アムホテリシンBリポソーム製剤は、A- I grade。
・米国(IDSA)でも、エキノキャンディンが好まれるが、血液培養が陰性化して5−7日経過したら、フルコナゾールやボリコナゾールへのstep-downが推奨される。(アゾール系が有効な菌種のみ)
・治療期間は、症状が消失し、かつ、血液培養陰性化から2週間が基本となる。