小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

心臓外科手術のSSI予防は、閉創時の抗菌薬血中濃度が重要

 外科手術を行う際には、皮膚切開の前に予防的抗菌薬を投与します。皮膚切開を行う時に、血中濃度が十分に高ければ、そこから創部に菌が入らないという理屈です。心臓外科手術後の創部感染(SSI)は、縦隔炎や胸骨骨髄炎など重篤なケースが多く、入院期間の延長や医療コストの増加などが問題となります。
 本研究は、心臓外科手術(成人)において、術中のセファゾリン血中濃度を測定し、SSIのリスク要因を見たものです。セファゾリン血中濃度を測定することは、現状では、厳しいのですが、術中も常に必要な血中濃度をできれば、SSIも減ることが期待できるかもしれません。
 
要点
 心臓外科手術後のSSI予防には、閉創時のセファゾリン血中濃度が重要で、104mg/Lを維持できるようにする。
 
Antimicrobial Prophylaxis for Patients Undergoing Cardiac Surgery: Intraoperative Cefazolin Concentrations and Sternal Wound Infections.
Antimicrob Agents Chemother. 2018 Oct 24;62(11):e01360-18.
 
要点
本研究は、心臓手術後の胸骨創部感染と予防的抗菌薬の薬力学の特徴を明らかにするために実施した。手術時間と閉創時のセファゾリン血中濃度が、30日後の手術部位感染(SSI)と独立して関連していた。手術時間346分以上閉創時のセファゾリン血中濃度104mg/L未満が、感染リスクが有意に増加する閾値であった。この研究は、人工心肺を用いた心臓手術を受ける患者における効果的な予防的抗菌薬(AP)の投与戦略に役立つ新たなデータを提供する。
 
概要
・人工心肺(CPB)を使用する待機的心臓手術(2014年8月~2015年5月)におけるセファゾリン予防投与に関する公表された薬物動態試験のデータを用いて、二次的な薬力学的解析を行った。
・患者(CCr≧50 ml/分/72 kg)に、プロトコールに従ってセファゾリン予防投与を行った(皮膚切開前60分以内、手術中は4時間ごと、術後48時間は8時間ごとに投与)。
・初回投与の30分後、手術中の再投与直前、閉創15分以内に血液を採取し、血漿セファゾリン濃度(総濃度)および限外濾過液中セファゾリン濃度(遊離濃度)を測定した。
患者は入院中〜退院後までSSIについてモニタリングされ、抗菌薬投与を必要とするSSIを記録した。SSIの危険因子を単変量解析で検討し、有意な変数(P<0.1)を多変量ロジスティック回帰解析に組み入れ、感染との関連を検証した。
 
・40名の患者(男性62.5%;平均年齢65±10歳;平均体重88.1±16.3kg)が対象となった。
・手術の70%(28/40例)は冠動脈バイパス術、30%(12/40例)は単独の弁置換術/修復術であった。
・平均の術前セファゾリン投与量は23.5±5.4mg/kg、切開35±13分前に投与し、手術時間は278±74分であった。
・閉創時の平均セファゾリン濃度は98.8±55.6mg/lであり(図1)、遊離濃度は32.8±26.2mg/lであった。
・胸骨の表在性SSIが8例発症した。
・閉創時のセファゾリン濃度低値(P = 0.038;オッズ比[OR]=1.3/-10%)、手術時間の延長(P = 0.027;OR = 2.9/1時間の延長)がSSIと関連していた(AUROC = 0.789;95%信頼区間[CI]=0.583~0.996;Hosmer-Lemeshow P = 0.21)(図2)。手術時間が346分以上(60.0%対14.3%)、閉創時セファゾリン濃度が104mg/l未満(30.4%対5.9%)は、SSI増加が有意に増加する閾値であった。
 
結論:本研究は抗菌薬の薬力学、特に閉創時の血漿セファゾリン濃度が効果的な予防的抗菌薬投与に重要な役割を果たすことを支持する。

 

黒丸●がSSIを発症した症例です。1例を除き、血中濃度が100未満に低下しています。

 

 閉創時のセファゾリンの濃度とSSIの発症率をグラフで近似したものです。