小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

原因菌不明の感染性心内膜炎に弁のbroad-range bacterial PCRは有効

 感染性心内膜炎は、死亡率が高く、原因菌に合わせた適切な抗菌薬治療と必要なタイミングでの外科治療が重要な病気です。
 先日、感染性心内膜炎の初期治療をまとめましたが、治療を始めたのに血液培養が陽性にならないと、原因菌不明のまま、広域抗菌薬がやめられないという事態になります。
 今回の研究は、ドイツの施設で、感染性心内膜炎で摘出した弁を検体としてbroad-range PCRを行い、真の原因菌がどれくらい見つかるのかを検討したものです。
 
要点
・血培で真の原因菌が見つかるのは約半分 (77例/146例)
・血培陰性例の約4割(19例/46例)でPCR陽性になる
・血培陽性でもコンタミかどうか判定できない症例の6割以上 (15例/23例)で真の原因菌が分かる。
・真の原因菌は、Coxiellaなど培養が難しい菌が結構含まれる。
 
The diagnostic benefit of 16S rDNA PCR examination of infective endocarditis heart valves: a cohort study of 146 surgical cases confirmed by histopathology
Armstrong C, et al. Clin Res Cardiol. 2020 Jun 2.
 
 
目的
感染性心内膜炎(IE)疑いの患者の診療において、最適な治療するために原因微生物の特定は非常に重要である。血液培養と摘出した弁の培養検査が診断の中心であり、培養だけに依存しない方法で補完することも必要である。我々は、培養不可能、培養陰性、あるい血液培養から皮膚常在菌が検出されIEの原因菌を検出できない場合に、摘出された心臓の弁をbroad-range bacterial PCR法で検査し、原因菌を検出する方法の有用性を評価した。
 
方法と結果
ハイデルベルク大学病院から2015年から2018年の間に、心内膜炎の疑いがあり、弁置換術を行い、16S rDNA PCRによる解析を行った患者を対象に評価した。弁の肉眼的・病理学的検査でIEの診断が確定した患者146人を対象とした。摘出した弁のPCRは、血液・弁培養の結果と比較した。PCRは146例中34例(23%)で診断上の有益であり、弁培養よりも感度が高かった。血液培養・弁培養の両方が陰性であった38例中19例で、弁PCRが唯一の診断法であった。血液培養から皮膚常在菌が検出された23例中4例で弁PCからより原因菌の可能性が高い病原体が検出され、23例中11例は、PCRで血液培養で検出された常在菌が真の病原体として確認された。残りの8例のみが、PCRが陰性であった。
 
結論
IEで血液培養が陰性または陽性でも真の原因菌か不明な場合に、摘出した弁のPCRが有用な診断ツールとなる。
 

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(a)の「血培で皮膚常在菌」→「PCRでも皮膚常在菌」が確定するパターンもありがたいですが、
(b)や(c)のように「血培陰性またはコンタミ、弁培養陰性絵」→「真の原因菌判明」が多いのが素晴らしいです。
 Tropheryma whipplei, Coxiella burnetii, Abitrophia defectivaなど、培養が難しい菌が結構出てくることに驚きます。ドイツと日本で疫学の違いもあり、CoxellaやWhipple病がそれなりに多いんだと思いますが、日本ではここまで診断できていないだけなのかもしれません。