小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児へのプロトンポンプ阻害剤(PPI)の使用は、重症感染症のリスクを増加させる

 プロトンポンプ阻害剤(PPI)が、Clostridioides difficile感染症の原因になることは有名ですが、その他にも色々な弊害があることが示唆されています。

 これまで、小児では、PPIと骨折・急性腎障害・アレルギー・喘息・炎症性腸疾患との関連が指摘されてきました。(論文の本文より。知らなかった…)

 今回は、PPIと重症感染症の関連があるかを調べたフランスからの報告です。

 

要点
PPI使用により、重症感染症のリスクは約1.3倍になる。
・消化管以外にも、いろんな部位の感染症が増加する。
・ウイルス感染症も細菌感染症も増える。
・理由としては腸内細菌叢の変化や、胃酸による殺菌作用が無くなる、好中球機能が低下するなど色々考えられています。

結論

必要ないのにPPIを使わない!

 

Proton Pump Inhibitor Use and Risk of Serious Infections in Young Children.
JAMA Pediatr. 2023 Aug 14:e232900.
 
はじめに
 プロトンポンプ阻害薬PPI)は、常在細菌叢の変化または免疫系への作用により感染症を引き起こす可能性があると考えられている。しかし、小児を対象とした研究は少なく、一定の結果が得られていない。
 
目的
 PPI使用と小児における重症感染症との関連を評価すること。
 
方法
 本研究は、フランス保健データシステム(SNDS)から構築された母子EPI-MERES登録に基づいて行われた全国コホート研究である。2010年1月1日から2018年12月31日までに出生し、胃食道逆流症または胃酸関連疾患に対する治療として、PPIH2ブロッカー、制酸薬/アルギン酸塩の投与を受けたすべての小児を対象とした。重症感染症PPI使用との関連は、Coxモデルを用いて調整ハザード比(aHR)および95%CIにより推定した。
 
結果
 1,262,424人の小児(追跡期間中央値[IQR]、3.8[1.8-6.2]年)の内、PPI投与を受けた606,645人(男児323,852人[53.4%]、年齢中央値[IQR]、88[44-282]日)とPPI投与されなかった655,779人(男児342,454人[52.2%]、年齢中央値[IQR]、82[44-172]日)が対象となった。PPI投与により、重症感染症のリスクが上昇した(aHR、1.34;95%CI、1.32-1.36)。部位別では、消化管(aHR、1.52;95%CI、1.48-1.55)、耳鼻咽喉領域(aHR、1.47;95%CI、1.41-1.52)、下気道感染(aHR、1.22;95%CI、1.19-1.25)、腎尿路感染(aHR、1.20;95%CI、1.15-1.25)、神経系(aHR、1.31;95%CI、1.11-1.54)でのリスクの増加が確認された。細菌感染(aHR、1.56;95%CI、1.50-1.63)およびウイルス感染(aHR、1.30;95%CI、1.28-1.33)の両方についても、リスクが増加した。
 
結論
 本研究において、PPIの使用は小児における重篤感染症のリスク増加と関連した。プロトンポンプ阻害薬は、小児において明確な適応がない限り使用すべきではない。

 

 

 大規模なデータセットから、PPIが重症感染症のリスクのリスクとなることがわかります。あまり良く使う薬剤では有りませんが、好酸球性消化管疾患などでも使用が増えてきており、今後、注意が必要な知見かと思いました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov