小児の先天性心疾患の手術は、非常に高度な技術が必要です。複雑な心疾患では、術後感染のリスクも高く、長期の抗菌薬投与や広域抗菌薬投与がされがちです。ガイドラインには、狭域抗菌薬を術後24時間以内に終了と記載があるものの、厳密に遵守することはなかなか難しいです。
今回、米国のデータから、先天性心疾患の手術で、狭域抗菌薬と広域抗菌薬を使用したときの成績を比較した論文が出たので紹介します。
要点
・CHD手術で、約20%は広域抗菌薬が使用されている。(複雑な症例が多い)
・広域抗菌薬を使用すると、追加の抗菌薬使用が増え、入院期間が延長する傾向がある。
・狭域抗菌薬と広域抗菌薬では、死亡率は変わらない
→標準的な狭域抗菌薬を使用することが望ましい
Broad- Versus Narrow-Spectrum Perioperative Antibiotics and Outcomes in Pediatric Congenital Heart Disease Surgery: Analysis of the Vizient Clinical Data Base. J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Apr 28;12(4):205-213.
背景
先天性心疾患(CHD)手術を受ける小児では、通常、予防的抗菌薬は、狭域抗菌薬(narrow-spectrum perioperative antibiotics(NSPA))が推奨される。しか
し、広域抗菌薬(broad-spectrum perioperative antibiotics(BSPA))が様々な方法で使用されており、術後成績への影響については十分に理解されていない。
方法
Vizient Clinical Data Baseに参加している米国の病院の入院患者データを使用した。2011~2018年の期間に、0~17歳の小児においてCHD手術を実施した入院症例を対象に、BSPAとNSPAへの曝露について評価した。傾向スコアモデルを用いて、交絡因子を調整し、各群の術後在院日数(PLOS)を比較した。副次的評価項目は、追加の抗菌薬治療と院内死亡率であった。
結果
米国24病院の18,088件の症例が対象となった。BSPAはCHD手術の21.4%に投与され、使用率は施設間で1.7%から96.1%と大きな差があった。BSPAを投与された症例の方が、PLOSは長かった(調整HR0.79、95%信頼区間[CI]: 0.71-0.89, P < .0001)。 BSPAは、追加抗菌薬治療が必要となる割合が高く(オッズ比[OR]1.24;95%CI:1.06-1.48)、調整死亡率に有意差はなかった(OR 2.06;95%CI:1.0-4.31;P = .05)。高難度の手術や胸骨二次的閉鎖など、BSPAの使用が最も多いサブグループ解析でも、BSPAがPLOSを有意に短縮するような有益性は認められなかった。
結論
BSPAの使用は、高リスク患者で一般的に行われているが、施設間で大きな差がある。周術期の抗菌薬を施設間で標準化することで、不必要な広域抗菌薬への曝露を減らし、臨床的転帰を改善することができるかもしれない。
本文中の定義